【第18回】「朝令暮改」はあって当たり前
以前勤めていた会社の緊急会議で、社長と直接やり取りをした時のことです。「それで、例の件はどうなった?」
「はい、あの件はスケジュール通り順調に進んでいて、もう間もなくサンプルができ上がってきます」
「スケジュール通りに進んでいるだと?何で止めないんだ」
「え?止めるんですか?」
「当たり前だろ!あんなもん、うまくいくわけがないだろう。それとも成功するとでも思っているのか?!」
例の件とは、いくつか同時進行していたプロジェクトのひとつで、社長肝入りのプランでした。
しかし、分析すればするほど筋の悪いビジネスであることが判明します(業界規格上、明らかに「NG」でした)。
その旨ことあるごとに報告したのですが、どうしても聞き入れてもらえません。
「何としても成功する仕組みをつくれ!」という大号令のもと、皆で知恵を絞って、失敗した場合の処理方法まで準備しながら慎重に進めていました。
なので、会議での社長の反応は「青天の霹靂」でした。「今すぐに止めるんだ!今止めたら損失はいくらになる?」
コストを管理する技術部長から「約▲億円です」との報告を受けると、「よし、わかった。すぐに経費処理しろ。この件は本日をもって終了とする!」
この時は「驚き」とか「残念無念」といった感情よりも、むしろ「ほっとした」のが正直な感想です。
間違いなく失敗すると分かっていながら、無理やり進めていたプロジェクトですから、関係者も皆同じ気持ちでした。
後日、会議に同席した役員と食事をした際に聞いてみました。「何で突然止めることにしたんでしょうか?」
するとその役員は「きっとギリギリのところで気づいたんだよ、失敗するってな。でも今さら間違っていたなんて言えないだろ。だからあーなったんだよ」
「なるほど、そういうことか……」社長としての立場と、本人の性格(独裁者と呼ばれていました)を考えると素直に納得でき、妙にすっきりしたのを覚えています。
と同時に「朝令暮改」の域を超えて、ほとんど「朝礼朝改」であると感じざるを得ませんでした。
尚、当時の経験は、外資系で仕事をするようになってから、大いに役立つことになります。「苦労もいつかは報われる」ということでしょうか。
次回につづく(毎週火曜日に投稿予定)
(本文は、弊著『なぜ職場では理不尽なことが起こるのか?』<幻冬舎ルネッサンス新書>より一部抜粋編集し、シリーズ化したものです)
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