![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/91480745/rectangle_large_type_2_cf5abb1720b3b8af58022beff26bae38.png?width=800)
飛べだしてから歯ならびが気になって
現代川柳と400字雑文 その39
![](https://assets.st-note.com/img/1668785993741-Ob8WvTWYfi.png?width=800)
高畑勲の傑作『おもひでぽろぽろ』は、主人公タエ子の「昔はよかった」ならぬ、「昔のわたしはよかった」というやっかいな思い出語りに付き合わされる映画だが、真にやっかいなのはその語り口、つまりエピソードを彩る演出力がすさまじく優れていることだ。もし上司の自慢話がやたらおもしろかったら、というような。あれはたしか高熱と初恋の情緒がないまぜになったシーンだ。「天にものぼる気持ち」という慣用句はよく聞くが、実際(妄想の具現化描写として)、タエ子は天への階段を駆け上がる。いや、そこまでならまだわかる。まあ、そういう描写はあるだろう。しかし、いまなおわたしの心に焼きついているのは、あらかたの妄想を終えたあと、タエ子が自宅の布団の上にふわりと着地するシーンのことだ。あんなに丁寧な、最後の最後まで筋の通った妄想描写はほかで観たことがない。豪華絢爛なイマジネーションではない。考え抜かれた描写だ。あの「ふわり」にはそれがあった。
▼これまでの現代川柳&400字一覧
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?