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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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#映画

TOEFLが服を着てないときがある

TOEFLが服を着てないときがある

シリーズ・現代川柳と短文 179
(写真でラジオポトフ川柳267)

 わたしのささやかな趣味は、海外の(ほとんどが英語圏の)映画を観た直後、その作品について Internet Movie DataBaseで調べることだ。すべて英語だからまるで理解できていない、はずなのだが、ついさきほどまで観ていた作品について書かれているため、なんとなく理解できている気になれる。要するに、英語ができるような気分に

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オペラ座の怪人 道がわからない

オペラ座の怪人 道がわからない

シリーズ・現代川柳と短文 074
(写真でラジオポトフ川柳162) 

 わたしの場合「オペラ座の怪人」といえば映画を思い浮かべるが、元をたどれば同名のミュージカルが原作としてあり、さらにその元にはガストン・ルルーの原作小説がある。映画は、わたしが思い浮かべたもの以外にも何本かあり、また、一定の世代以上だと『金田一少年の事件簿』の1エピソード「オペラ座殺人事件」の記憶も加わるのではないか。わたした

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ギターだなきのう木だったのになのに

ギターだなきのう木だったのになのに

シリーズ・現代川柳と短文 015
(写真でラジオポトフ川柳103)

 ある映画にギターの穴の内側から外を撮ったシーンがあった。そう見せていただけでじっさいに内側にカメラを入れてはいないと思う。映画は作りものの世界だからそれでいい。というか、そうでないといけないとも言える。「そう見えればいい」という思想はリアルを追求しつつどこかの時点で放棄することだ。その放棄のタイミングの妙に人は胸打たれる。時代

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ていねいな執事が上に乗ってくる

ていねいな執事が上に乗ってくる

シリーズ・現代川柳と短文 006
(写真でラジオポトフ川柳094)

 昔観た映画に18世紀くらいのヨーロッパの貴族階級の人々を描いたものががあった。3時間を超える大作で登場人物も多い。貴族たちだけでなく、執事や召使いといった労働者階級の人々も大量に出てくる。上下構造は上階と下階に視覚化され、映画は二層のドラマが重なり合う超巨大群像会話劇の味わいを増していくが進んでいく。作り手もキャラクターひとり

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スラッシャー映画のロケ地弓道場

スラッシャー映画のロケ地弓道場

 現代川柳と400字雑文 その78

 慣れ親しんだジャンル映画は落ちついて観ることができる。本来ハラハラさせるのが主目的のはずのスラッシャー映画も、ハラハラさせてくれるのがわかっているからハラハラせずに落ちついて観ることができる。ハラハラせずにハラハラを観て楽しいのか。楽しい。というか安らぎの感覚に近い。これは矛盾した欲求ではない。「難解な映画が好き」という知人にその真意を訊くと、映画を観て過度

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きのうより白いしあしたより白い

きのうより白いしあしたより白い

 現代川柳と400字雑文 その55

 きのう観た映画で、ゾンビ役の俳優が全眼白眼のカラーコンタクトレンズをつけていた。上映後のトークによるとかなり視界が奪われるらしい。本来なら視力を矯正し向上させるためのコンタクトをつけることで逆に視界が奪われるのだから恐ろしい。そして見た目はゾンビだからいよいよ恐ろしい。さらにその俳優が学生時代にボクシングをやっていたことを加味すれば、事態はいよいよ恐ろしい。

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飛べだしてから歯ならびが気になって

飛べだしてから歯ならびが気になって

 現代川柳と400字雑文 その39

 高畑勲の傑作『おもひでぽろぽろ』は、主人公タエ子の「昔はよかった」ならぬ、「昔のわたしはよかった」というやっかいな思い出語りに付き合わされる映画だが、真にやっかいなのはその語り口、つまりエピソードを彩る演出力がすさまじく優れていることだ。もし上司の自慢話がやたらおもしろかったら、というような。あれはたしか高熱と初恋の情緒がないまぜになったシーンだ。「天にもの

