2019年ベストアルバム トップ50
2010年代最後の年、そして令和最初の年間ベストの季節。秋頃まで納得感のあるラインナップを作れる50枚も出てくるかな?と思っていたけど、年末にばばばっと良作が連発され、結果とてもしっくりくる50枚に。しかし今年から特に世間の年間ベスト決める系リスナーとの嗜好の乖離が著しくて!故に、僕は僕なりに書き残していくわけです。
50位 さよならポニーテール『来るべき未来』
音源のみで10年間活動してきた(表向きは)ガールズボーカルグループの6枚目。今回のテーマは「熊の惑星」。突拍子も無さすぎてムムムとなりそうなものだが、終わりゆくCD文化をディストピアに喩え、その先で独自の発達を遂げたJ-POP文明のメタファーとして映画「猿の惑星」のストーリーを引用している、という点まで把握するとなかなか意義深く聴こえてくる。聴きやすいソフトなキュートさは残しつつも、史上最言葉数でポエトリーする「空飛ぶ子熊、巡礼ス」の不気味さも堪らない。Disc2に収められたリミックス集も併せて聴くとこの集団の偏執なまでのポップス愛が見えてくるはず。
49位 2『生と詩』
結成2年であっという間に3枚目。バンドをやるため集まった4人が真の意味でバンドになっていくという経過をアルバムとして報告していたわけだが、それも完遂。日々がグルーヴに変わり、言葉に人が宿っていく、それを見事に捉えたタイトルが全てを物語っている。ライブの獰猛さも折り紙付き。
48位 キイチビール&ザ・ホーリーティッツ『鰐肉紀譚』
ふにゃふにゃとした歌声で、恋と友をまったりと歌う気ままな5人組のセカンド。若人の日記とも呼べそうな飾らない世界がじんわりと染みわたってくる。「平成がおわる」では、90s生まれらしいセンチメンタルも素直に表出。ライブは飄々としているようで意外とアツくて、そこもグッときた。
47位 ヒトリエ『HOWLS』
メジャーデビュー5周年で届けられた4thアルバム。ボカロPという出自を持つ首謀者wowaka、脳内に広がる性急で情報過多な音楽を生身の人間で再現する目的から始まったヒトリエは、バンドとしての姿を獲得するにつれ、wowakaの裸の声をアウトプットする場として成立するようになった。咆哮を意味する題が示す通り、心を開ききり世界と対峙し始めた姿が刻み込まれている。だからこそ、これがwowakaの遺作となったことがあまりにも惜しいのだ。この消えない遺志は新体制ヒトリエにも確かに引き継がれている。
46位 PEDRO『THUMB SUCKER』
BiSHのメンバー、アユニ・Dによるソロプロジェクトによるメジャー1stフルアルバム。田渕ひさ子(NUMBER GIRL)が全曲でギターを弾き倒す鉄壁の音にアユニの頭ん中をそのままひっくり返したような生々しくもシニカルな歌詞にメロメロに。ライブの出来も伸びしろしかなくて、存在に惚れてしまう。
45位 めぞんド山口『旅路はつづく』
フロム福岡の5人組による2ndアルバム。フォーク研究会出身というのも納得なアコースティックの健やかな調べ、男女ツインボーカルの朗らかでほっこりな世界観。ザ・なつやすみバンドや空気公団を想起させるノスタルジーで帰り道に聴けば無性に切なくなること間違いなし。歪んだギターと跳ねるビートが新鮮な「車と別世界」やサンバなリズムに驚く「朝まで踊ろう」など、"今の若者が昔っぽいことをやってる"的なところに留まらない隠し持った強みもたっぷり。メンバーそれぞれが家庭を持っても続けて欲しい音楽。
44位 ジェニーハイ『ジェニーハイストーリー』
つくづく川谷絵音とはプロデュース力に長けた男だ。ボーカル中嶋イッキュウにポップなメロディを歌わせるのもtricotとの差異を感じられてユニークだし、野性爆弾くっきーをベーシストは元より、その優れた声質を見抜き歌わせるセンスもある。新垣隆は未だに持て余してるようだが「まるで幸せ」の直球さはガッキーの奏でる美しき鍵盤ありきだろうし、小藪一豊の叩くやや硬めなドラムもまた従来の川谷ワークスにはないストレートな魅力に繋がっている。イロモノ、ケレン味、それらは上質な音楽とだけ同居できるのだ。
