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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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#エッセイ

きつねから届く国際郵便の

きつねから届く国際郵便の

シリーズ・現代川柳と短文 021
(写真でラジオポトフ川柳109)

 豚はきれい好き、という表現はどの程度真に受ければいいのだろう。たしかに他の動物に比べてそういう側面があるのかもしれないが、人間の衛生観念からするととてもきれい好きには見えない。あるいは「がさつそうに見える豚だが実はきれい好き」という、つまりギャップの部分を強調しただけの表現なのかもしれないけれど、それで言うならずいぶん昔に耳に

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ムーミンはきのうのことを覚えてる

ムーミンはきのうのことを覚えてる

シリーズ・現代川柳と短文 019
(写真でラジオポトフ川柳107)

 年齢とともに記憶力は落ちていくが、それとは関係なく、その年齢じたいもともとはっきり覚えていない。25歳までは即答できていたけれど、以降はだいたいで答えてきた人生だ。そんな状態で入院したらやっかいなことになった。「ここがどこかわかりますか」「きょう何日かわかりますか」「きょう何曜日かわかりますか」医者や看護師による日々の何気ない

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われわれは豚のアジトを訪れた

われわれは豚のアジトを訪れた

シリーズ・現代川柳と短文 018
(写真でラジオポトフ川柳106)

 自分の親より上の世代の方が「昔の豚肉は固かった」と言うのを聞いたことがある。いま当たり前に豚しゃぶが食べられるのも、生産者による肉質の改良改善の積み重ねなのだろう。そうした努力は目には見えにくく、放っておくと過去はあっというまに忘れられていく。まあ、もしあらゆる努力がはっきり目に見えたらそれはそれでたいへんなことになるかもしれ

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これシールになってるんだよ夢だから

これシールになってるんだよ夢だから

シリーズ・現代川柳と短文 014
(写真でラジオポトフ川柳102)

 郵便局のレターパックには保管用追跡番号シールというものがついている。送る際にそれをはがして手元に保管しておくと、番号を検索して配送状況が追跡確認できるという便利なサービスなのだが、この「手元に保管」にの保管場所にいつも悩む。とりあえず財布の内側に貼ってみたことがある。財布を開けるたびそれが目に入るのだ。よしよし、配送されている

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呪われしほうじ茶飲んでほっとする

呪われしほうじ茶飲んでほっとする

シリーズ・現代川柳と短文 017
(写真でラジオポトフ川柳105)

 緑茶も紅茶も烏龍茶も原料はどれも同じ茶葉。それを知ったときはまず「嘘だ」と思った。かき氷の話のシロップはどの種類も同じ味。それを知ったときもまず「嘘だ」と思った。犬はどの種類も生物学的には同じ一種類だし、そばとうどんと刀削麺は原料も製法もまったく同じで見る人の健康状態によってちがう種類に見えている。それらの話を知ったり作ったり

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鍵盤の上をかえるが跳ねる音

鍵盤の上をかえるが跳ねる音

シリーズ・現代川柳と短文 016
(写真でラジオポトフ川柳104)

 知人の着ている服について「ピアノの鍵盤にかかってる赤い布みたいな素材だね」と言ったり思ったりした記憶が何度かある。特定のひとりの特定の一着に対してではなく、だいたい5年に1度くらいのペースでそういう服を着た人と交流することがあるのだ。比喩表現だと「水晶玉の下に敷いてある小さい座布団みたいだ」というのも何度か使った覚えがあるが、

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ギターだなきのう木だったのになのに

ギターだなきのう木だったのになのに

シリーズ・現代川柳と短文 015
(写真でラジオポトフ川柳103)

 ある映画にギターの穴の内側から外を撮ったシーンがあった。そう見せていただけでじっさいに内側にカメラを入れてはいないと思う。映画は作りものの世界だからそれでいい。というか、そうでないといけないとも言える。「そう見えればいい」という思想はリアルを追求しつつどこかの時点で放棄することだ。その放棄のタイミングの妙に人は胸打たれる。時代

