左右社

2005年設立の、人文書・文芸書を中心に刊行する出版社です。左右社という社名は書家の石…

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2005年設立の、人文書・文芸書を中心に刊行する出版社です。左右社という社名は書家の石川九楊先生に付けていただきました。亀のかめ吉を飼っています。

マガジン

  • 浅生鴨の短編Z

    月に二本の短編を掲載します。一篇ずつでも購入できますが、マガジンをご購読いただくと、ほんの少し割引になります。あとコメントは励みになります。誤字脱字の指摘も喜んで!(あまり喜ばない) 過去のマガジン『短編三〇〇』をまとめた 第一集『すべては一度きり』 https://amzn.to/3MSgEOq 第二集『たった二分の楽園』 https://amzn.to/3P7uTRi 第三集『三万年後に朝食を』 https://amzn.to/4e0cf9X 発売中。 第四集も準備中!!

  • 無料公開

    左右社の刊行書籍より、各タイトルごとに本文を一部無料公開しています。

  • ところで、愛ってなんですか?

    デビュー歌集『夜にあやまってくれ』から現在にいたるまで一貫して「愛」を詠みつづけてきた歌人・鈴木晴香さんが、愛の悩みに対してさまざまな短歌を紹介します。月一回更新予定です。

  • 男の愛/町田康

    「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』が、町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。 ★既刊『男の愛 たびだちの詩』(第1話〜24話収録)、大好評発売中★

  • わたしのおとうさんのりゅう

    詩人の伊藤比呂美さんの連載。幼い頃、誰もが一度は目にしたことのある名作『エルマーのぼうけん』(ルース・スタイルス・ガネット作・わたなべしげお訳・ルース・クリスマン・ガネット絵、福音館書店)から始まる、児童文学、ことば、そして「私」の記憶をたどる道行き。

記事一覧

【試し読み】瀬尾浩二郎『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』「はじめに」

2024年9月20日より、哲学カルチャーマガジン『ニューQ』編集長の瀬尾浩二郎さん初の書籍『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』を発売いたします。 刊行を記…

左右社
11日前
17

ところで、愛ってなんですか? [第7回]

この店をオープンした日を思い出していた。 たいていの場合、店を始める前には計画を立てるのだろう。いつまでに何がどれくらいどんなふうに必要なのか。 でも私はすべてが…

左右社
2週間前
19

人違い/町田康

 保下田の久六は最終的に一の宮多左衛門と和解した。  和解と言うと、裁判所で裁判官に決めてもらったように聞こえるが、当然、そんなことではなく、大きい宿屋を借り切…

左右社
4週間前
3

夏休みに新しいことや勉強を始めたい人、必見! 左右社おすすめ語学書5タイトル

夏休みに新しいことを始めたい人、語学を勉強しようと思っている方、必見です! 左右社より、ぜひオススメしたい語学書を紹介。語学に限らず、勉強や新しいことを始めるモ…

左右社
1か月前
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ところで、愛ってなんですか? [第6回]

風は相変わらず強い。 風は目に見えない。それなのに確かにそこに存在して、人を撫でたり、屋根を壊したり、海に波を立てたりする。 愛も目に見えない。愛はどんな形の手…

左右社
1か月前
21

次郎長はなにかあっても久六を応援する/町田康

 安政二年十一月、八尾ヶ嶽宗七改め保下田の久六より次郞長の許に手紙が届いた。急ぎ封を切ると、  お元気ですか。実は一の宮の太左衛門とまた喧嘩になりました。現段階…

200
左右社
1か月前
10

ところで、愛ってなんですか? [第5回]

風が強い。季節が変わるのだろうか。 それとも、何も変わらないのだろうか。 〈BAR 愛について〉の看板に電源を入れる。四角い看板をひからせているのは、私じゃなくて電気…

左右社
2か月前
24

【試し読み】ユリア・エブナー『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』第2章「サブカルチャーの創生─インセ…