43位 オカモトコウキ『GIRL』
OKAMOTO’Sのギタリストによる1stソロアルバム。ここ数作、オカモトズのアルバムにおいても自身の詞曲を収録しており、バンド本体とは少し異なるポップネスを誇った楽曲は既に人気が高かった。満を持しての単独作では、全楽器の演奏を自身で担当するDIY制作で、濃密に求める音世界を見つけ出してある。しなやかで胸がキュンとなる旋律、甘く柔らかな歌声が、スマートに構築されたオケにぴったりと合う。ときめきを隠しきれない少しキザな歌詞も相まって王子様的なキャラクターも連想してしまうゴキゲンな1枚。
42位 Tempalay『21世紀より愛をこめて』
もはやフォロワーの出ようがないくらいにサイケデリック市場を独占中の3人組。とろけるような聴き心地と妙に琴線に触れてくるキャッチーなメロディはマニアックで玄人志向なようでいてしっかりと万人にもリーチできるように仕立ててある。とはいえ、ヒット曲「どうしよう」を「人造インゲン」と「脱衣麻雀」という特にどうかしてるナンバーで挟みこむセンスには一泡吹かせてやろうというしたり顔が見えてくる。そんな作品を締めくくるのが祈りにも似た「おつかれ、平成」なのだからやはり読めないバンドである。
41位 go!go!vanillas『THE WORLD』
前作から顕著になり始めた多ジャンルとの混合をぐっと深めた1作。エレピきらめくスイートな「雑食」、ソウルフルなコーラスワークが光る「Do You Wanna」から、オーガニックなモータウン「スタンドバイミー」にいつになく破壊的な「GO HOME?」など、飽くなき音楽への探求心が露わになっている。オーセンティックなロックンロールで大型フェスのメインステージまで登り詰めた彼ら。その界隈もブレイクから5年を超えるバンドが増え始め次の一手が注目される中、自然体なままで意義深い挑戦を果たしている。
40位 Official髭男dism『Traveler』
2010年代に良質なJ-POPを希求してきたバンドが2020年を待たずして次々に解散/活休を余儀なくされる中、挫折することなくどセンターへと踊り出た彼ら。オントレンドなリズムメイク、打ち込みも管弦も分け隔てなく取り入れる柔軟さ、そして真っ直ぐに届くメロディライン。ドリカム以降すっぽり空いていたファンクネスと華やかさにまみれるポップスバンドとしての立ち位置に堂々たる風格でやってきた。甘めなラブソングが多いので一見ヤング向けだけど、優れた押韻の数々でうるさ型のリスナーも圧倒するからニクい!
39位 Have a Nice Day!『DYSTOPIA ROMANCE 0.4』
2018年暮れの配信曲「わたしを離さないで」「僕らの時代」の輝度と切なさを引き継ぐ煌めくダンスチューンアルバム。反復の中に蠢く激しさ。爆発寸前の純情が熱狂へと誘う。3月に観たライブでも思ったのだが、こんなにも笑顔で踊っているのに、楽しいだけにはさせてくれない危険さがある。
38位 佐藤千亜妃『 PLANET』
きのこ帝国活動休止後のソロ1stフルアルバム。前年のEPがチルめなテイストだったのに対し、今回はパンク、J-POP、ファンクも何でもアリなプレイリスト仕様。バックダンサーの姿が見える軽快なポップス「FAKE/romance」、ストレートに歌いあげるバラード「空から降る星のように」辺りの手札はこれまで披露してこなかった一面だろう。今作で様々なパターンの楽曲を作ったのは、これからの方向性を定める意味もあるという。故に今後貴重になっていくジャンルもあるかも。始点ならではの貪欲さが見え隠れする作品だ。
37位 ROTH BART BARON『けものたちの名前』
