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ぼくの本棚

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心震わせられた一文から。読書の足跡。
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#書評

【読書】きげんのいいリス トーン・テレヘン 訳 長山さき

【読書】きげんのいいリス トーン・テレヘン 訳 長山さき

ここに書かれているのは

きっと、大人になればなるほど忘れていく原色の自分について

だれも答えてはくれないし、だれも答えなど知りもしない

自分だけの〈願い〉と〈疑問〉が隠されたどうぶつたちの物語

◆あらすじ 

〈叶った夢・叶わない夢・叶っている夢〉

 一度でいいから、ひっくりかえる。そんなサギの〈願い〉は、

 原題『ほんとんどみんなひっくり返れたーBijna iedereen kon

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【読書】 高瀬舟 森鷗外 ~罪の所在~

【読書】 高瀬舟 森鷗外 ~罪の所在~

それは罪と呼べますか? 法律では間違いなく罪なのに、それは本当に罪と呼べるのだろうか?という事件が度々起きている。

 少し前の話になる。

 夫から日常的にDVを受けていた一人の女性がいた。警察に相談すると、この場合は家庭内の問題として取り合ってもらえない。相談する機関、知人の誰もがことごとく、さしたる問題として認めなかった。女性の服で隠された場所には、無数の生傷が絶えなかったのにも関わらず。

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【読書】 斜陽 太宰治~恋すること生きること~

【読書】 斜陽 太宰治~恋すること生きること~

戦闘開始

昭和25年刊行。『斜陽』。

時代に反逆した小説があるとしたら、この一冊を挙げたい。

信じられなかった。女性が女性という理由だけで、自由な恋愛を禁止されていた時代。一生一人の男に操を立て続けるという不文律。

聞こえてくるようだった。「なんてはしたない小説だ」「なんて羨ましい恋だろう」そんな当時の人々の声が。

読み終えて、初めて、「戦闘開始」の意味が分かった気がする。かず子の科白。

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【読書】 絵のない絵本 アンデルセン

【読書】 絵のない絵本 アンデルセン

最高純度の文学は絵の中に、景色の中に「さぁ絵にしてごらん、話してあげたことを」はじめての晩、月はそういった。 

 童話作家として、不動の名声を誇るアンデルセンは、「なぜ子供のための本ばかりを書くのですか?」と問われ、「大人のために書いているものを子供に読んでもらっているのです」と答えたと伝えられています。

『みにくいあひるの子』しかり、『マッチ売りの少女』しかり、こどもの頃に読み聞かせられた作

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【読書】 堕落論 坂口安吾 ①

【読書】 堕落論 坂口安吾 ①

 人が当然のように正しいと思い、すがっているもの。例えば、道徳であったり、モラル。日本人らしさという国民性。政治。法律。年相応の振る舞い。男らしさと女らしさ。触れられるか触れられないかほどの心の支えを、僕たちは確かに持っているような気がする。

 しかし、そんな「思い込み」や「決めつけ」によって、簡単に人は自分の言動を正当化する。それで、誰を傷つけ けようとも、知らぬ存ぜぬという考えに至る。

 

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【読書】 ある戦いの描写 フランツ・カフカ

【読書】 ある戦いの描写 フランツ・カフカ

私たちはこの地上に順応して。協調していくという根底に立って生活しているんですからね

 青年がある日突然毒虫に変わってしまう『変身』の読了後、人の生活の根底にある、孤独や制約の描写に味わった事のない、不思議な胸の痛みを感じました。正体のつかめない感情をいったいなんなんだろうと考えているうちに『ある戦いの描写』を手に取ってみたのですが・・。

 読了の正直な感想は「怖くなるほど人間の内部が描写されて

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【読書】 変身 フランツ・カフカ

【読書】 変身 フランツ・カフカ

 ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと目覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。

 唯一無二の書き出しともいえる、上記の文章。あまりに堂々と、あまりに如実に描写される『変身』。中島敦の『山月記』では主人公が虎になってしまいますが、カフカでは毒虫(ムカデ)のような虫に変わってしまうのです。

