マガジンのカバー画像

詩集C(30代以降の作品群)

35
社会派ミステリー小説、PHASEシリーズの著者 悠冴紀が、30代から現在にかけて書いた最新の詩作品を、このマガジン内で無料公開していきます。 なお、作品の下に、一見解説文のよ…
運営しているクリエイター

#人間関係

詩 『答 え』

詩 『答 え』

作:悠冴紀

答えなど
はじめからどこにも存在しない

誰かの導き出した明確な答えは
他の誰かにとっての問いとなる

私にも誰にも
答えようがない

その時どきに見出す小刻みの持論なら
すでに幾度となく言葉にしてきた

年月を経て
それら全てが問いに帰する

だから朽ちない
循環により生を得る

終局を迎え 落ちた木の葉は
残像だけをおいて土にかえる

土を踏みしめる誰かが樹を見上げるとき
そこに

もっとみる
詩『ドッペルゲンガーの掟』

詩『ドッペルゲンガーの掟』

作:悠冴紀

互いの存在を知りながらも
近付きすぎてはならない間柄がある

一つの世界には 一人の自分
同時に二人は存在できない

掟を軽んじてはならない

もう一人の発見に歓喜しても
会うことを望むのは禁忌に当たる
会っては互いに破滅する

何度かの失敗体験をもとに
私は距離の取り方を学習した

突き放したのは嫌悪ではない
君がもう一人の私だからだ

残念だが私たちは
最も慎重に距離を取らねばな

もっとみる
詩 『氷の道標』

詩 『氷の道標』

作:悠冴紀

蒼白い雪を被った鋭い針葉樹林を
私は手探りで駆けていく

どこから来たのか
どこに向かっていたのか
時折わからなくなる自分がいる

今はそれでも
走るほかない

凍てついた樹海の奥から
狼たちの遠吠えが聞こえてくる

あれは血に飢えた冬の捕食者
かつての私に 似た奴らだ

目印もない雪原の中
私には君だけが道標だった

君の雪山に語りかけ
木霊する声の反響で
己の立ち位置を知ることが

もっとみる
詩 『SPHINX ~ 一年の終わりと始まりに』

詩 『SPHINX ~ 一年の終わりと始まりに』

作:悠冴紀

過ぎ行く一年の終わりに
私はまた 君を振り返っていた

巡り来る一年の始まりに
私はまた 君を思っていた

今では行方も分からない君のために
私はこの先
どれだけの涙を流し続けるのだろう

一年の終わりに 私はまた
君にしてあげられなかったことを思い
謝っていた

一年の始まりに 私はまた
君がいなくてはできなかったことを思い
君の大きさを実感していた

君を失ったことで
私はなんと

もっとみる
詩 『君に贈るもの』

詩 『君に贈るもの』

作:悠冴紀

君に届けたい曲がたくさんある
君のその耳でこそ
聴いてもらいたい曲が

君に届けたい言葉がたくさんある
君のその眼でこそ
なぞってもらいたい言葉が

君のその感性
その受け取り方が
私はずっと好きだった

君の良質な反応一つ一つが
私を育て 磨き上げた

だがすべては遠い過去
君が私を許す日は
永久に来ないだろう

それと知りながら
尚も時折 君を思う

作り手の一人として
芸術を愛

もっとみる
詩 『「おかえり」~君を迎える言葉』

詩 『「おかえり」~君を迎える言葉』

作:悠冴紀

「おかえり」その響きに対する憧れはなかった
今も変わらず 昔から

長い間 ずっと
帰りたい家がなかったためか

それを寂しいと 感じたためしもない

「おかえり」その一言を聞いて抱くのは
違和感のみだった

自覚はある
醒めた人間だ

無い物ねだりの甘い期待に縋るほど
ロマンチストになどなれなかった

いかにも自分らしいと
つくづく思う

誰も帰りを待たない自由を愛し
清々しい充実

もっとみる