白状すると、これまでは取っつきづらく小難しい印象があって全然ハマっていなかったのだけど、前作『HEX』のオープンな方向性に導かれ、その流れで聴く本作も絶品であった。ひんやりとした情感とウォームな体温が複層的に響いてくるような不可思議な聴き触り。神聖なようだが、こちらと近い距離からテン年代の終焉と新時代の到来を眺めている。<もしもここを生き残れたら 僕の本当の名前をあげよう>と、13歳の少女が語りかけ始まるこのアルバム。これは預言書?それとも世界終末の黙示録?答えはもうすぐそこ。
36位 BiSH『CARROTS and STiCKS』
年末の音楽特番の大舞台に立つ姿に全く嘘が無く、当然だと言えるのが勇ましい。少しずつ自分たちの在り方を浸透させていった賜物だろう。リリース直前のツアーでも叩きつけるように見せつけた「飴と鞭」に振り分けた二面性。そのどちらもを正しいクオリティコントロールで結晶化してみせた。
35位 GRAPEVINE『ALL THE LIGHT』
1曲目からいきなりボーカルオンリーのミステリアスな楽曲が始まる。と思えば2曲目ではゴキゲンなホーンで<It's gonna be alright>と歌う。どちらにも振り切れない平熱な魅力がある彼らだが、今回はどちらかと言えばポジティブなフィーリングに寄っている。混迷を極める時代だからこそ、ブレずに自分たちのロックを維持し続けながらも、想定以上を常に求めるスタンスは支持されるものだ。ベテランとも称せる程に活動歴を重ねども、フレッシュでいれる必然性に富む。「Era」に滲む、円熟した情熱の形に胸が熱くなる。
34位 YUKI『forme』
事務所移籍後初のオリジナルアルバム。提供曲を自分の色に馴染ませてエンターテインするガールズポップの始祖である姿を見せつけつつ、アレンジにも全曲参加。ソロアーティストとしての才気も冴え渡っている。ライブでは1曲目を飾った最後を締めくくる自作曲「美しいわ」も出色の仕上がり。
33位 never young beach『STORY』
日本の夏にぬらりとやってきたネバヤン、今作は従来のハッピーな熱気の少し手前、春の匂いを持ってきたような柔らかく、どこかクールな仕上がり。スティールパン、鍵盤を加えてウワモノには色彩を散りばめながら、リズムはきゅっとタイトでミニマルなものに。ダンスミュージックと呼んでも差し支えない程に、飛び跳ねたくなるグルーヴを更新している。日常風景を愛嬌たっぷりに描いてきた歌詞も、「魂の向かうさき」などより大きなモノも視野に入れ始める。現状維持から一歩先の風景も見てみたくなったのかな。
32位 ももいろクローバーZ『MOMOIRO CLOVER Z』
結成11年の日にリリースされた5thアルバム。メンバー脱退後、より結束を強めた4人の良好なコンディションが少し大人びた楽曲たちによって届けられている。全編を1つのショーに見立てて進行していく構成はライブを主現場として勝ち上がってきた彼女たちの雄姿を伝えるのに相応しく、またミュージカルや舞台の経験を経て培った表現力を楽曲上でもアピールするのにしっくり来る。20代半ばを迎えた彼女たちが今もイメージカラーを身に纏いエンタメ性の強いアイドル像を更新し続ける姿は現在進行形の偉業なのだ。
31位 the chef cooks me『Feeling』
5人目のアジカンメンバーとして著名な下村亮介が主宰を務めるバンド、6年ぶりのアルバム。チルいトラックに散文的なリリック、ボーカルはtofubeatsやVaVaを想起させる加工を施しながら、ラップ的というよりは滑らかに聴かせる心地よい聴き触りで抜群の落ち着きをくれる。バンドとはいえ現在は実質ソロプロジェクトなシェフ、如何様にも適応可能なシモリョーの流動性を数々のフィーチャリング曲で堪能できるのもおいしいところ。ラストを締めくくるアジカンcover曲「踵で愛を打ち鳴らせ」のピースフルな再編は圧巻!
