小説と文鳥

週に一度小説を投稿します。 たまに読書日記。文鳥日記。

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記事一覧

【短編小説】ある銅像の雄弁

『ある銅像の雄弁』    とある丑三つ時。摩擦音、そして衝撃音が夜の街に響き渡った。  けたたましい音と同時に、俺の視線の先に、血だらけの男が現れた。  いつも…

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【読書日記】君は孤独を感じたことがあるか(『ヨーロッパ思想入門』)〜私の大学受験記〜

0:n年前の12月、某私大の文系キャンパスにて   その日、私は文学部哲学科の公募推薦入試を受けていた。  午前は小論文試験。  午後は面接試験。  面接試験で、…

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【短編小説】旅するチェロ

 ——僕はいったい、何者なのだろう。  僕には今、服がかけられているけど、  物干し竿ではない。  僕は今、部屋の隅に置かれ、埃を被っているけど、  観葉植物では…

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【読書日記】心に大きなマンションをつくりたい(『82年生まれ、キム・ジヨン』)

1:長すぎる前振り  「心のマンション」ってなに?  大学時代から、「心が広い大人になりたいなぁ」と、漠然と考えるようになった。   ・人の些細な言動に容易にム…

小説と文鳥
12日前
99

【短編小説】僕とメガネ

 二〇ⅩⅩ年度流行ペット大賞一位が「メガネ」になったことを、過去の人類に伝えたらきっと驚くだろう。   僕が生きるこの時代、あの視力を矯正するための装備品として…

小説と文鳥
2週間前
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【短編小説】嘘つきはアネモネを抱いて眠る

 きょう、ぼくはおかあさんと「花のおやしき」というところにいきました。  花のおやしきは、ぼくのすむまちにある、お花ばたけにかこまれたおやしきのことです。  おや…

小説と文鳥
2週間前
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7月になりました。
もふられすぎて7になる文鳥です。

https://x.com/shousetsubuncho/status/1807536682662846961?s=46&t=TdN-FtPR_BxA0Z9kXvI8og

小説と文鳥
3週間前
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【エッセイ】文鳥はPUI PUI モルカーの夢を見るか?

 文鳥を二羽飼っています。  シルバー文鳥とシナモン文鳥。  シルバーはチンゲン菜が好きで、シナモンはニンジンが好き。  シルバーはクールで、シナモンは感情豊か。 …

小説と文鳥
4週間前
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【短編小説】月まで歩いていく

うさぎははねる。どこまでも。 いぬはかける。どこまでも。 さかなはおよぐ。どこまでも。 とりはとんでいく。どこまでも。 はなびらはまう。どこまでも。 いきものたちは…

小説と文鳥
1か月前
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【短編小説】雨、雨、雨、エコー

 ——全部、雨のせいだ。  電車が延着していたのも、焦って出勤したから服は濡れて体が冷えたのも、スニーカーに水がしみ込んで靴下が毎秒ごとに腐っていくのも、低気圧…

小説と文鳥
1か月前
41
【短編小説】ある銅像の雄弁

【短編小説】ある銅像の雄弁


『ある銅像の雄弁』

 
 とある丑三つ時。摩擦音、そして衝撃音が夜の街に響き渡った。
 けたたましい音と同時に、俺の視線の先に、血だらけの男が現れた。

 いつもなら俺の視線の先には、右手に持たされた、石でできた偽物の本があるだけだ。時折、俺の胴体と本の間に、猫が体をおさめて昼寝をしたり、鳩が巣をつくろうと小枝を運んできたりする。百四十年ほぼ同じ世界を見るしかない俺の目にとっては、どんな出来事

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【読書日記】君は孤独を感じたことがあるか(『ヨーロッパ思想入門』)〜私の大学受験記〜

【読書日記】君は孤独を感じたことがあるか(『ヨーロッパ思想入門』)〜私の大学受験記〜


0:n年前の12月、某私大の文系キャンパスにて 
 その日、私は文学部哲学科の公募推薦入試を受けていた。
 午前は小論文試験。
 午後は面接試験。

 面接試験で、強面の面接官(教授)が私に尋ねた。

👨🏻‍💼「君は孤独を感じたことがあるか」

😅「え、いや……、ないですね……」

👨🏻‍💼「孤独を感じたことが無い人は哲学できないよ」

1:私の進路を救った一冊 
 本当の本当に信

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【短編小説】旅するチェロ

【短編小説】旅するチェロ

 ——僕はいったい、何者なのだろう。

 僕には今、服がかけられているけど、
 物干し竿ではない。
 僕は今、部屋の隅に置かれ、埃を被っているけど、
 観葉植物ではない。
 僕の隣で一匹の黒猫が昼寝をしているけど、
 あたたかな人間ではない。
 
