美月/コピーライター

デザインスタジオ・エル所属。ディレクター/ライター/コピーライターです。心に移りゆくよ…

美月/コピーライター

デザインスタジオ・エル所属。ディレクター/ライター/コピーライターです。心に移りゆくよしなしごとを、忘れないよう書き綴ります。どうぞよしなに、お手やわらかに。

マガジン

  • ひとり手帖

    日々の思考の断片です。

  • ひとつきのかけらたち

    一ヶ月毎、日々のかけらをまとめます。

  • 潜行日誌

    • 20本

    遊覧潜水のふたりの、日々の潜行(潜考)の記録を綴る交換日誌です。平日に交互に更新します。

記事一覧

熱を出したときのゆめ

こうして寝込んでいるあいだに、自分の居場所が、どこにもなくなったらどうしよう。 熱を出すたび不安になる。20歳を折り返した今でも。子どもみたいに思う。どうしよう。…

すこやかに考えごとをする

私には、小説/詩を書く用の人格と、それ以外すべての文章を書く用の人格がある。 日記を書くときは、どちらの人格のほうが書けるんだろう。と、最近ずっと考えていた。考…

12月のかけらたち

会社帰り、電車が遅延していた。申し訳ありません、と駅員さん。あなたのせいじゃない。誰も悪くない。そう思えるくらい穏やかでいられる日が、すこしでも多い人生がいい。…

11月のかけらたち

冬はつとめて。いやいやいやいやいや寒すぎる。つとめてなんて寒すぎる。布団を出るのに覚悟が要る。何食わぬ顔で冬が来た。11月の、日々の断片。 ◯ 住んでいない街を徘…

意味のないこの世界で、あなたと出会えてよかった【ありがとう、進撃の巨人】

人生は、この作品を「観る前」と「観た後」に分かれる。もう観る前には戻れないことに、半ば愕然としてしまう。 『進撃の巨人』。 おそらく、私の人生観の一部を形作って…

10月のかけらたち

◯ 紅葉をたくさんみた。みさせてもらった、が正しいかもしれない。仕事だったり、友人に誘われたりで、紅葉と接する機会がたくさんあった。 自然の生み出す赤には、どう…

蟻と葡萄と10月某日

休日。夏のあいだに読めなかった本を読む。好きな作家さんの小説、コピーライターの本。溜めていたドラマを1話だけ観る。好きな俳優さんが出ているやつ。 風がつめたいこ…

書くこと秋めくこと

書きたくて書きたくて仕方がないくせに、書くことは業が深いことだと思っていて、誰にどう届くのか、周りにどんな影響があるかをぐるぐる考えてしまうせいで、ぶわーっと書…

9月のかけらたち

長編1本、短編2本、詩1本。 9月末に脱稿した。 この1か月間、ほんとうにずっと書いていた。小説の執筆はいつもいのちがけだけど、今回は人生で一番いのちがけだった。 * …

8月のかけらたち

8月も過ぎるのがはやかった。 今月も断片的にふりかえり。いつかの自分にあてた備忘録です。 某日-1 大人の写真部に参加。軽井沢と小諸へ撮影に行った。メンバーのなかに…

始業式の朝

いつもより早く家を出たら、駅に小学生がたくさんいた。自由研究が入った紙袋、こんがりと日に焼けた笑顔。今日が始業式らしい。 久しぶりの登校を、見送りに来ているお母…

声が枯れるまで語る時間

声が枯れるまで話をした。人生について。親愛なる友人と、大好きな街で。 大学4年間を過ごした街には至る所に思い出があり、そのひとつひとつについて語るだけで数時間が…

あの夏の余興

久しぶりに、帰省した。 通勤に使う下り列車。片手には文庫本。車窓から見える夏が、鈍行のスピードで流れていく。 会社の最寄り駅を通り過ぎると、見慣れない景色に変わ…

7月のかけらたち

追憶。あっ、と言うまもなく、と言うまもなく、終わった7月。あまりにも夏だった。夏はいつも短命だ。どうしようもなくまぶしくて、濃い影を残して去っていく。 これは7月…

