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For Tracy Hydeと彼女たち

For Tracy Hyde(略称フォトハイ)の3rdアルバム『New Young City』が素晴らしい。ぶ厚いギターサウンド、ドリーミーでファンタジックな音像、発色豊かなボーカルに、ダダ漏れの詩情。お前はコレが好きなんだろ!と肩を揺さぶられているような聴き心地に酔いしれる逸品。何とかこの良さをレビューしたいと言葉を並べてみたけど、どうにもしっくり来ず。じゃあ自分がフォトハイを聴いている時に思い浮かべてしまう女優さんたちと併せて語ればイメージビデオ的に伝わるのでは?という発想に至り、これを記すのだった。


1. Opening Logo(Photo High Inc.)~ 2. 繋ぐ日の青 × 小川紗良

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目が覚めるような健やかな空と海が映るオープニング。バニラの街に吹く風を後ろ髪に絡ませ駆け抜けるその姿。幼くも憂いに満ちていて。<あなたは今日も生きていて、それだけで嬉しくなって><わたしは今日も生きていて、それだけで切なくなって>という逆さまな感情の機微を、彼女はこちらを見つめる一瞬の表情で捉えてしまう。間違ってしまってもいいのか、、、


3. ハル、ヨル、メグル。× 黒木華

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彼女はおぼこい顔で日常感を出すのがとても巧いのだけど、僕は妙に蠱惑的でどこかに知らない境地に連れていかれそうな色気を醸し出している姿にもクラクラきてしまう。華と書いてハルと読ませる、ただそれだけでいくつかの宇宙に触れてしまっている気がするのだ。<泣きじゃくる君に困らされて、ときめいてどうかしちゃった!>という心の溢れを成立させてしまう。


4.麦の海に沈む果実 × 門脇麦

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「二重生活」という映画、冒頭での菅田将暉との戯れ合いをより熱いものに脳内変換したシーンがこの曲のリファレンス。ミステリアスな雰囲気もあるけど、つつましいほどの生活感が溢れている彼女がとてもいい。「さよならくちびる」でのアコギを爪弾く姿も思い浮かべながら。<No one else!>なのよな。後半どんどん熱情が上がっていく曲調にもぴったりな奥深い魔性。


5. ラブイズブルー ~ 6. ハッピーアイスクリーム × 岸井ゆきの

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全て「愛がなんだ」のせい。じっと相手を見つめる表情が可愛く、そして怖くもあることが分かった以上、<あなたの在り方に思いを馳せるわたし>というテーマには彼女が浮かんでくる。ややメルヘンで跳ねた曲調もまた彼女っぽい。何回、言葉が重なっても「ハッピーアイスクリーム!」と言うのは彼女のほうだけなのだ。そして少し不貞腐れた顔で後ろをついてくるのだ。

 

7.君にして春を想う × 波瑠

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春をテーマにしたこのアルバムなので、どこかぬくぬくとしながらも何かが終わり何かが始まらざるを得ない不気味な予感も携えている。見惚れる程に美しいんだけど、何か不穏なものをその大きな瞳に抱えている彼女は舞い落ちる桜の雨の中で踊る。全てを見透かしているようでいてあどけなさもあったり。波に瑠と書いてハルと読ませる。それだけでいくつかの宇宙に、、、


8.Hope ~ 9.Grow With Me × 松野莉奈

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彼女は希望だった。5年前に知ったその眩しさと温もりは、もう居ないという事実さえも置き去りしながら自分の中でいまだに強い存在であり続けている。この世界線では17才で止まった時間も、どこかの並行世界ではきっとまだ続いていて。そこに一瞬でも行くことができたらな、と。21才の彼女はどんな顔で笑っているのだろう。そんな気持ちになれる、短くも流麗な小曲。


10.ライトリーク × 土村芳

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アルバム屈指の重厚さとたっぷりしたビートを持った1曲。<あなたが海に変わる音で あれるように祈ることで息をしている>という少しゾッとするような想いを寄せざるを得ない彼女は、意外とこんな親しみやすい顔をしているのかもしれない。くだけた笑顔で油断させて、全て捧げてしまうことになる相手なのかもしれない。「本気のしるし」を観てそんなことを考えた。


11.曖昧で美しい僕たちの王国 × のん

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サイドボーカルに徹してきた当バンドの首謀者・夏bot氏がAメロで憂いある歌声を披露する1曲。のん(a.k.a能年玲奈)の抱えてきた怒りや鬱憤は、ほとんど表に出ないダークサイド。しかし、映画製作ドキュメンタリーで覗かせた低い声と苛立ちを隠せない姿は、日常を生きる彼女を少し見せてくれたようで。そんな暗い感情はこの美しい王国の中で赦し解いてやってくれないか。


12. Girl's Searchlight × 吉岡里帆

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ひとり、部屋で去っていった人のことを想う歌。未来はいつだって頼りないし、不甲斐ないもの。思えば、ブレイク前夜の吉岡里帆は常に人を食ったような嫌なキャラクターを演じ続けていた。しかし彼女が演じたそんな人々にもきっとこんな心が引きちぎれそうな夜があったのだろう。だからこそ、彼女たちは違う角度から自分にサーチライトを当てる。そして笑いかける。


13.Can Little Birds Remember? × 三浦透子

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「曖昧で~」同様、デュエット的な作りを持つ全英語詞の1曲。ストレートなギターロックで展開していく楽曲なのだけど、疾走感というより寂しさとか侘しさが胸いっぱいに広がってくる。彼女の持つ朴訥としているようで神秘的でもあるビジュアルが飛び込んでくる。霧深い森の中に、静かにたたずんでいるような。フェードアウトで余韻を残して終わるのも実に劇的だ。


14.水と眠る × 橋本愛

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ノイズで埋め尽くされ、歌声もぼやぁっとした処理をされている、所謂シューゲイザー的な趣の強い1曲。白夜と水中という、まっさらで根源的なアイテムを用いてどんどん感傷へと引きずり込んでいくような。これはもう曲自体が彼女、って感じ。シーンが思い浮かぶというより、この曲こそが橋本愛。テン年代のサブカル野郎は、ひとり残らず橋本愛へと沈んでいくのだ。 

 

15.櫻の園 ~ 16. Glow With Me × 森七菜

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アルバムの最後を柔らかく着地させる2曲。<希望は諦めを含むと知る君>を彼女にあてがうのはやや忍びないのだけど、彼女の言葉遣いや喋りには常にどこか物悲しさがあって。まるで終わりをもう分かっているかのような詩情がある。彼女が見せる笑顔はラストシーンに相応しく、同時に未来へと繋がっていくようなイメージを喚起させてくれる。時空を歪ませる透明感。


どういうジャンルの文章なのか分からない奇文が出来上がってしまった。音楽を語るうえで自分の思い出や人格を合わせて書くのが「自分語り」と言うならば、これは「他人語り」とか「第三者語り」と呼ぶべき代物なのかもしれんです。人には人の『New Young City』。思い思いの光景を思い浮かべて聴くことでそれぞれの世界が立ち上がる。良質な音楽が成せる妖術である。

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