 初めに逸脱したサブカルチャーがあった。  心臓が早鐘を打つ。ラップトップを閉じて慌ててクローゼットの奥に押し込んだ。靴下の後ろに隠したから、たぶんあと数時間は…

左右社
2か月前
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大政の来歴・尾張からの手紙

 宗七が上州館林江戸屋虎五郎のところへ発って数日、次郞長は気が脱けたようにボンヤリして過ごしていた。これを見た乾分達は心配でしょうがない。 「親分、どうしちまっ…

200
左右社
2か月前
11

擬タイ日記 第1回

わたしたちはたぶん大体、みんな「擬態」している。 擬態というのは、動物とか虫とかが、攻撃したり守ったりするときに、自分をほかのものの姿に似せて、本当の姿を隠すあ…

左右社
3か月前
178

ところで、愛ってなんですか? [第4回]

日曜日は、空が明るくなり始めたらBARを開けることにしている。朝はいい。姿の見えない鳥が鳴いていたり、昨日の続きを酔っている人がいたりする。人と世界、人と人との距…

左右社
3か月前
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弊履/町田康

 嘉永三年十一月、清水港は秋であった。次郞長方の表の方では箒とちり取りを持った乾分が落ち葉を掃いている。 「いやいや、こう落ち葉が舞い散ると掃除も大変でサアなー…

200
左右社
3か月前
6

【最新情報 更新6/21】「水野しず『正直個性論』先行販売&フェア・サイン本情報

 全国書店およびネット書店での発売は5/31(金)からとなりますが、一部店舗での先行販売も予定しております。  「序文」を読んで、一足先に『正直個性論』を手に取りた…

左右社
4か月前
21

【無料公開】水野しず『正直個性論』/序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします)

 ミスiD2015グランプリを受賞後、文筆やイラストを中心にマルチに活躍する水野しず。2023年4月に初の論考集『親切人間論』を発表し、生活の些細な瞬間に根ざしたオリジナ…

左右社
4か月前
72

ところで、愛ってなんですか? [第3回]

暗闇に包まれていると、自分の躰がどこまであるのか、その輪郭がわからなくなる。どうしてもそれを確かめたくて、誰かを、何かを抱きしめたくなったりする。今はベッドに潜…

左右社
4か月前
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骨折してもうれしい/町田康

 嘉永三年、九月の昼下がり、次郞長は家で物思いに耽っていた。人はなぜ生まれてくるのだろうか。死んだらどこに行くの? 酢味噌っておいしいよね。俺は好きだよ、といっ…

200
左右社
4か月前
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【試し読み】瀬尾浩二郎『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』「はじめに」

【試し読み】瀬尾浩二郎『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』「はじめに」

2024年9月20日より、哲学カルチャーマガジン『ニューQ』編集長の瀬尾浩二郎さん初の書籍『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』を発売いたします。
刊行を記念して、本書の『はじめに』を無料公開いたします。

何かを「つくること」と「哲学すること」。はたして、この二つの間には、どのような関係があるのでしょうか。
また、その二つをつなぐ何かがあるとしたら、一体どのようなものなのか。もしく

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ところで、愛ってなんですか? [第7回]

ところで、愛ってなんですか? [第7回]

この店をオープンした日を思い出していた。
たいていの場合、店を始める前には計画を立てるのだろう。いつまでに何がどれくらいどんなふうに必要なのか。
でも私はすべてが行き当たりばったりだった。ひかる看板も、開店してから買いに行ったのだ。計画性がまるでない、というより、未来を決めてしまうのが怖かった。映画の予約を取りたくない。旅行の行き先を決めたくない。私の未来が、私によって規定されてしまうことを、極端

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人違い/町田康

人違い/町田康

 保下田の久六は最終的に一の宮多左衛門と和解した。
 和解と言うと、裁判所で裁判官に決めてもらったように聞こえるが、当然、そんなことではなく、大きい宿屋を借り切って、仲裁人が間に入り、方々の親分が証人として集まり、盃ごとをして、向後は争わないことを誓約する。
 もしこの誓いを破ったら、その時は集まった親分全員が敵となるのである。
 次郞長は安政三年正月に行われたこの手打ち式に、久六側の付添として列

