左右社

2005年設立の、人文書・文芸書を中心に刊行する出版社です。左右社という社名は書家の石…

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2005年設立の、人文書・文芸書を中心に刊行する出版社です。左右社という社名は書家の石川九楊先生に付けていただきました。亀のかめ吉を飼っています。

マガジン

  • 浅生鴨の短編Z

    月に二本の短編を掲載します。一篇ずつでも購入できますが、マガジンをご購読いただくと、ほんの少し割引になります。あとコメントは励みになります。誤字脱字の指摘も喜んで!(あまり喜ばない) 過去のマガジン『短編三〇〇』をまとめた 第一集『すべては一度きり』 https://amzn.to/3MSgEOq 第二集『たった二分の楽園』 https://amzn.to/3P7uTRi 第三集『三万年後に朝食を』 https://amzn.to/4e0cf9X 発売中。 第四集も準備中!!

  • 「ウェイリー版源氏物語」

    2024年9月、NHK「100分de名著」にウェイリー版源氏物語が取り上げられました! 放送を記念して、毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」をご紹介します。

  • ところで、愛ってなんですか?

    デビュー歌集『夜にあやまってくれ』から現在にいたるまで一貫して「愛」を詠みつづけてきた歌人・鈴木晴香さんが、愛の悩みに対してさまざまな短歌を紹介します。月一回更新予定です。

  • 『#サーチして短歌ツイートすぐできる枡野浩一全短歌集』

    • 493本

    このマガジンの記事は『#サーチして短歌ツイートすぐできる枡野浩一全短歌集』一本のみです。あとの記事はおまけで、増えたり減ったりします。

  • 男の愛/町田康

    「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』が、町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。 ★既刊『男の愛 たびだちの詩』(第1話〜24話収録)、大好評発売中★

記事一覧

【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「夕顔」帖2

2024年9月、NHK「100分de名著」にウェイリー版源氏物語が取り上げられました! 放送を記念して、毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」第1巻より、「夕…

左右社
4日前
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【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「夕顔」帖1

2024年9月、NHK「100分de名著」にウェイリー版源氏物語が取り上げられました! 放送を記念して、毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」第1巻より、「夕…

左右社
4日前
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ところで、愛ってなんですか? [第8回]

起きている時も、夢を見ているのかもしれない。ドラッグストアの光や交差点のクラクションにかき消されているだけで。 いつもは見えなくなっている昼間の夢。それが、ある…

左右社
6日前
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【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「桐壺」帖

2024年9月、NHK「100分de名著」にウェイリー版源氏物語が取り上げられました! 放送を記念して、毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」第1巻より、「桐…

左右社
10日前
21

大和で盆ゴザ、アーコリャコリャ/町田康

 人違いで赤鬼の金平の一味と見做され、役人に追われた次郞長は尾張を逃れて水路、伊勢に趣き武蔵屋周太郎方に寄寓した。  武蔵屋周太郎と次郞長とは五分の盃を交わした…

左右社
2週間前
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【試し読み】瀬尾浩二郎『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』「はじめに」

2024年9月20日より、哲学カルチャーマガジン『ニューQ』編集長の瀬尾浩二郎さん初の書籍『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』を発売いたします。 刊行を記…

左右社
1か月前
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ところで、愛ってなんですか? [第7回]

この店をオープンした日を思い出していた。 たいていの場合、店を始める前には計画を立てるのだろう。いつまでに何がどれくらいどんなふうに必要なのか。 でも私はすべてが…

左右社
1か月前
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人違い/町田康

 保下田の久六は最終的に一の宮多左衛門と和解した。  和解と言うと、裁判所で裁判官に決めてもらったように聞こえるが、当然、そんなことではなく、大きい宿屋を借り切…

200
左右社
1か月前
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夏休みに新しいことや勉強を始めたい人、必見! 左右社おすすめ語学書5タイトル

夏休みに新しいことを始めたい人、語学を勉強しようと思っている方、必見です! 左右社より、ぜひオススメしたい語学書を紹介。語学に限らず、勉強や新しいことを始めるモ…

左右社
1か月前
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ところで、愛ってなんですか? [第6回]

風は相変わらず強い。 風は目に見えない。それなのに確かにそこに存在して、人を撫でたり、屋根を壊したり、海に波を立てたりする。 愛も目に見えない。愛はどんな形の手…

左右社
2か月前
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次郎長はなにかあっても久六を応援する/町田康

 安政二年十一月、八尾ヶ嶽宗七改め保下田の久六より次郞長の許に手紙が届いた。急ぎ封を切ると、  お元気ですか。実は一の宮の太左衛門とまた喧嘩になりました。現段階…

200
左右社
2か月前
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ところで、愛ってなんですか? [第5回]

風が強い。季節が変わるのだろうか。 それとも、何も変わらないのだろうか。 〈BAR 愛について〉の看板に電源を入れる。四角い看板をひからせているのは、私じゃなくて電気…

左右社
3か月前
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【試し読み】ユリア・エブナー『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』第2章「サブカルチャーの創生─インセ…