30位 スガシカオ『労働なんかしないで光合成だけで生きたい』
リリース発表のニュースで多くの人の心を掴んでしまったこのタイトル。本人の意図とはよそに拡散されたこのワードセンスからも分かる通り、やはりスガシカオとは凄まじい言葉の使い手なのだと思う。「おれだってギター1本 抱えて田舎から上京したかった」、「あんなこと、男の人みんなしたりするの?」などなど、題の時点で強い惹きを持つセンテンス。それらを卓越したアーシーなボーカルと、ソウルフルなメロディで紡いでいく、彼にしか成せない音楽ばかり。11枚目にして、作家性を重視した曲世界もまた新鮮だ。
29位 NICO Touches the Walls『QUIZMASTER』
7枚目にして、結果としてのラストアルバム。ここ数年、追求してきた着の身着のまま鳴らす人間味溢れる音楽を集大成に運んだ1枚。リリース前に行われたツアーでも予告的に演奏されていたが、付属のアコースティック盤も別格の味わい。試行錯誤をそのまま形にしたような剥き出しのNICOだ。
28位 sora tob sakana『World Fragment Tour』
照井順政(ハイスイノナサ)がプロデュースを手掛けるアイドル、メジャー1stアルバム。残響系/ポストロックな音像をアイドルポップスへと翻案する作風に更に磨きをかけ、より開けた地平に飛び去っていくような爽快さがある。タイトル通り、セカイのカケラを繋ぎ合わせたような多様なジャンルの楽曲に、ビビッドで視覚的な歌詞が乗ることでまるで旅行写真のような眩い体験を与えてくれる。複雑な楽曲×幼気なボーカルという基本構造を踏まえながら、成長過程の彼女たちの姿も見事に活写。この刹那だからこそ、な1作。
27位 フジファブリック『F』
デビュー15周年イヤーの幕開けを飾った10thアルバム。昨今の「若者のすべて」バブルに伴い茶の間にも存在が示され始めたタイミングにおいて、かつてない程にJ-POPの大通りに面したアレンジが施された楽曲ばかり。どでかいスケールを持った「破顔」もあれば、小気味いいポップスな「恋するパスタ」もある。お祭り騒ぎな「FEVERMAN」もあれば、オリエンタルファンクとも呼ぶべき「東京」もある。曲ごとに違うカラーを提示する、つまりいつものフジなのだが、いつも以上にフジであろうという気概が溢れている。
26位 Yogee New Waves『BLUEHARLEM』
初期から一貫してここではないどこかへ向かおうとしてきた彼らが辿り着いた理想郷。「Summer of Love」の無限に聴いていられるようなトロピカルで恍惚としたイントロのムードはアルバム全体に行き渡り、幻想的で多幸的な空間を浮かび上がらせている。和やかに踊らせてくる序盤から、徐々に深部へと引き込んでいくようなブロックの甘美さも堪らない。松井泉によるパーカッション、高野勲による鍵盤も見事にほぐして溶け込ませてある。都会の青年たちが成し遂げた楽園の大成。3枚目にして安らぎすら覚えてしまう。
25位 あいみょん『瞬間的シックスセンス』
YUI以降、長きに渡る女性シンガーソングライター冬の時代は今作、およびここに至るまでのシングル群で終わりを告げた。はっと耳を掴まれるリリック、伸びやかでふと口ずさみたくなるメロディ、色気とタフさを携えた歌声、先鋭と普遍を行き来するアレンジ、ちょいと捻くれたスタンスやファッション、けだるげなビジュアル、と書き連ねれば売れた要因は色々説明できそう。だけどやっぱり「ただ曲が良い」ということに尽きると思う。そういうヒット作が生まれたことは希望でしかなく、どんな歌も輝き得る証左だ。
24位 a flood of circle『CENTER OF THE EARTH』
ロックバンドが得意技をぶん回してる姿ってやっぱり最高!ってなる1枚。様々な音楽的トライアルに挑んだ過去2作を経て、実験性はソロでよし!とした佐々木亮介の判断は実に潔い。ストロングポイントであるがなり声をこれでもかとフィーチャーし、どかどか転がすビート、うるせえギターと、それを支えるステディなベース、拳を突き上げるのに必要なものは全て揃ってる。これ以上も以下もない。盟友・田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)によるファン目線のプロデュースも冴え渡った爽やかな「夏の砂漠」、そしてラストを飾る表題曲の雄大な切なさも、この傑作の祝砲のように聴こえる。
23位 秦基博『コペルニクス』