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乗りたさがむらさき色になってます

乗りたさがむらさき色になってます

シリーズ・現代川柳と短文 013
(写真でラジオポトフ川柳101)

 理科の実験を思い出してほしい。じゃがいもにヨウ素液を垂らすと紫色になる。あの反応を「ヨウ素でんぷん反応」という。待てよ。でんぷんさえあれば、べつにじゃがいもでなくてもよかったのだろうか。もしこれが「ヨウ素じゃがいも反応」だったらじゃがいもでないとだめだ。しかし「ヨウ素でんぷん反応」である。パンでも米でも餅でもコーンスターチでも

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こどもには見えない豆腐くださいな

こどもには見えない豆腐くださいな

シリーズ・現代川柳と短文 012
(写真でラジオポトフ川柳100)

 豆腐が「豆富」と書かれているのを見ると追い出された「腐」に想いを馳せてしまう。似たような例にサンマルクカフェの「チョコクロ」がある。もとそこにあったはずの「ワッサン」はどこに行ってしまったのか。そういえば「レート」もなくなっている。使われなかったワッサンとレートは海浜の埋め立て地のゴミ捨て場に山と積まれており、それを知る者たち

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きみこそがレモンの人にふさわしい

きみこそがレモンの人にふさわしい

シリーズ・現代川柳と短文 008
(写真でラジオポトフ川柳096)

 生のフルーツが苦手だ。味が、ではない。自分でもうまく言い表すことができないが、しいて言うなら「フレッシュすぎて苦手」という言い方がまずまずしっくりくる。みずみずしさに押し負けてしまうような感覚。たとえばこれがドライフルーツならむしろ好きですらある。しかしバナナはむりだ。わたしはジョナサンのクラシック・ショコラ・パフェを愛好して

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金網で自分らしさが出なかった

金網で自分らしさが出なかった

シリーズ・現代川柳と短文 007
(写真でラジオポトフ川柳095)

 覆水盆に返らず、ということわざもさすがに賞味期限が切れるころだ。もっと現代に寄せたわかりやすい表現にしよう。焼肉屋の網から落ちたネギタン塩のネギはもとに戻らない、はどうか。盆からこぼれた水が地面に染み込むと取り戻せないように、網をすり抜けその下の熱源に落下したネギは燃え尽きて二度と返っては来ない。取り返しがつかない。そもそもあ

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ていねいな執事が上に乗ってくる

ていねいな執事が上に乗ってくる

シリーズ・現代川柳と短文 006
(写真でラジオポトフ川柳094)

 昔観た映画に18世紀くらいのヨーロッパの貴族階級の人々を描いたものががあった。3時間を超える大作で登場人物も多い。貴族たちだけでなく、執事や召使いといった労働者階級の人々も大量に出てくる。上下構造は上階と下階に視覚化され、映画は二層のドラマが重なり合う超巨大群像会話劇の味わいを増していくが進んでいく。作り手もキャラクターひとり

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王政がめくれあがって見えた王

王政がめくれあがって見えた王

シリーズ・現代川柳と短文 005
(写真でラジオポトフ川柳093)

 道端に立っているなんの変哲もない人物を王様にするにはどうすればいいだろう。答えは「王冠をかぶらせる」一択だ。なぜなら、王冠をかぶるのは王様だけだからだ。王様のいるところ王冠あり。王冠のあるところ王様あり。すさまじく固有性の高いアイテムである。ファミレスで空いている席に案内され、そこに王冠が置かれていたらどうだろう。「王様の忘れ

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メリットはデメリットだしヒグマだし

メリットはデメリットだしヒグマだし

シリーズ・現代川柳と短文 004
(写真でラジオポトフ川柳092)

 パンダとクマのちがいが思い出せない。見た目は似ているがぜんぜん別物。そう聞いたことがある気がする。シマウマとウマもそうだし、ホッキョクグマとクマもそんな感じだった………気がするが、やはり思い出せない。正直なところ、前段の《見た目は似ているが》という部分も怪しい。写真で見るとけっこうちがうな、と思ったことがある気もするのだが、い

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