 初めに逸脱したサブカルチャーがあった。  心臓が早鐘を打つ。ラップトップを閉じて慌ててクローゼットの奥に押し込んだ。靴下の後ろに隠したから、たぶんあと数時間は…

左右社
3か月前
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大政の来歴・尾張からの手紙

 宗七が上州館林江戸屋虎五郎のところへ発って数日、次郞長は気が脱けたようにボンヤリして過ごしていた。これを見た乾分達は心配でしょうがない。 「親分、どうしちまっ…

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左右社
3か月前
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擬タイ日記 第1回

わたしたちはたぶん大体、みんな「擬態」している。 擬態というのは、動物とか虫とかが、攻撃したり守ったりするときに、自分をほかのものの姿に似せて、本当の姿を隠すあ…

左右社
3か月前
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ところで、愛ってなんですか? [第4回]

日曜日は、空が明るくなり始めたらBARを開けることにしている。朝はいい。姿の見えない鳥が鳴いていたり、昨日の続きを酔っている人がいたりする。人と世界、人と人との距…

左右社
4か月前
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【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「夕顔」帖2

【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「夕顔」帖2

2024年9月、NHK「100分de名著」にウェイリー版源氏物語が取り上げられました!
放送を記念して、毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」第1巻より、「夕顔」帖から一部をご紹介します。

門から敷地内に乗り入れ、玄関前の欄干に横付けすると、馬車に乗ったまま部屋の準備ができるのを待ちます。ウコンは終始素知らぬふりをしていましたが、内心で、マダムのかつての逃避行と思い比べていました

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【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「夕顔」帖1

【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「夕顔」帖1

2024年9月、NHK「100分de名著」にウェイリー版源氏物語が取り上げられました!
放送を記念して、毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」第1巻より、「夕顔」帖から一部を紹介します。

ゲンジが、秘かに六区(ロクジヨウ)の女性[註1]のもとへ通っていたころのことでございます。
パレスからの帰り道のある日、昔の乳母(めのと)を見舞おうと思いつきました。この乳母はいまでは尼僧となり

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ところで、愛ってなんですか? [第8回]

ところで、愛ってなんですか? [第8回]

起きている時も、夢を見ているのかもしれない。ドラッグストアの光や交差点のクラクションにかき消されているだけで。
いつもは見えなくなっている昼間の夢。それが、あるきっかけで現実よりもはっきりと浮かび上がることがある。鍵を鍵穴に差しながら、郵便物をより分けながら、目の前のできごとが遠のいてゆき、別の世界が映し出される。
好きな人、ただその人のことを思ってしまうのだ。
思ってしまうんだから仕方がない。暑

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【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「桐壺」帖

【試し読み】毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」より「桐壺」帖

2024年9月、NHK「100分de名著」にウェイリー版源氏物語が取り上げられました!
放送を記念して、毬矢まりえ・森山恵姉妹訳「源氏物語 A・ウェイリー版」第1巻より、「桐壺」帖の冒頭を公開します。

「Kiritsubo キリツボ」

いつの時代のことでしたか、あるエンペラーの宮廷での物語でございます[原註1]。

ワードローブのレディ(更衣)、ベッドチェンバーのレディ(女御)など、後宮にはそ

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大和で盆ゴザ、アーコリャコリャ/町田康

大和で盆ゴザ、アーコリャコリャ/町田康

 人違いで赤鬼の金平の一味と見做され、役人に追われた次郞長は尾張を逃れて水路、伊勢に趣き武蔵屋周太郎方に寄寓した。
 武蔵屋周太郎と次郞長とは五分の盃を交わした兄弟分である。そこそこに力のある親分で伊勢では穴太徳(あのうとく)という人と結んでいた。だからそこに行けば安心に匿ってもらえる。ほとぼりの冷めるまでそこに居て、それからゆっくり清水へ帰れば良い、とこのように次郞長は考えていたのである。ところ

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【試し読み】瀬尾浩二郎『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』「はじめに」

【試し読み】瀬尾浩二郎『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』「はじめに」

2024年9月20日より、哲学カルチャーマガジン『ニューQ』編集長の瀬尾浩二郎さん初の書籍『メタフィジカルデザイン —つくりながら哲学する—』を発売いたします。
刊行を記念して、本書の『はじめに』を無料公開いたします。

何かを「つくること」と「哲学すること」。はたして、この二つの間には、どのような関係があるのでしょうか。
また、その二つをつなぐ何かがあるとしたら、一体どのようなものなのか。もしく

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ところで、愛ってなんですか? [第7回]

ところで、愛ってなんですか? [第7回]

この店をオープンした日を思い出していた。
たいていの場合、店を始める前には計画を立てるのだろう。いつまでに何がどれくらいどんなふうに必要なのか。
でも私はすべてが行き当たりばったりだった。ひかる看板も、開店してから買いに行ったのだ。計画性がまるでない、というより、未来を決めてしまうのが怖かった。映画の予約を取りたくない。旅行の行き先を決めたくない。私の未来が、私によって規定されてしまうことを、極端