 また物事には原因がつきものです

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【読書】 思い出のマーニー ジョーン・G・ロビンソン

【読書】 思い出のマーニー ジョーン・G・ロビンソン

パーティーや映画、お茶に招かれたりすることが素晴らしいのは、あくまでも自分以外の連中ーはみな「内側」の人間、何か目に見えない魔法の輪の内側にいる人間なのだから。その点、アンナ自身は「外側」にいる人間だから、そういうことはすべて自分とは無関係なのだった。

 イギリス児童文学の金字塔にして、ジブリでの映画化がされた「思い出のマーニー」。絶対に原作を先に読んでから、映画を見る!と変なこだわりがあるぼく

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【読書】 痴呆を生きる 小澤勲

【読書】 痴呆を生きる 小澤勲

痴呆を生きる者も、その家族も、逃れることのできない現在と、時間の彼方に霞んで見える過去とを、いつも往復している。今を過去が照らし、過去を今が彩る。

 65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患する。厚生労働省の統計です。21歳のぼくは、介護実習に望む前にこの本に出会いました。恥ずかしい話、ぼくは「認知症」や「痴呆症」についてまったくの無知だったのです。自分にとっては関係のない出来事と

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【読書】 羊をめぐる冒険(下) 村上春樹

【読書】 羊をめぐる冒険(下) 村上春樹

彼女がいないのは寂しかったが、寂しいと感じることができるというだけで少し救われたような気がした。寂しさというのは悪くない感情だった。

 非現実へと更に足を踏み入れる下巻ではようやく「羊」の正体と「鼠」に出会うことができます。もちろん、幾つかの犠牲を伴って。大げさなどんでん返しもなければ、意外な事実も存在しない。淡々と時の経過になぞらえながら進んでゆく物語は、読んでいるこちらの現実まで、やがて浸食

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【読書】 羊をめぐる冒険(上) 村上春樹

【読書】 羊をめぐる冒険(上) 村上春樹

つまりね、生命を生み出すのが本当に正しいことなのか、どうか、それがよくわからないってことさ。子供たちが成長し、世代が交代する。それでどうなる?もっと山が切り崩されてもっと海が埋め立てられる。もっとスピードの出る車が発明されて、もっと多くの猫が轢き殺される。それだけのことじゃないか。

 1900年代の後半。バブルが全盛期になり、崩壊してゆく。時代は頽廃する。『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』『1Q

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【読書】 スイートリトルライズ 江國香織

【読書】 スイートリトルライズ 江國香織

このうちには恋が足りてないと思うの

 恋と愛の形って、本当に色々あるんだなぁ。江國さんの小説を読むたびに感じることです。そして、一度読んでしまったが最後、読み終えるまで何もできなくなってしまう……。同じ人間の心の中には相反するものや矛盾するものが共に存在している。多重人格なのではなくて、異なる一つ一つがその人の要素。それが、こんなにも自然に書かれていることのいつも感動します。そんな複雑な人の素敵

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【読書】きらきらひかる 江國香織

【読書】きらきらひかる 江國香織

こういう結婚があってもいいはずだ、と思った。なんにも求めない、なんにも望まない。なんにもなくさない、なんにもこわくない。

 「きらきらひかる」……。なんともフワフワしたタイトルで内容が想像できないまま手にとった一冊。よみ終わると、あぁこのタイトルがピッタリだなと感じました。早速、感想を書いてゆきたいと思います。

あらすじ 笑子と睦月は結婚してから、10日の新婚ほやほや。笑子はイタリア語の翻訳を

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【読書】 硝子戸の中 夏目漱石

【読書】 硝子戸の中 夏目漱石

彼女はその美しいものを宝石の如く大事に永久彼女の胸の奥に抱きしめていたがった。不幸にして、その美しいものは取も直さず彼女を死以上に苦しめる手傷その物であった。二つの物は紙の裏表の如く到底引き離せないのである。

 一人の人の中に在るもの。こころ。それをどこまでも突き詰めていったらどうなるのか。文学者として、また一人間として、向き合った漱石の考えが詰まった一冊です。生きとし生けるものが必ず人生のどこ

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