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私を映画につれてって 30~60年代の映画ポスター

 今回は、ソ連の1930~60年代のポスターを見ていこう。画像クリックで拡大可。

 アヴァンギャルドと実験精神の時代は短かった。1930年代初めから提唱されてきた悪名高き「社会主義リアリズム」の推進により、芸術分野は大打撃を受ける。映画も厳重な検閲が行われ、脚本から役者の人選に至るまで国家の管理下に置かれた。

 映画ポスターにも変化が生じる。ポジティブな高揚感と、人物の力強いポージングが多く見られるようになり、全体に色調も明るい

 本稿と次回(70年代以降)は、ポスターの作者としてホーモフ、オストロフスキー、カラカーシェフの3人の名前が頻出する。この3人の作品が展覧会に多く出品されていたためでもあるが、実際、多くのポスターを手掛けたポスターデザインの大家たちなのだ。特にオストロフスキーは作風の幅広さにも注目して頂きたい。

1931年「黄金の山々」

セルゲイ・ユトケーヴィチ監督作品「黄金の丘」(「Златые горы」1931年)。まだこの頃は20年代のポスターの特色が色濃く残る。

1934年「チャパーエフ」

「チャパーエフ」(「Чапаев」1934年)は、実在した内戦期の赤軍の勇将・ヴァシーリー・チャパーエフの活躍を描いた映画。絶大な人気を誇り、ミームとなった映画の1つである。

1934年「雷雨」

「雷雨」(「Гроза」 1934年)は、アレクサンドル・オストロフスキーの戯曲の映画化。人物と後景のコントラストが見事。

1935年「アエログラード」

「航空都市」(「Аэроград」 1935年)。英雄像を思わせるアングルと配置。

1935年「パイロットたち」1

ユーリー・ライズマン監督、「パイロットたち」(「Летчики」1935年)。人物を大きく描く手法はこの時期のポスターに共通する。ポスターの作者はニコライ・ホーモフ Николай Хомов。

1935年「宇宙飛行」

「宇宙飛行」(「Космический рейс」1935年)は、初期のSFの傑作とされる。脚本の執筆にはかのツィオルコフスキーがアドバイザーとして参画し、当時としては科学的な考証も正確である。

1939年「ショルス」

「ショルス」(「Щорс」 1939年)。内戦の英雄ニコライ・ショルスが主人公。分かりやすい革命的パトスが迸る。ポスターデザインはニコライ・ホーモフ

1940年「ティムールと仲間たち」

「チムールとその隊員たち」(「Тимур и его команда」 1940年 「チムール少年隊」とも)は、児童文学者アルカージー・ガイダルが原作。

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左から「音楽物語」(「Музыкальная история」 1940年)、「強気な女性」(「Девушка с характером」 1939年)、「4人のハート」(「Сердца четырёх」 1941年)。いずれもコメディ映画。

1941年「スヴォーロフ」

フセヴォロド・プドフキンとミハイル・ドッレルの共同監督による伝記映画、「スヴォーロフ」(「Суворов」 1940年)。

左1942年「我が町の若者」右1941年「ワレリー・チカロフ」2

左は、コンスタンチン・シーモノフの戯曲「我が町の若者」の映画化作品(「Парень из нашего города」 1942年)。スペイン内戦から大祖国戦争までが題材。右は、「ヴァレリー・チカロフ」(「Валерий Чкалов」 1941年)。同名の、ソ連の伝説的パイロットを描く。2つのポスターはいずれもニコライ・ホーモフの作品。ホーモフは1920年代から70年代まで長く活躍したポスターデザイナーである。

1944年「少女がいました」(ポスターは50年)

第二次大戦中のレニングラード包囲網を生きる子供たちを描いた「少女がいました」(「Жила-была девочка...」 1944年)。ただし、ポスターは1950年のもの。

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「10月のレーニン」(「Ленин в октябре」1937年)。ポスターは1949年のもの。

 スターリン時代はイデオロギーが枷となり、映画製作は質量ともに不作であったのは、「銀幕のソ連史」に書いたとおりである。1956年の第20回党大会におけるフルシチョフのスターリン批判を1つの契機に、いわゆる「雪解け」の時代が到来。限定的ではあるものの創作への規制も緩まり、ソ連映画は飛躍の時を迎えた。この時期、フランスのヌーヴェルヴァーグ、イタリアのネオリアリズモの影響もあって、作風の幅も広がっていく。

 この時期は映画ポスターの図柄も多様化し、メタフォリックな表現も増えてくる。

1956年「イリヤ・ムーロメツ」2

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