 茶色い大きなからだで、体のてっぺんから真ん中まで太い弦が引っ張ってある。
 
 そう、僕はチェロだ。

 『旅するチェロ』

 

 「もの」はこの世

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【読書日記】心に大きなマンションをつくりたい(『82年生まれ、キム・ジヨン』)

【読書日記】心に大きなマンションをつくりたい(『82年生まれ、キム・ジヨン』)


1:長すぎる前振り  「心のマンション」ってなに?

 大学時代から、「心が広い大人になりたいなぁ」と、漠然と考えるようになった。
 
・人の些細な言動に容易にムカつきたくない。
・周りをよく見て、なるべくたくさんの人に気を配れるようになりたい。

 そういう人になりたいなぁと思っていたら、とある「知恵」と出会った。

 おそらく内田樹さんの本で出会った知恵だ。
 なんの本だったか、それともレポ

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【短編小説】僕とメガネ

【短編小説】僕とメガネ

 二〇ⅩⅩ年度流行ペット大賞一位が「メガネ」になったことを、過去の人類に伝えたらきっと驚くだろう。 
 僕が生きるこの時代、あの視力を矯正するための装備品としてのメガネを可愛がり、家族として扱うことはもはや常識となっている。

 そんな僕も、今年の健康診断でとうとう大幅に視力が下がってしまい、メガネをお迎えしなければならなくなった。

『僕とメガネ』
 ある休日、僕は車で(僕は視力が心配なので、元

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【短編小説】嘘つきはアネモネを抱いて眠る

【短編小説】嘘つきはアネモネを抱いて眠る

 きょう、ぼくはおかあさんと「花のおやしき」というところにいきました。
 花のおやしきは、ぼくのすむまちにある、お花ばたけにかこまれたおやしきのことです。
 おやしきにはむかし、えらいがくしゃさんがすんでいたけど、いまはだれもすんでいないそうです。
 おやしきにいってみると、ぼくのしらない花ばかりでした。

「おかあさん、ここに咲いているお花はなんていうの?」
「このお花はね、アネモネっていうのよ

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【エッセイ】文鳥はPUI PUI モルカーの夢を見るか?

【エッセイ】文鳥はPUI PUI モルカーの夢を見るか?

 文鳥を二羽飼っています。
 シルバー文鳥とシナモン文鳥。
 シルバーはチンゲン菜が好きで、シナモンはニンジンが好き。
 シルバーはクールで、シナモンは感情豊か。
 仲良くはないです。よくケンカしています。でも一緒にいます。
 たまに離れて過ごしていますが、気づけばまた一緒にいます。

 さて、我が家の文鳥には、素敵な遊び相手がいます。

PUI PUI モルカーのぬいぐるみです。
文鳥を迎える前

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【短編小説】月まで歩いていく

【短編小説】月まで歩いていく

うさぎははねる。どこまでも。
いぬはかける。どこまでも。
さかなはおよぐ。どこまでも。
とりはとんでいく。どこまでも。
はなびらはまう。どこまでも。
いきものたちは、
どこまでも遠くに行くことができる。

『わたしは?』

 ——私は、今日も歩いていく。

『月まで歩いていく』
#ガマンデイナイトフィーバー 🕺

 などという、ハッシュタグを投稿につけなければやっていられないぐらいの気分だ。
 

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【短編小説】雨、雨、雨、エコー

【短編小説】雨、雨、雨、エコー

 ——全部、雨のせいだ。

 電車が延着していたのも、焦って出勤したから服は濡れて体が冷えたのも、スニーカーに水がしみ込んで靴下が毎秒ごとに腐っていくのも、低気圧で頭はかち割れそうなのも、

「やだあぁ」
「いきたいぃ」

 私が勤める保育園の遠足が中止となり、園児たちが泣き叫んで地獄のうるささなのも、全部、雨のせいだ。

「雨宮先生、どうにかしてくださいよ」
「はあ」

 無理だ。だって小学生の

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