あらゆるポップスアレンジをモノにした末にディープなセルフプロデュースに取り組んだ前作『青の風景』から4年を経て、記名性に富む歌声とメロディはそのままにごく自然にモデルチェンジを果たしたかのような転換作。アコースティックギター(エレキギターの音はゼロ!)と歌を中心に置き、シンセとストリングスが宙を舞い、妙にダンサンブルなビートが土台を支えるサウンドは新しい。多彩な楽曲を得意とする彼が、近似したムードの楽曲を揃えた野心を感じる。土岐麻子や石崎ひゅーいを手掛けるトオミヨウとの初タッグで完成した"憂いはあるのに開放的"という特異な聴き心地を纏った1枚。
22位 パスピエ『more humor』
"らしさ"を1枚ごとに着実に広げていった印象だったこの10年。本作もまたその延長上にあるのだけど、その広げ方はより思い切ったものになった。緻密に作り込まれた音像は、バンドサウンドとトラックメイクの境界を融解させた自由度の高いものに。エッジーの先に待ち受けるポップさを模索して捕らえたシンセワークは耳に新しい。横揺れのビートの大々的な導入は、ナチュラルに最先端の音楽と交差している。2015年の武道館以降はキャパシティを上げるのではなく、リスナーの層を濃くする方向へと舵を切ったことは大正解であった。軽妙洒脱にお色直しを果たした新たなグルーヴ、底知れない。
21位 私立恵比寿中学『playlist』
結成10周年イヤーを2019年2枚目のアルバム。元来コンセプチュアルな作品を武器にしてきたグループゆえこのタイトルは最初不安だったのだけど、流石はトレンディガールなエビ中。音楽シーンの動向に目配せしながら、ほぼ全楽曲でファンク/ラップ/エレクトロ二カを含み、サウンド面で抜群に均整の取れたスタイリッシュな作品。iriが提供した「I'll be here」なんて、これ今誰の何を聴いてるんだっけ?となる程に曲への憑依力が凄まじい。それぞれの声を活かした歌割など、いよいよボーカルグループとして成熟し始めし中で「HISTOTY」たる楽曲が逞しくアイドルとしての歴史を物語っている。
20位 NYAI『HAO』
福岡発の社会人バンド、活動8年目の2ndアルバム。スーパーカーとくるりとナンバーガールをむしゃむしゃ食べて育った青年たちが鳴らす、青春の匂いたっぷりな胸キュンオルタナロック集。元々はmixiをきっかけに集まって暇つぶしにコピーでも、という名目で組まれたバンド。しかしゆるゆるとしたモードで始まろうとも、自分たちの中で燃え盛り続ける音楽への愛を確信したのだろう。遊びの延長で少し熱が上がり、本気の音を奏で始める。そんな「これは!」をかき集めたような大人の放課後の集積。何気ないけど渾身の一作かと。本作を機に東京のレーベルにも所属が決まり、目が離せにゃい。
19位 アルカラ『NEW NEW NEW』
レーベルを移ってからの初リリースとなる10thアルバム。ギタリスト脱退後、PC上での楽曲制作により、お馴染みの曲展開を飛び越えるコード感が開花。バキバキにハードだった前作からうって変わって、トイ・ストーリー的なシナリオが抜けの良いサウンドで贈られる「くたびれコッコちゃん」や、稲村大佑が幼少期より心打たれる光景を美しく仕上げた「夕焼いつか」などどこか牧歌的なムードも漂う。名曲「ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト」が歌っていた<10年後>がまさに今。かつてない危機に見舞われてもなお、関西の雄として悠々たる安定感と牽引力を誇りながらアルカラは今も笑い合っている。
18位 エイプリルブルー『Blue Peter』
For Tracy Hydeの中心人物である管梓が、友人であったイベンター船底春希をボーカルに抜擢し、別々のバンドから演奏者を集めた新人バンドの1stミニアルバム。フォトハイと異なるのは歌詞を歌手経験初の船底が担当している点。バンドに対する憧憬やバンドを組めた歓び、そして自分自身で歌う言葉を選び取れる実感に溢れた、独自の美学に透徹された詞世界はローの効いた自身の歌声で増幅され、繊細な楽曲の姿をより拡大させていく。NEW J-POPを掲げる姿勢からも伝わる通り、耳に馴染むメロディは既にとてつもない普遍性を持ちうる可能性が十分ある。Coccoとブリグリの背中はすぐそこだ。
17位 lyrical school『BE REWIND KIND』
