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ロロ曰く至高の詩

わが杯
炎のごと揺らめく
ワインで満てり
(ギョーム・アポリネール)

 ロロ曰く至高の詩だそうだが、私にはよく分からない。神はパンの次にワインを人間に授けた、何故か?この問いには一生答えられる気がしない。私はあまりお酒を飲まない。

ロロはワインの収集が趣味だ。いつどこで買ったワインか、幾らしたか、誰と飲んだかを丹念にリストしている。素敵な趣味だと思う。そんなロロに聞いてみた。

「ワインの魅力ってなんですか」
「ああ…君は人が好き?」

質問を質問で返された。

「時と場合、人によります」
「ワインも同じ。栓を抜くまでその味は分からない。第一印象はどうか。見た目、年齢、背景、好みに合えば買ってみる。…時間を味わう。…さて、環境はどうだ。丁度いいか。今がその時かな。その時だとしよう。栓を抜く。香ってみる。飲んでみる。さてどうだ。…期待外れの味かな。自分の理解を超えた味かな。失望した?でも待ってほしい。時が経つにつれ君好みに味が変わることもある。逆もしかり。若いが故に貴重なワインもあれば、老いが故に味わい深いワインもある。逆もしかり。泥水のようなワイン、神の血のようなワイン、その味は無限にある。そしてそれは…ここからが肝心なことだよ。そしてそれは興味を持ち、深く関わろうとした者にしか味わえない。そして一度関わったワインは、君次第でその味を変えるんだ。…どうかな?」

身振り手振りを交えて、時間をかけて丁寧に教えてくれた。本当はもっと長く喋っていたが、私の記憶力ではここまでが限界だ。余りの熱量に私はたじろいだ。

ロロは玄関の靴箱から一本のボトルを取り出し私に振舞った。渋みが強いワインで私は顔をしかめた。ロロはニヤニヤしている。何だか試されてるような気がした。何となくグラスを回してみて、暫く待ってみる事にした。「残してもいいよ」と言われたが、それは申し訳ないし、何だか悔しい気もする。暫くしてもう一度口をつけた。さっきより少しまろやかで、香りもよくなった気がする。ロロは満足そうに頷いていた。

気まぐれだけど、ロロに質問してよかった。ロロへの興味か、ワインへの興味か、どっちが発端か分からないけど、お陰で少し視野が広がったし、何よりロロの大切なワインリストに私の名前が加わったことが誇らしかった。

なんとなく、どうして神様がパンの次にワインを授けたのか、分かりそうな気がした。

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