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夏休みに新しいことや勉強を始めたい人、必見! 左右社おすすめ語学書5タイトル

夏休みに新しいことや勉強を始めたい人、必見! 左右社おすすめ語学書5タイトル

夏休みに新しいことを始めたい人、語学を勉強しようと思っている方、必見です! 左右社より、ぜひオススメしたい語学書を紹介。語学に限らず、勉強や新しいことを始めるモチベーションを上げてくれること間違いなしのタイトルを揃えました。
*タイトル、画像をクリックするとAmazonページに移動します。

英語を勉強したい人、必読! 新井リオ『英語日記BOY』

お金をかけずに英語をマスターしたい人、海外で活躍

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ところで、愛ってなんですか? [第6回]

ところで、愛ってなんですか? [第6回]

風は相変わらず強い。

風は目に見えない。それなのに確かにそこに存在して、人を撫でたり、屋根を壊したり、海に波を立てたりする。
愛も目に見えない。愛はどんな形の手で人を撫で、肉体や心に波を立てているのだろうか。あるいはどんな温度の手で。

「恋人をふってしまったんです」
そう言って表情を失ってしまった彼女に、冷たくした水道水を出した。ここは、BAR〈愛について〉。BARといってもジントニックもシャ

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次郎長はなにかあっても久六を応援する/町田康

次郎長はなにかあっても久六を応援する/町田康

 安政二年十一月、八尾ヶ嶽宗七改め保下田の久六より次郞長の許に手紙が届いた。急ぎ封を切ると、

 お元気ですか。実は一の宮の太左衛門とまた喧嘩になりました。現段階では向こうの方が人数が多いです。此の儘では負けてしまいます。それはとても嫌なことなので、至急、応援しに来てください。ではまた。
                          保下田村 久六拝

 長五郎様玉机下

 と書いてある。次

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ところで、愛ってなんですか? [第5回]

ところで、愛ってなんですか? [第5回]

風が強い。季節が変わるのだろうか。
それとも、何も変わらないのだろうか。
〈BAR 愛について〉の看板に電源を入れる。四角い看板をひからせているのは、私じゃなくて電気だ。私ができることはコードを抜き差しすること。それだけ。
愛だってそう。私は愛の悩みに答えてはいるけれど、本当は愛について何か知っているわけじゃない。でも、いつか愛に傷ついたことがあるから、誰かの痛みの深さやかたちを想像することができ

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【試し読み】ユリア・エブナー『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』第2章「サブカルチャーの創生─インセルの潜入調査」

【試し読み】ユリア・エブナー『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』第2章「サブカルチャーの創生─インセルの潜入調査」

 初めに逸脱したサブカルチャーがあった。
 心臓が早鐘を打つ。ラップトップを閉じて慌ててクローゼットの奥に押し込んだ。靴下の後ろに隠したから、たぶんあと数時間は見なくてすむ。ツイッター〔現X〕で匿名の誰かがたったいま送ってよこした、わたしと墓地の写った不吉な写真のことなど忘れてしまおう。とくに珍しくもないことだから。反フェミニズムの台頭について公に話をしたあとに続々と届く脅迫メッセージの、いちばん

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大政の来歴・尾張からの手紙

大政の来歴・尾張からの手紙

 宗七が上州館林江戸屋虎五郎のところへ発って数日、次郞長は気が脱けたようにボンヤリして過ごしていた。これを見た乾分達は心配でしょうがない。
「親分、どうしちまったのかねぇ、まるでふぬけじゃねぇか」
「どうもこうもねぇやな、尾張の相撲取りが居なくなって寂しいのよ」
「ちょっと、おまえ、行って慰めてやんねぇ」
「じゃあ、そうすっか」
 と言うので、乾分の中でも剽軽な野郎が、座敷でぼんやり莨を吸っている

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擬タイ日記 第1回

擬タイ日記 第1回

わたしたちはたぶん大体、みんな「擬態」している。
擬態というのは、動物とか虫とかが、攻撃したり守ったりするときに、自分をほかのものの姿に似せて、本当の姿を隠すあれのことだ。

