マガジンのカバー画像

文化・芸術

9
運営しているクリエイター

記事一覧

モスクワの灯り博物館

モスクワの灯り博物館

 街灯が、我々にとってすっかり当たり前の存在となって久しい。しかし当然ながら、それが当たり前ではなかった時代もあった。星と月明かりのみの夜の街は真っ暗。不便だし、なにより治安がよろしくない。街灯は、技術の進歩がもたらした、ありがたーいものなのである。

 モスクワに初めて街灯が出現したのは、1730年12月。木製の柱にブリキのランプ。大麻油を使った弱々しい灯りでも、当時は画期的。もっとも、点灯は手

もっとみる
私を映画に連れてって 70年代からソ連末期まで

私を映画に連れてって 70年代からソ連末期まで

 今回は70年代以降のポスターの筈だったが、前回、60年代の児童向け映画のポスターを4点+1を忘れていたので、まずはそこから。

「モロスコ」(「Морозко」 1965年)。民話をもとにした児童向け映画。ワシーリー・オストロフスキー作のポスター。

「雪の女王」(「Снежная королева」 1966年)。レフ・アタマーノフによる傑作アニメーションが有名だが、映画化もされている。本作は

もっとみる
私を映画につれてって 30~60年代の映画ポスター

私を映画につれてって 30~60年代の映画ポスター

 今回は、ソ連の1930~60年代のポスターを見ていこう。画像クリックで拡大可。

 アヴァンギャルドと実験精神の時代は短かった。1930年代初めから提唱されてきた悪名高き「社会主義リアリズム」の推進により、芸術分野は大打撃を受ける。映画も厳重な検閲が行われ、脚本から役者の人選に至るまで国家の管理下に置かれた。

 映画ポスターにも変化が生じる。ポジティブな高揚感と、人物の力強いポージングが多く見

もっとみる
『華麗なる「バレエ・リュス」と舞台芸術の世界』ヨーロッパを驚愕させた伝説のバレエ団「バレエ・リュス」の世界が存分に堪能できる一冊

『華麗なる「バレエ・リュス」と舞台芸術の世界』ヨーロッパを驚愕させた伝説のバレエ団「バレエ・リュス」の世界が存分に堪能できる一冊

イスクーストバです。

いやはや、ものすごい書籍が出ました。

本書はパイ・インターナショナルと海野弘氏がタッグを組んで刊行されているアートブックシリーズの新著。

豪華絢爛たるブックデザインと海野氏によるわかりやすい解説で人気を博しているシリーズで、私も何冊か所持しています。

華麗なる「バレエ・リュス」と舞台芸術の世界
解説・監修:海野 弘
発売元:パイ・インターナショナル

海野氏は欧州の象

もっとみる
私を映画に連れてって

私を映画に連れてって

 そういえば以前、「銀幕のソ連史」で、映画史の話をシリーズ化していくような事を言ったな?

 あれは嘘だ。(ポイッ
 ̄ ̄ ̄}    ))
  /  ( ̄) アアアアアアアアアッ(廃棄される下書き)
  |  と(; ´Д`)つ
 /

 思いのほか書くのがしんどかった。

 映画史については書けないが、その代わり、ソ連の映画ポスターの話をしよう。

 映画がイデオロギー装置として優秀であることは

もっとみる
2020年8月

2020年8月

263.木馬の馭者 (富ノ澤麟太郎/TAPIRUS ※Kindle)佐藤春夫門下にして26歳で夭逝した幻の作家、富ノ澤麟太郎がKindle「木馬の馭者」で読めるのだ

映画的灰色の大正時代に、新感覚派の神経症めいた自意識が落とす影。死と詩の匂いに混じるポオの気配

月下のドッペルゲンガー「せれなあど」幻想的混濁「あめんちあ」等隠れた名品揃い!台詞も佳いのだ〜

264.宇宙・肉体・悪魔 (J・D・

もっとみる
Plastic Treeと、好きなロックバンドが“売れて変わった”時に気をつけたいこと〜有村竜太朗の「孤独」について〜

Plastic Treeと、好きなロックバンドが“売れて変わった”時に気をつけたいこと〜有村竜太朗の「孤独」について〜

■変なバンド、Plastic Tree

皆さんはご存じだろうか。日本一変な売れ方をしているバンド、Plastic Tree(プラスティックトゥリー)を。

Plastic Tree、通称「プラ」。その道の好事家達からは「90年代を代表するヴィジュアル系バンド」と崇められ、音楽通の一部からは「日本を代表するシューゲイザーバンドのひと組」と奉られる、実力派ヴィジュアル系4ピースバンドである。

19

もっとみる
Kindleで発売中の拙著「女たちは列に並んだ アンナも列に並んだ」について

Kindleで発売中の拙著「女たちは列に並んだ アンナも列に並んだ」について

帝政期ロシアで愛の詩を書き、素晴らしいパフォーマンスと共にそれらを朗唱して一世を風靡した美貌の詩人アンナ・アフマートワは、ロシア革命後、一切の詩の発表を禁じられ、政治犯として無実の罪で投獄された一人息子への差し入れのために、猛暑の夏も厳寒の冬も名も知らぬ女たちの長蛇の列に一日中並ぶことを余儀なくされた。女たちの夫や息子たちも皆、不運にも密告され、罪状なきまま深夜に逮捕されたのだ。アンナの夫は政治犯

もっとみる
私はとても幸せだった、つまり、とても孤独だった

私はとても幸せだった、つまり、とても孤独だった

      ***

凍てついた晩に ふざけて口にしたことを
朝になって 嘘だったとは云うまい
なにかの足あとが 星のように
雪のうえに つづいている

さようなら 副馬たちが眠たげに
ぴんと張った手綱のさきで 身を震わせる
揺れでもすれば かしいだ頸木の端を
道標が引っ掻くことだろう

黒ずんだ轅が 不規則にたわむたびに
わたしは思いだすのだろう 
あそこでは 友らが笑い
いつもと同じ椅子や机が

もっとみる