「巻き戻してご返却下さい」っていうレンタルビデオに書いてあった文面がギリギリ分かる90年代前半生まれだから、「LOVE TOGETHER RAP」はパラッパラッパー観てたなぁとか、「大人になっても」の<みんなはまったノマノマイェイ>が流行ったのは小6だったと断言できる。こういう引用がぶっ刺されるのヒップホップを聴く醍醐味だ。アイドルというあらゆる音楽に染まれる強みを、ラップというジャンルで縛ってもしっかり体現。アイドルがラップをするというギャップではなく、スキルそのもので魅せる姿勢も気高いし、それをとっくにモノにしてしまった余裕も随所に顔を見せている。
16位 King Gnu『Sympa』
有無を言わせぬアウラがあるバンドだな、と思う。常田大希の見た目が覇王すぎるのか、井口理の挙動がゲキヤバだからなのか。絶対的存在感に寄与しているエッセンスは様々だが、なんせその楽曲たちだ。刺激的なビートに肉体は踊り、どこか品のあるメロディは実に耳馴染みが良い。BPMやテンションの違いはあれどもこの2つの要素は全楽曲で徹底されており、バンドの美学をこれでもかと見せつけてくる。歌詞においてはとかくこの世界を疑い、何かをぶっ壊そうとするダークだけれど、確かにヒロイックな一面が。これぞ、新時代を牽引するに相応しい歌なのだろう。危険な匂いもまた美しい。
15位 集団行動『SUPER MUSIC』
"あの頃の相対性理論"の引き連れていた真部侑一が首謀者として久しぶりに継続的に活動していること、それ自体が作品の強度にもつながっている。グループ名が雄弁な通り、やればやるほど適格で高水準なものに仕上がっていくのだなぁと。前作にも予兆はあったが、定型的なポップスの文法を真部的に翻訳して仕上げるスタイルが極まりつつあって。業のようにこびりつく旋律の中毒性が、斉藤里菜の平熱な歌声を味方につけて不思議な詞世界と共に迫ってくる。とりわけ「ザ・クレーター」の持つ終末観/虚無感は格別だ。 一見ふざけたようなアルバムタイトルもあながち間違いではない、ような。
14位 スピッツ『見っけ』
結成32年、16枚目のアルバム。みたいな前置きをすっ飛ばしたエバーグリーンさが彼らの音楽には常にある。2019年だろうと1989年だとうと2119年だろうとこういうアルバムをきっと創れるバンドなのだ。そしてやっぱりタイトルが秀逸。生きて死んでいくその止めようのない流れの中で、見っけたこと、見っけたいこと、見っけてたのに気付いてなかったことを、簡単な言葉で置き土産のように僕らにくれる。いつも通りのはみ出し者としての目線は健在ながら、愛おしい存在に対して開けた想いをくべる楽曲も多い。ロックモードなサウンドながら過去イチの”優しいあのスピッツ“を堪能できる。
13位 岡崎体育『SAITAMA』
笑えるものって広まる。コミックソングは何十年も前からたくさん流行ったし、ここ数年はフェスとかライブで笑いを取れることが盛り上がることにも繋がっちゃったりする。岡崎体育はその役割を"道化師"として引き受けたうえで、虎視眈々とこのマジ歌アルバムを出す時を心待ちにしていたのだろう。絶好のタイミングで投下された本作、とりわけ後半の素晴らしさよ。氷原に佇む幻想曲「Jack Frost」、宇治のスーパーマーケットで花開く恋の歌「私生活」、自身の表現と静かに向き合った「龍」、神々しいEDM「The Abyss」。どんな音楽でも描ける男の、どうしてもやりたかった音楽たち。
12位 私立恵比寿中学『MUSiC』
「アイドルのわりに曲がいい!」的な言説に対しての押し問答ってもう散々やりつくされたし、その辺を最初から圧倒的なクオリティで突破していたエビ中は、当たり前のようにやりすぎてて音楽的評価がずっと少ないのがもどかしかった。満を持してその本質である「音楽」を結成10周年を記念したアルバムに冠し、改めて堂々と提示してくれたことが何より嬉しい。その中心にあるのがメンバー6人の歌声なわけだが、少し力の抜けた発声が心地よい「踊るロクデナシ」や、艶っぽい「曇天」など、経年変化を恐れぬ新たな表情ばかり。そして6人の声の重なりは相変わらず特別な輝きを放っている。
11位 小沢健二『So kakkoii 宇宙』
実に17年ぶりのボーカルアルバム。アメリカから日本に戻ってきてからのオザケン(とその子供たち)は言動や着眼点の1つ1つが新鮮なモノに驚きっぱなしな異星人のようで。この国、及びワンルームの宇宙で思わず見逃してかけてきた事象も良し悪し問わずに引っ張り出してくる剛腕さ。本作はそんな発見と「エウレカ!」の記録のような1作。ゴージャスなストリングス/ホーンを身に纏った曲も享楽とは程遠い情報たっぷりの言葉が詰め込まれ、否応なしに我々を鼓舞する。そんな浮世離れした場所からのアジテートは無責任とも言われかねないけど、今必要なのはそういうハッとなる気づきなのかも。
