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記事集・H

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私は蓮實重彥(蓮實重彦ではなく)の文章にうながされて書くことがよくあります。そうやって書いた連載記事や緩やかにつながる記事を集めました。
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2023年12月の記事一覧

【レトリック詞】であって、でない

【レトリック詞】であって、でない

 私が勝手にレトリック詞と呼んでいる形式の散文を紹介いたします。戯れ言ですので、文字どおりに取ったり、真に受けないでください。今回は「であって、でない」というタイトルで、テーマは「文字を文字どおりに取る」です。

であって、でない
 であって、でない。

 Aであって、Aでない。
 Aという文字であって、Aというものではない。
 つまり、Aであって、Bでない。

     *

 であって、であ

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【モノローグ】カフカとマカロニ

【モノローグ】カフカとマカロニ

 似ている、似ていない、同じ、違う、複製、文字どおりに取る、文字どおりに取らない、人のつくるものは人に似ている、人のつくるものに人は似ていく、鏡――。こうしたテーマについてのモノローグです。

 以下の記事からつくった記事です。

 本記事は「【レトリック詞】であって、でない」という戯れ言を書いた記事に似ていますが、戯れ言のつもりで書いたものではありません。本気で書きました。正気かどうかは不明で

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「カフカ」ではないカフカ(反復とずれ・05)

「カフカ」ではないカフカ(反復とずれ・05)

 名前は複製として存在します。文字であれば、複製、拡散、保存が簡単にできるし、名前は最小の引用でもあります。だれでも、簡単に引用できるのです。

 でも、ほんとうにそうでしょうか? 今回は、反復と「ずれ」を、名前で考えてみます。

最強最小最短最軽の引用
 名前は最強で最小最短最軽の引用です。なかでも固有名詞、とくに人名は最強で最小最短最軽の引用なのです。

 固有名詞の中でも人名や作品名にそなわ

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でありながら、ではなくなってしまう(好きな文章・01)

でありながら、ではなくなってしまう(好きな文章・01)

「好きな文章」という連載を始めます。たぶん、同じ書き手の同じような文章ばかりをあつかいそうな予感があります。それでもかまわないので、好きな文章を引用して好きなことを書くつもりです。

 今回のタイトルは「でありながら、ではなくなってしまう」ですが、これまでに投稿した「【レトリック詞】であって、でない」や「であって、ではない(反復とずれ・03)」と似ています。「宙吊りにする、着地させない」とも似てい

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ヒトは動物園にいない

ヒトは動物園にいない

 動物園にヒトはいません。いるにはいるけれど、常時檻や柵の中にはいません。それはヒトが自分たちを動物と見なしていないからでしょう――。 

 今回は、上で述べたことをめぐって思うことを書いてみます。


 動物園にヒトはいません。いるにはいるけれど、常時檻や柵の中にはいません。それはヒトが自分たちを動物と見なしていないからでしょう。

 上の文章をいじってみます。

     *

 動物園に人

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「私」を省く

「私」を省く


「僕」
 小学生になっても自分のことを「僕」とは言えない子でした。母親はそうとう心配したようですが、それを薄々感じながらも――いやいまになって思うとそう感じていたからこそ――わざと言わなかったのかもしれません。本名を短くした「Jちゃん」を「ぼく」とか「おれ」の代わりにつかっていました。

 さすがに学校では自分を「Jちゃん」とは言っていませんでした。恥ずかしいことだとは、ちゃんと分かっていたよう

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「ない」に気づく、「ある」に目を向ける

「ない」に気づく、「ある」に目を向ける

 吉田修一の『元職員』の読書感想文です。小説の書き方という点でとてもスリリングな作品です。

「 」「・」「 」
 たとえば、私が持っている新潮文庫の古井由吉の『杳子・妻隠』(1979年刊)に見える「・」ですが、河出書房新社の単行本では『杳子 妻隠』(1971年刊)らしいのです。

 らしいと書いたのは、現物を見たことがないからです。ネットで検索して写真で見ただけです。

 私は「・」がなかったり

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くり返すというよりも、くり返してしまう

くり返すというよりも、くり返してしまう

 創作と読書と夢に耽っているとき、人は似た場所にいる。自分以外の何かに身をまかせている、または身をゆだねているという点が似ている。

 そこ(創作、読書、夢)で、人は自分にとって気持ちのいいことをくり返す。気持ちがいいからくり返す。というより、くり返してしまう。

 創作であれば、その「くり返してしまう」が作家のスタイルになり、読書であれば、そのこだわりが読み手の癖になる。夢はその人の生き方と重な

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