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ことばに関する雑記

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仕事中、あるいは日常生活の中で、ちょっと気になったことばについて、少し考えてみます。
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#エッセイ

AIと迷惑メール:不完全な日本語

AIと迷惑メール:不完全な日本語

ときどきメールボックスの「迷惑メール(Junk mail)フォルダ」をチェックする。迷惑メールでないメッセージが間違って「迷惑メール」フォルダに入ることがあるからだ。

ほとんどの迷惑メールは、本文を読むまでもなく、件名を見ただけでわかる。取引をしたこともない銀行名で「〇〇銀行が不正利用を検知」とか「口座利用を停止」とか脅されても、怖くもなんともない。使ったこともないアプリ名で、「情報を更新」と知

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トルコ、それともテュルキエ?

トルコ、それともテュルキエ?

英国のBBCの英語ニュースを聞いていて気付いた。トルコの大統領選に関するニュースだったが、アナウンサーは同国の国名を “Turkey” と言っている。

別に驚くことではない。トルコはずっと昔から日本語で「トルコ」、英語では「Turkey」だったから。

気になったのは、しばらく前にトルコが国名表記を変更するというニュースを読んだ記憶がかすかにあったからだ。確かに、英語で ”turkey” は「七

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「ひのえうまの逆バージョン」がほしい

「ひのえうまの逆バージョン」がほしい

日本で子どもの出生数が初めて80万人を切り、想定よりもかなり早く人口減少が加速しているというニュースが先日あった。

新聞には過去数十年分の年毎の出生数の棒グラフが掲載されている。なるほど、このままいけば危機的な状況になるということがよくわかる。上がったり下がったりしながら全体的に下降傾向といった生易しいことではなく、明らかに右肩下がりの状態が続いている。

それはそれとして、このグラフを見るたび

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訴状が届いたらコメントしてほしい

訴状が届いたらコメントしてほしい

新聞を読んでいたら、たまたま同じ日の紙面に、前から気になっていた表現が三か所もあるのに気づいた。

1つは、ある団体が行政の決定に対して異議を唱え、その決定の取り消しを求めて提訴したというもの。その報道に関する行政側の担当者の話。「訴状が届いていないため、コメントは差し控える」。

2つ目は、ある法人が、短期の雇用契約を繰り返すのみで永続的な契約に切り替えないのは違法と非常勤職員が提訴したもの。記

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プロパガンダ

 このところ、報道番組などで “プロパガンダ” という言葉をよく聞く。

 東西冷戦真っ盛りの頃、学生運動や労働運動が盛んだった頃、あるいは過去の世界大戦を振り返るといった文脈の中でよく耳にしたような気がする。日常会話で使うような用語ではないが、おそらくほとんどの人は、それなりに意味を理解して使っているのだろう。

 自分なりの解釈では、多くの場合、怪しげな情報で特定の方向に人を誘導しようとするこ

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そちらが “激する” ほど、こちらは “冷める”

そちらが “激する” ほど、こちらは “冷める”

 新聞のテレビ欄、雑誌、ニュースの見出しなどで、”激” の文字をよく目にする。

 「〇〇が激怒」とあるので、〇〇さんはいったいどんな様子で怒りを表しているのだろうかと興味津々で本文を読んでみる。すると、何のことはない、〇〇さんが何か不満を述べていたとか、別の意見があって反論しているという程度のことだ。

 どうみても激怒している様子はない。

 そもそも本当に激怒している人は、しゃべらない。押し

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否定疑問文には要注意!

否定疑問文には要注意!

 ある問診票の質問に答えているときに面食らった。

 「〇〇でアレルギー反応が出たことはありませんか? はい / いいえ」とある。これまでアレルギー反応は出たことはない。そう答えたい。口頭で質問されたら、「ありません」と答えるだろう。でも「はい」か「いいえ」しか選択肢がないと、どちらを選べばいいのか大いに迷ってしまった。

 「ありませんか?」の部分に反応すれば「はい」になるだろう。しかし、「アレ

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ウクライナ侵攻のニュースで思うこと

 このところウクライナ侵攻のニュースにくぎ付けになっている。仕事中もネットラジオやニュース専門局のライブストリーミングを流しっぱなしにしている。

 21世紀のこの時代に、あのような前近代的な戦争行為が実際に起こることには驚くほかない。

 テレビのニュース番組の中で "NATO" についての解説がたびたびなされている。その昔、西側諸国の軍事同盟である「北大西洋条約機構(NATO)」と旧ソ連を中心

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名前が出てこないだけ?

名前が出てこないだけ?

 いつのころからかよくわからないが、広告で見かけるタレントの名前が表示されなくなった。昔はどうだっかわからないが、つい最近まで、タレントの写真があると、その横に小さくその人の名前が表示されていた。気づいていた人は少ないとは思うが。

 理由はよくわからない。肖像権を尊重するということなら、以前は名前が表示されていたのに、今では表示されなくなったことが説明できない。普通に考えれば、昔よりも今の方が

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"早く絶版になってほしい#駄言辞典"

 現役時代に大記録を打ち立てたコメンテーターが、ある女子競技に対して侮蔑的な発言をした。例によって、後日、本意ではなかったとの釈明をすることになった。言葉足らずとのことだが、真反対のことを言っているのに、どのように言葉を補えば、その本意にもっていけるのかということが気になった。

 これほどひどいのは極端な例かもしれないが、前からずっと違和感を覚えていたことがある。

 なぜ女子選手だけやたら「マ

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「夜には晴れるでしょう」と言われても...

天気予報でたまに耳にする表現、「夜には晴れるでしょう」には微妙な引っ掛かりを覚える。

天気用語には厳密な定義があるようだ。そのうえで公式の予報でアナウンスしているのだから、正しい言い方なのだろう。

「晴れ」ということばでほとんどの人が頭に描くのは、青空だろう。日も差しているはずだ。そもそもこの漢字の中には「日」も「青」も入っている。

だから引っ掛かる。

澄み切った夜空を表すのに「晴れ」以外

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「否定できない」のうさんくささ

「否定できない」という言い回しが苦手だ。

文脈から判断すると、断言はできないが可能性があるということをにおわせ、読み手側に一定の効果を及ぼすことを狙っているのだろう。

断言しているわけではない。だから言った側は責任を負うつもりはない。どうとらえるかは、読んだ側の判断だ。といったかなり狡猾な逃げを打ちながら、ある方向に読み手を誘導しようという魂胆が透けて見える。

「Aである」という文の意味はは

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「せいぜい」頑張ってください

だいぶ前にテレビで観たオリンピック代表選手の壮行会だったか。時の首相が挨拶の中で、「せいぜい頑張ってください」というのを聞いて微妙な引っかかりを覚えた。

大急ぎで言い足すが、このことば遣いはまったく正しい。あらためて辞書を引くまでもなく、力の限り頑張ってほしいと言っているわけだから、何らいちゃもんをつける筋合いはない。しかし何だ、この違和感は。

日常生活で「せいぜい頑張れ」と言うのは、期待して

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アンガージュマン

翻訳の仕事をしていると、実務上よく出てくるのになかなか訳しにくい単語に出くわすことがある。英語の動詞 "engage(名詞形ではengagement)" もその一つだ。関与するとか、噛みあうといった意味なのだが、日本語にするとなかなかしっくりこないことが多い。

機械類のマニュアルなどの工学的な文書で、「歯車が噛みあう」というのはいい。しかし、人や集団などの関係性を表す場面では、約束や交わり、関与

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