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第181話:セクハラ?

*これは、ぜひ真面目な気持ちで読まないでください。


歳を取ると悪いこともたくさん起こるが、いいこともたくさんあって、簡単に言うと歳とともに「今さら別にどうでもいい」と思えることが多くなり何をするにも気が楽になってきた。

授業も寒いジャグを連発する。
例えば古典の助詞を説明するのに「助詞は現代語と同じ用法がたくさんあるから、現代にないポイントを絞って押えることが大事。これは女の子と付き合う時と同じ」と言うと、「なぜ女の子なんだ?」と怪訝な顔をするので、「助詞は女子だろ」と言うと「くだらん」みたいな顔をする。


そこですかさず「女子と付き合う時のポイントが分るか?」と問う。
生徒は返答する気もないので、こう言う。

まず、女子は記念日を大事にする。誕生日、初めてのデート、初めてキス・・みんな覚えていて男を試す。誕生日は大丈夫だと思うが、初めてデートした日など男は絶対に覚えていない。
しかもストレートには聞いてくれない。「今日は何の日かわかる?」と聞いてくる。でもそれを尋ねられて答えられないと大変なことになる。
あとひとつ気をつけなければいけないのが「変化」。髪の毛を切ったとか、洋服を買ったとか。これも決してストレートには聞いてこない。「何か気が付かない?」と聞いて来る。
疲れているときに込み入った「なぞなぞ」を出されるみたいで鬱陶しいし、たいていの男は鈍感で気が付かないから、せめて一生懸命考えるふりをしなければならない。
この二つをクリアできることが大事。
助詞の勉強も同じ。ポイントはそうは多くない。でも、外せないポイントを外さないことが大事。

と言ってやると、「ばっかじゃねーの」という顔をする。


立て続けに、攻める。

「係助詞」は係の女の子
「副助詞」は副委員長の女の子
「終助詞」は元カノ
「間投助詞」は関東女子高校、間投助詞はだいたい詠嘆なので、これを「関東女子高校で矢沢のエイタンがコンサートを開いた」と覚える。
特に「に」の識別では「格助詞」と「接続助詞」に注意が必要。
「格助詞」はカクカクした真面目な女の子
「接続助詞」は「復讐を誓う女の子」。
えっ?なぜかって?・・「雪辱(セツジョク)」だから。怖いから注意。

無反応な生徒をよそに、廊下で配電盤を工事していたおじさんが聞いていたらしく失笑していた。「この学校ではこんなことを教えているのか」と感動したに違いない。

セクハラで訴えられそうだが、授業には「遊び」が必要であって、お笑いの毒のある「話芸」と考えていただければ幸いである。
もはや僕は高校生にとって「おじいちゃん」であって「おじいちゃん」が何を言ったところで平気で聞き流してくれる。


部活の女子部員を相手にするのも楽しい。

試合で緊張して自分の力が出せなかった生徒がアドバイスを受けにやってくる。

「力はあるのに肝心なところで力を出せない。それは直したい。これから生きていくのに自分の心をコントロールすることも大事。頑張るだけではなく、いい意味でのいい加減さも必要。
そんなことでは「これだ」と思った「男」を逃がしてしまうことになりかねない。ここ一番の踏ん張りが大切。男に逃げられたらオレがもらってやろうか。」
と言うと、
「えっ、それってプロポーズですか?」と言うから、
「そうだよ」と言うと、
「でも・・」と口ごもっている。
「嫌か?」と聞くと、
「でも歳の差が・・」と言うので、
「愛があれば歳の差なんてって言うだろう」と言うと、
「えぇ・・、それは勘弁してください」と言って去っていく。

自信を失った子に、自分が認められたという「感じ」を与える、実は素晴らしい指導なのである。


勉強に関してもこの手は使える。

「受験勉強に行き詰ってにっちもさっちも行かなくなったら、早いうちに遠慮なく相談に来てください。男子は気合を入れるためにひっぱたいてあげます。女子は温かく抱きしめてあげます。」と言うと、まず誰も来ない。

志望校や進学校に迷って相談に来る女子には、ひと通りその大学の特徴や長所を説明するが、それでも決まらないと、
「僕に君の人生は決められない。君が僕のお嫁さんになってくれるなら僕が決めてあげるが」と言うと、「それだけは勘弁してください。自分で決めます」と言ってそそくさと去っていく。

一抹の寂しさを覚えないでもないが、いずれも自己解決能力を養う素晴らしい指導と言えるだろう。


男子も面白い。

例えば、漢文、史記の張儀列伝で、張儀が君主の璧を盗んだ疑いをかけられむちで数百回叩かれてもそれを認めなかった場面。
「君は、ムチで 叩きたい? 叩かれたい?」
と質問すると、大概「なんてことを聞くんだ」という表情をしながら答えに詰まって立ち往生する。なかなか面白い。

古文でも、例えば源氏物語の若紫では
「光源氏はこのとき18歳。大雑把に君たちくらい。若紫は10歳。今で言えば小学校4年生くらいかなあ。
若紫の巻は後の正妻となる10歳の紫の上との出会いをほのぼのと書きながら、一方で義理の母である藤壺との不義密通を書いている。このとき藤壺は23歳。
君は、10歳の幼女と23歳のお姉さんとどちらに興味がある?」
と聞くと、同じようにドギマギする。面白い。
大概は「23歳のお姉さん」と答えるが、それは自分がロリコンだと思われたくないという意識が働いてのことだろう。


この間はセンター試験直前に「助詞が古文の短句解釈に出る可能性があるから復習しておこう」と言い、プリントを配布したが、そのタイトルが「助詞の征服」とあるべきなのに「女子の制服」となっており、「次の助詞を訳そう」の箇所は「次の女子を薬草」となっていて指摘を受けた。

僕が悪いのではなくwordが悪いのだと言ってやるのだが、そんな僕を生徒がどう思っているのかわからない。セクハラ教師と文句を言われることもないから「ジジイの言うことにいちいち真面目に付き合えない」と思っているのだろう。

最近は平気で職員室の入口に立って大きな声で「先生、抱きしめられに来ました」などと言い放つ女生徒も出現し出した。
「ここでそれを言うんじゃない」・・ほかの先生の視線が痛い。


とんだおバカ教師なのかもしれない。でも歳をとって「ねばならない」という価値観からようやっと解放されたような気がする。その「身軽さ」を、微妙なバランスを保ちながら、生徒と楽しみたい。
若さゆえに真っ正直に苦しむ生徒に「別にいいじゃん」と思える気持ちのスペースを作ってあげたいがために、君らが「寒い」と絶句するような冗談を実は考え続け、言い続けているのである。


■土竜のひとりごと:第181話

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