10位 Maison book girl『海と宇宙の子供たち』
箱庭的な世界観で繰り広げられる変拍子ナンバー、という持ち味ゆえにアイドルリスナーにもハードル高めの存在だった彼女たち。今作では明らかに新天地に降り立っている。imageやyumeの外側へと肉体を持ってやってきたような実在性が強く刻まれてあるのだ。ブクガ印の不穏な音像は定型的なリズムをあてはめても失われない孤高の美しさを誇っているし、一段と凛々しくなった4人の歌声はくっきりと楽曲に表情をつける。夜から朝へと移っていく物語や、海/宇宙に対峙して紡がれた大いなる意志に、成長や歴史がそのまま乗り移っていく。これって実は優れたアイドルアルバムの王道だったり。
9位 ズーカラデル『ズーカラデル』
札幌発3人組、メジャー1st。このバンドのストロングポイント、正直未だに説明がつかないのです。さっぱりとした演奏や衒いないグッドメロディ、フワフワっとかわいいコーラスが乗っかるところ、どれもシンプルできゅんとなる。ただ、そういう音楽的な部分を凌駕する"期待感"がこのアルバムにはある。何かが起こるその寸前。今いる場所から進むか戻るか、その決断の隙間に降り注ぐドキドキがたっぷりとパッケージされている。穏やかに別れを歌う「光のまち」から、そんな彼女のこれからをそっと願う名曲「アニー」へと繋げる終盤の物語もまた、何かが始まる予感を携えて飛び立つのだ。
8位 MONO NO AWARE『かけがえのないもの』
小1~高3までの12年間を題材に、ソングライター玉置周啓がユーモアと俯瞰と当時の記憶を混ぜ合わせながら綴った12曲に、根源的な愛にタッチする「A・I・A・O・U」(母音って母の音って書くんですよね、、)を加えた13曲。恥ずかしくて顔を覆いたくなるような幼き日の出来事も、思春期特有の自意識も、エモーションの漲る青春の日々も、全てをありったけの愛で包み込む。なんてヘンな音楽なんだ!という出会い頭の印象を丸ごと変える、実直でハートフルな思い出のアルバム。特に純朴と焦燥が交差する高校生編の3曲は今すぐ走り出したくなる青さ。まさかこんなバンドだったとはなぁ。
7位 眉村ちあき『めじゃめじゃもんじゃ』
1年程前に「ゴッドタン」で出会ったときには、まさかこれほど好きになるとは思いもよらず!キャラクターとか即興ソングライティングの凄さとかはもちろん反射的に「良い!」と思えたけど、1枚の作品をじっくりと味わって「良い、、、」となるタイプだと思っていなかった。どこからどう飛び出てくるのか分からないポップスの楽しさを、独自の言語で編まれるコミュニケーションを、やりたいことをすぐ形にする才能を、全身で浴びる音楽体験。番組で生まれた名曲「大丈夫」に書き足した2番で射抜いた自らのスピード感。目まぐるしい世に目を回さないために彼女は高速回転を続ける。
6位 ナードマグネット『透明になったあなたへ』
昨年リリースの「THE GREAT ESCAPE」における、切実な祈りはこの物語へと繋がった。面白くない職場のくだらない連中、つまらない飲み会はどうでもいいニュースばかりが肴になる。自分以外クソな世界で唯一マトモな自分を何とか保つ僕の、誰とも分かち合えないと思っていた価値観をそっと分かってくれたあの娘が今ここにいないこと。心を麻痺させてなかったことにする?どうしようもないことだと受け入れる?その選択は出来なくて、現状を諦めきれないから苦しいこの日々を打ち抜くぶっといパワーポップ。そこに託した13の理由ならぬ13の突破口。ほんとのままで居て何が悪いのか。
5位 teto『超現実至上主義宣言』
"現実を超えた"という意味に加え、"すこぶる現実すぎる"というニュアンスも覆い被さる「超現実」たる言葉。そのどちらも掠め取って今ここに在る世界をギラギラの目で捉えたメジャー2nd。前作同様15曲収録の特大ボリュームながら、曲順の良さからかするりと聴ける。前半はハードに攻める楽曲が所狭しと。「不透明恋愛」以降はメロディアスに胸を焦がす佳曲揃い。シンセの大胆な導入でポップさに磨きをかけつつも、あくまで情緒や空気感の補強。核にある爆発的なエナジーは損なわれず、絶頂だけを繰り返す62分間。特に「コーンポタージュ」の郷愁から今へと向かうエモーションったら!