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八百万あぶない嘘をつくしぐさ

八百万あぶない嘘をつくしぐさ

 現代川柳と400字雑文 その36

 映画『カーズ』で感心したのは、虫のハエ(だったと思う)に対して、擬人化ならぬ「擬車化」が施されていたことだ。厳密に言うと「擬人化された車化」というややこしい言い方になってほんとうにややこしい。要するに、ハエがあのサイズ感のまま人格を持った車の形をして描かれていた。そもそも作品自体、人間が存在せず、「擬人化された車」が登場人物ひとりひとりにあたるという世界観だ

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みてなにもかもなくしても大丈夫

みてなにもかもなくしても大丈夫

 現代川柳と400字雑文 その35

 引っ越しの手はずが進み、すっかり荷物を運び出してから、がらんどうの部屋にひとこと「ありがとう」とつぶやく。そんな映画のワンシーンのような経験をしたことがない。ないない。ないです。ありません。まったくない。似たイメージで、卒業式の日にそれまでの教室に別れを告げるというシーンもある気がするが、たとえば具体的に映画のタイトルを挙げるとなると、『天然コケッコー』しか

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東出を観る3『聖の青春』

東出を観る3『聖の青春』

1.東出と羽生(はぶ)

 よくよく思えば「演技が上手い」とはどういう状態を指すのかよくわからない。たとえば、東出昌大の演技を上手い下手で評するのは至難の業だ。東出の演技は東出の演技でしかない。「あの演技は上手い」とかではなく「あの演技は東出」としか言えないじゃないか。そう思いながら『聖の青春』を観ていたら、「え、上手くね?」とカジュアルな言葉遣いが口をついて出ていた。

 今作の東出はまさかの羽

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東出を観る2『ビブリア古書堂の事件手帖』

東出を観る2『ビブリア古書堂の事件手帖』

1.鴨居

 だめだ〜、東出昌大おもしれ〜、もう東出昌大を通じてしか映画のことを考えられね〜、という深刻な状態に陥ったのは、昨年末『寝ても覚めても』を観てからのこと。それから東出の出演作をすこしずつ追うようになり、本作『ビブリア古書堂の事件手帖』もそのひとつだった。東出は過去パートの登場人物ながら主役以上の存在感で作品の中心にどっしり構えていた。「主役」とか「脇役」のような言い方で表される新たなポ

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東出を観る1『寝ても覚めても』

東出を観る1『寝ても覚めても』

1.平気

 昨年末、人から薦められ続けていた『寝ても覚めても』を3年越しでようやく観た。すげ~、映画って進化してるんだな~、と率直に思いました。

 主演のふたりはどちらもすげ~のだが、とくに東出昌大だ。「どうしてそんな芝居が《平気で》できるんだ?」の連続。もちろん、東出本人が平気だったかどうかの話はできないから、たんにわたしが画面に映る《平気そうな東出》に魅了されたという話になる。並の俳優なら

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言葉にできない好き

言葉にできない好き

 どんな傾向の映画が好きなのかいまだに自分でもよくわからない。

 なんでも好きなわけじゃない。好きにパターンが無いみたいなかんじ。ベスト映画を訊かれたら即答で『ロボコップ』と言うが、説明をつけやすくて角が立たないからそう言っているかもしれない。そういえばどこかのタイミングで「これからベスト映画は『ロボコップ』にしよう!」と決めたことがあるような気もする。

 なんとなくおぼろげに「アイドル映画」

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映画『ハウス・オブ・グッチ』のこと

映画『ハウス・オブ・グッチ』のこと

 サー・リドリー・スコットにわたしが抱く印象は「おしゃべり大好きおじさん」だ。もちろん「映像の魔術師」であり、だからこそ、いろんな物語をいろんな語り口で見せてくれる楽しい紙芝居屋さん的な印象がある。

 今回も「語り」にノリノリで嬉しくなった。べつに小気味のいい音楽で物語をばんばん進めていくわけではなく(それはスコセッシ)、たとえば夜の怪しいパーティーシーンの直後にぽん、と昼の街中のシーンが入り、

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