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人違い/町田康

人違い/町田康

 保下田の久六は最終的に一の宮多左衛門と和解した。
 和解と言うと、裁判所で裁判官に決めてもらったように聞こえるが、当然、そんなことではなく、大きい宿屋を借り切って、仲裁人が間に入り、方々の親分が証人として集まり、盃ごとをして、向後は争わないことを誓約する。
 もしこの誓いを破ったら、その時は集まった親分全員が敵となるのである。
 次郞長は安政三年正月に行われたこの手打ち式に、久六側の付添として列

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夏休みに新しいことや勉強を始めたい人、必見! 左右社おすすめ語学書5タイトル

夏休みに新しいことや勉強を始めたい人、必見! 左右社おすすめ語学書5タイトル

夏休みに新しいことを始めたい人、語学を勉強しようと思っている方、必見です! 左右社より、ぜひオススメしたい語学書を紹介。語学に限らず、勉強や新しいことを始めるモチベーションを上げてくれること間違いなしのタイトルを揃えました。
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ところで、愛ってなんですか? [第6回]

ところで、愛ってなんですか? [第6回]

風は相変わらず強い。

風は目に見えない。それなのに確かにそこに存在して、人を撫でたり、屋根を壊したり、海に波を立てたりする。
愛も目に見えない。愛はどんな形の手で人を撫で、肉体や心に波を立てているのだろうか。あるいはどんな温度の手で。

「恋人をふってしまったんです」
そう言って表情を失ってしまった彼女に、冷たくした水道水を出した。ここは、BAR〈愛について〉。BARといってもジントニックもシャ

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次郎長はなにかあっても久六を応援する/町田康

次郎長はなにかあっても久六を応援する/町田康

 安政二年十一月、八尾ヶ嶽宗七改め保下田の久六より次郞長の許に手紙が届いた。急ぎ封を切ると、

 お元気ですか。実は一の宮の太左衛門とまた喧嘩になりました。現段階では向こうの方が人数が多いです。此の儘では負けてしまいます。それはとても嫌なことなので、至急、応援しに来てください。ではまた。
                          保下田村 久六拝

 長五郎様玉机下

 と書いてある。次

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ところで、愛ってなんですか? [第5回]

ところで、愛ってなんですか? [第5回]

風が強い。季節が変わるのだろうか。
それとも、何も変わらないのだろうか。
〈BAR 愛について〉の看板に電源を入れる。四角い看板をひからせているのは、私じゃなくて電気だ。私ができることはコードを抜き差しすること。それだけ。
愛だってそう。私は愛の悩みに答えてはいるけれど、本当は愛について何か知っているわけじゃない。でも、いつか愛に傷ついたことがあるから、誰かの痛みの深さやかたちを想像することができ

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【試し読み】ユリア・エブナー『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』第2章「サブカルチャーの創生─インセルの潜入調査」

【試し読み】ユリア・エブナー『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』第2章「サブカルチャーの創生─インセルの潜入調査」

 初めに逸脱したサブカルチャーがあった。
 心臓が早鐘を打つ。ラップトップを閉じて慌ててクローゼットの奥に押し込んだ。靴下の後ろに隠したから、たぶんあと数時間は見なくてすむ。ツイッター〔現X〕で匿名の誰かがたったいま送ってよこした、わたしと墓地の写った不吉な写真のことなど忘れてしまおう。とくに珍しくもないことだから。反フェミニズムの台頭について公に話をしたあとに続々と届く脅迫メッセージの、いちばん

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大政の来歴・尾張からの手紙

大政の来歴・尾張からの手紙

 宗七が上州館林江戸屋虎五郎のところへ発って数日、次郞長は気が脱けたようにボンヤリして過ごしていた。これを見た乾分達は心配でしょうがない。
「親分、どうしちまったのかねぇ、まるでふぬけじゃねぇか」
「どうもこうもねぇやな、尾張の相撲取りが居なくなって寂しいのよ」
「ちょっと、おまえ、行って慰めてやんねぇ」
「じゃあ、そうすっか」
 と言うので、乾分の中でも剽軽な野郎が、座敷でぼんやり莨を吸っている

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擬タイ日記 第1回

擬タイ日記 第1回

わたしたちはたぶん大体、みんな「擬態」している。
擬態というのは、動物とか虫とかが、攻撃したり守ったりするときに、自分をほかのものの姿に似せて、本当の姿を隠すあれのことだ。

もちろん人間は、基本的には、思いついたときに即座に身体の表面の色とか外形を変えたりすることはできない。ただ、自分が赴く場所とか環境とか、向き合う相手、あるいはそのときの気分に応じて、表情でも、立居振舞でも、口調でも、次々と変

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ところで、愛ってなんですか? [第4回]

ところで、愛ってなんですか? [第4回]

日曜日は、空が明るくなり始めたらBARを開けることにしている。朝はいい。姿の見えない鳥が鳴いていたり、昨日の続きを酔っている人がいたりする。人と世界、人と人との距離が、少しだけ離れている感じ。魂もまた、躰からちょっと遠くに行ってしまっているみたいだ。そんなとき、猫も人間も伸びをする。遊離した魂を元の場所に詰め直すみたいな静かな作業だ。

薄いひかりが積もったカウンターを眺めていると、からんとベルを

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