可能なるコモンウェルス〈82〉(終)

 人民自身の中から発生してきた政治的諸活動と秩序の自発的機関として、相互に全く無関係に発生した、あらゆる地域的な評議会はしかし、種々雑多な人間集団の中で、それぞれ個別に評議会として作られることとなったその結果、多かれ少なかれそれぞれ偶然的であったその、互いの個別的な組織同士の近接関係が、やはりいかんせん一つの政治制度へと収斂されていった(※1)というようにアレントは指摘する。この収斂の過程において、ある意味「雑多な方法で運営されていた、個々個別の評議会」は、むしろある種の「洗練」を経て、政治制度として「体裁」を整えていったのでもあった。
「…これらのいちじるしく雑多な独立した機関が、地域的・地方的性格の上級評議会を形成しつつ、協力と統合の過程を促進しはじめ、ついにはこれらの地域的・地方的性格の上級評議会から全国を代表する会議の代議員を選挙するまでになった…。」(※2)
 アレントはこの収斂と洗練のプロセスを、具体的には一九一七年のロシア二月革命と、一九五六年のハンガリー革命の事実にもとづいて検証している。それをアレントは、アメリカ入植当初からやがて独立革命に至り、さらにはジェファーソンが構想する「区制(ウォード・システム)」につながるプロセスに重ね合わせるようにして見ていたのであった。
「…北アメリカの植民地史における初期の契約や協合(コンソシエーション)や同盟のばあいと同じように、ここでも連邦の原理、すなわち別々の単位のあいだの連盟と同盟の原理が、活動それ自身の基本的条件から生まれたのであって、広い領土における共和政体の可能性にかんする理論的考察によって影響を受けたのでもなく、共通の敵の脅威をうけて結集したのでもないことがわかる。共通の目的は新しい政治体を創設することであり、新しいタイプの共和政体をつくることであった。そして、この政治体の共和政体は『基本的共和国』に依拠し、この政治体の中央権力が、それを構成している団体[基本的共和国]からオリジナルな憲法制定権力を奪うことのないような仕方で組織されていた。いいかえれば、評議会は、活動し、意見を形成する能力の保持に気を配り、権力の可分性と、そのもっとも重要な帰結である、統治権力の必要不可欠な分散を発見せざるをえなかったのである。…」(※3)
 この「帰結」として創設された政治体が、もし何らかでも「新しい」と言いうるものであるとしたら、それは「現実の歴史性」に根ざしたものである限りにおいてそうなのだとは言いうるのだろう。「新しい現実に対応する活動」としてそれが「出現する」のである限りでは、それはたしかにいささかでも「新しいものとして現れる」ものだとは言いうるのだろう。
 しかし、これらが「相互に全く無関係に発生」しながらも、やがては「一つの政治制度に収斂=統合されていく、あるいはそのように収斂=統合しうるものである」というのは、一方でそれが「本質的に普遍的な性格を持っている」からなのだ、とも言えるはずである。

 人民自身の統治によるところの「共和国」が、仮にも「評議会制の原理にもとづいて創設された」ものであるとした場合、その共和国の「政府」は、はたして彼ら人民自身に一体どのようなものに見え、その共和国の「権力」は、一体どのように機能するものなのか(※4)、というようにアレントは問うている。
 ここで、「共和国が評議会制の原理にもとづいた場合」とアレントが言っているのは、むしろ「共和政の原理とは、本質的に評議会的なのだ」ということであり、転じて「評議会の構造は、原理として共和的なのだ」という、ある意味では「すでに前提された解」となってもいるわけだ。そしてここで見出しうる、共和国=評議会の「原理と構造」とは、まさしくその「出現と活動の過程=運動そのもの」において、または「この過程=運動それ自体の本質的な表現」として、すでに・常に・現に具体的かつ現実的にあらわされているものなのである。
 しかし一方で、これらの「表現の新しさ」を見出すことは、あくまでも「その結果において見る限り」でのことだ、とも言える。そしてむしろ、この「結果の違い」こそが、それぞれのプロセスの「共通性を分断する」ことにもなっているわけである。
 もちろんそこで「見出された結果」が、「この運動の終わり」というわけなのでは全くない。むしろ「それは、そこから新しくはじまる」のだ、なぜならそれは、「常に・現に新しいものとしてあらわれる」のだから。だから、たとえ何処の誰であろうとも、それをけっして止めたり隠し通したり消し去ってしまったりなどはできないだろう。もしも「われわれ」自身が今ここで、自分自身が「現に・常に新しいこととしてしていること」を、すなわち「生きていることそれ自体」を、もはや止めてしまうというのでない限りは。

〈了〉

◎引用・参照
※1 アレント「革命について」
※2 アレント「革命について」志水速雄訳
※3 アレント「革命について」志水速雄訳
※4 アレント「革命について」

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