4位 サカナクション『834.194』
1年1曲のペースの新曲リリース、それら全てが強いインパクトを誇っていたゆえに、アルバムとしてのまとまりは如何に?と聴く前は思っていたのだが杞憂であった。東京-札幌間の"距離間"を心理面と音楽面のどちらにも落とし込み、その両方を往来すること自体を楽曲の振れ幅へと転化させている。キャッチーの限りを尽くしたDisc1(東京盤)のこってりとした聴き心地は、Disc2(札幌盤)の五臓六腑に染み渡るような叙情を一層引き立てる。6年かけて丹念に練り上げた新しい音楽は内側も外側も全てを見せつける生々しいもの。興奮と静謐、熱狂と侘寂、どこをとってもサカナクションでしかない。
3位 カネコアヤノ『燦々』
天啓や革命などではない。生活の中で生まれた、生活のことを綴った歌たち。それらは僕らの日々をそっとつまみあげて、いじらしい思慕を注入してくれるのだ。好きと嫌いの間に流れる邪魔くさい愛しさや、寝て起きて動き出すまでの間に膨らんでくるにこやかさ。彼女の歌にはそういう、“間”にしか見えてこない心持ちが見事に言い当てられている。ジャケットのネコちゃんばりに、ごろにゃあっと喉を鳴らすカネコアヤノの歌声は豊かな情感を湛え、盤石の演奏陣も更に歌へと寄り添うように。こんな音楽を優しい気持ちで聴き続けられる日々がどこまでも誰にでも連鎖していけばいいのになぁ。
2位 スカート『トワイライト』
結局のところ、沁みる音楽が好きなのだな、とここ数年思っている。その理想的な"沁み"を常に提供してくれるのがスカートだ、とこのメジャー2ndアルバムで確信した。黄昏という感傷にはうってつけの時間帯、春と冬という寂しげな季節をモチーフにした楽曲たちは、それぞれが違う風景を描きながらもどこか共振し合い、近いニュアンスのセンチメントを積み重ねていく。君がここにいることも、ここにいないことも、等しく切ないことである、と。あの時見せた表情や、振り向いた時の髪の匂いが、今でも胸を震わせているように、この作品も、知らずに記憶に紛れ込んでいく(のだと思う)。
1位 For Tracy Hyde『New Young City』
久しぶりに音楽にひれ伏す感覚を味わった稀有な衝撃作。おかげでこんな謎レビューをしたためるほど、イマジネーションを掻き回してきた。透明度の高い音像で鮮やかに色付けされた世界で繰り広げられる幾つかの恋の光景。春の陽気に包まれながらこのアルバムを聴く日を今は静かに待っている。
<2019年ベストアルバム トップ50>
1位 For Tracy Hyde『New Young City』
2位 スカート『トワイライト』
3位 カネコアヤノ『燦々』
4位 サカナクション『834.194』
5位 teto『超現実至上主義宣言』
6位 眉村ちあき『めじゃめじゃもんじゃ』
7位 ナードマグネット『透明になったあなたへ』
8位 MONO NO AWARE『かけがえのないもの』
9位 ズーカラデル『ズーカラデル』
10位 Maison book girl『海と宇宙の子供たち』
11位 小沢健二『So Kakkoii 宇宙』
12位 私立恵比寿中学『MUSiC』
13位 岡崎体育『SAITAMA』
14位 スピッツ『見っけ』
15位 集団行動『SUPER MUSIC』
16位 King Gnu『Sympa』
17位 エイプリルブルー『Blue Peter』
18位 lyrical school『BE KIND REWIND』
19位 アルカラ『NEW NEW NEW』
20位 NYAI『HAO』
21位 私立恵比寿中学『playlist』
22位 パスピエ『more humor』
23位 秦基博『コペルニクス』
24位 a flood of circle『CENTER OF THE EARTH』
25位 あいみょん『瞬間的シックスセンス』
26位 Yogee New Waves『BLUEHARLEM』
27位 フジファブリック『F』
28位 sora tob sakana『World Frangment Tour』
29位 NICO Touches the Walls『QUIZMASTER』
30位 スガシカオ『労働なんかしないで光合成だけで生きていきたい』
31位 the chef cooks me『Feeling』
32位 ももいろクローバーZ『MOMOIRO CLOVER Z』
33位 never young beach『STORY』
34位 YUKI『forme』
35位 GRAPEVINE『ALL THE LIGHT』
36位 BiSH『CARROTS and STiCKS』
37位 ROTH BART BARON『けものたちの名前」
38位 佐藤千亜妃『PLANET』
39位 Have a Nice Day!『DYSTOPIA ROMANCE 4.0』
40位 Official髭男dism『Travelers』
41位 Tempalay『21世紀より愛をこめて』
42位 go!go!vanillas『THE WORLD』
43位 オカモトコウキ『GIRL』
44位 ジェニーハイ『ジェニーハイストーリー』
45位 めぞんド山口『旅路はつづく』
46位 PEDRO『THUMB SUCKER』
47位 ヒトリエ『HOWLS』
48位 キイチビール&ザ・ホーリーティッツ『鰐肉奇譚』
49位 2『生と詩』
50位 さよならポニーテール『来たるべき世界』
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