もちろん人間は、基本的には、思いついたときに即座に身体の表面の色とか外形を変えたりすることはできない。ただ、自分が赴く場所とか環境とか、向き合う相手、あるいはそのときの気分に応じて、表情でも、立居振舞でも、口調でも、次々と変

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ところで、愛ってなんですか? [第4回]

ところで、愛ってなんですか? [第4回]

日曜日は、空が明るくなり始めたらBARを開けることにしている。朝はいい。姿の見えない鳥が鳴いていたり、昨日の続きを酔っている人がいたりする。人と世界、人と人との距離が、少しだけ離れている感じ。魂もまた、躰からちょっと遠くに行ってしまっているみたいだ。そんなとき、猫も人間も伸びをする。遊離した魂を元の場所に詰め直すみたいな静かな作業だ。

薄いひかりが積もったカウンターを眺めていると、からんとベルを

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弊履/町田康

弊履/町田康

 嘉永三年十一月、清水港は秋であった。次郞長方の表の方では箒とちり取りを持った乾分が落ち葉を掃いている。
「いやいや、こう落ち葉が舞い散ると掃除も大変でサアなー」
「マア、ね。こっちは博奕をして、白粉をつけた女からかって、毎日をおもしろおかしく暮らしてぇと思ってやくざになったんだが、どーにも調子が狂っちまう」
「ふんとーにナー」
 とぼやいているところ、次郞長の女房、蝶が風呂敷包みを抱えて出てきた

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【最新情報 更新6/21】「水野しず『正直個性論』先行販売&フェア・サイン本情報

【最新情報 更新6/21】「水野しず『正直個性論』先行販売&フェア・サイン本情報

 全国書店およびネット書店での発売は5/31(金)からとなりますが、一部店舗での先行販売も予定しております。
 「序文」を読んで、一足先に『正直個性論』を手に取りたくなった方、ぜひ先行販売をご利用ください。フェアやイベント、サイン本の展開も目白押しです!

【5/19以降】 先行販売■5/19(日)文学フリマ東京38@水野しずブース 
・限定50冊を先行販売。その場で著者がサインします。 完売御礼

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【無料公開】水野しず『正直個性論』/序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします)

【無料公開】水野しず『正直個性論』/序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします)

 ミスiD2015グランプリを受賞後、文筆やイラストを中心にマルチに活躍する水野しず。2023年4月に初の論考集『親切人間論』を発表し、生活の些細な瞬間に根ざしたオリジナルな問いを深め、饒舌かつ鋭く切り込む無二の書き手として注目を集めています。
 今回テーマとするのは「個性」。noteでの連載マガジン「おしゃべりダイダロス」で好評を集めたエッセイに大幅な加筆修正を加え、『正直個性論』として5月末に

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ところで、愛ってなんですか? [第3回]

ところで、愛ってなんですか? [第3回]

暗闇に包まれていると、自分の躰がどこまであるのか、その輪郭がわからなくなる。どうしてもそれを確かめたくて、誰かを、何かを抱きしめたくなったりする。今はベッドに潜り込んだまま猫のぬいぐるみを抱いて、私と夜の位置を確かめていた。台風みたいに時々じゃない。夜は毎日訪れる。そのことを恐れているわけではなかった。ただ、かならず繰り返す夜の律儀さに打ちのめされて、その生真面目さにちょっと呆れてしまうのだ。いつ

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骨折してもうれしい/町田康

骨折してもうれしい/町田康

 嘉永三年、九月の昼下がり、次郞長は家で物思いに耽っていた。人はなぜ生まれてくるのだろうか。死んだらどこに行くの? 酢味噌っておいしいよね。俺は好きだよ、といった事柄について。と、その時も表の方に旅人が立った。
 入り口のところで膝を突いて手を後ろにやって、どうしたって刀を抜けない恰好をするのは、「当家にお手向かいするんじゃありません」と言うのを口で言わず、形で見せるやくざのしきたり、「お控えなす

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