いつか、あの頃になる夏で

夏。あまりにも夏。仰いだ空は高純度、木陰が誘う夕涼み。 海。森。光。地面にできる模様。砂の感触。土の感触。視界。私が切り取る世界。夏の匂いから逃れられない。透明…

私を見つけるために書く

「何食べたい?」 と聞かれたとき、本当に自分の食べたいものを答えたことが、今まで一度だってあっただろうか。 咄嗟に、今相手はどんな気分だろう、何が好みだろう、暑…

熱を出したときのゆめ

熱を出したときのゆめ

こうして寝込んでいるあいだに、自分の居場所が、どこにもなくなったらどうしよう。

熱を出すたび不安になる。20歳を折り返した今でも。子どもみたいに思う。どうしよう。こうして寝込んでいるあいだに、世界から忘れられてしまったら。

流行り病に感染して数日。想像の2.5倍くらいしんどくて、ほぼ寝たきり状態で過ごしていた。熱は上がったり下がったり、咳のしすぎで腹筋は痛い、頭はがんがん身体は怠い、なにかしよ

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すこやかに考えごとをする

すこやかに考えごとをする

私には、小説/詩を書く用の人格と、それ以外すべての文章を書く用の人格がある。

日記を書くときは、どちらの人格のほうが書けるんだろう。と、最近ずっと考えていた。考えていたらいつのまにか、1年の1/10が終わろうとしている。考えごとが相変わらず下手だ。ひとりで考えては爆発して、ひとりでよく寝込む。
「人生は考え抜くものじゃなくて、生きるもの」だと、江國香織さんが小説で書いていた。今年の目標は、『すこ

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12月のかけらたち

12月のかけらたち

会社帰り、電車が遅延していた。申し訳ありません、と駅員さん。あなたのせいじゃない。誰も悪くない。そう思えるくらい穏やかでいられる日が、すこしでも多い人生がいい。

待合室で吐く息が白い。降ってはいないのに、雪の匂いがする夜。

毎月の断片日記も、気づけば6回目。エッセイを書くのがこわいくせに、よく続いたものだ。
かつて、5年間毎日小説を投稿していた。今はお休みしているが、今年は久しぶりに長編を書き

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11月のかけらたち

11月のかけらたち

冬はつとめて。いやいやいやいやいや寒すぎる。つとめてなんて寒すぎる。布団を出るのに覚悟が要る。何食わぬ顔で冬が来た。11月の、日々の断片。



住んでいない街を徘徊するのが好きだ。読めない地図は見ず、ただ気になる方へふらふら歩いていく。このあいだは、ちいさな韓国風居酒屋を見つけた。看板に「今日もおつかれさま(にっこりマーク)」と書かれていたのに惹かれて、思わず入ってしまった。コピーライティング

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意味のないこの世界で、あなたと出会えてよかった【ありがとう、進撃の巨人】

意味のないこの世界で、あなたと出会えてよかった【ありがとう、進撃の巨人】

人生は、この作品を「観る前」と「観た後」に分かれる。もう観る前には戻れないことに、半ば愕然としてしまう。

『進撃の巨人』。
おそらく、私の人生観の一部を形作っている作品。

彼らの台詞を自分ごととして受け取っては、勝手に心臓を捧げてきた。『紅蓮の弓矢』のドイツ語歌詞を必死で暗記していた頃から、かれこれ10年が経つ。

先日、アニメ最終回が放送された。
25歳にもなって、嗚咽しながら泣くとは思わな

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10月のかけらたち

10月のかけらたち


紅葉をたくさんみた。みさせてもらった、が正しいかもしれない。仕事だったり、友人に誘われたりで、紅葉と接する機会がたくさんあった。

自然の生み出す赤には、どうしてこんなに深みがあるんだろうと思う。蓄積された歴史によるものなのか、堂々たる威厳ゆえなのか。わからないけれど、わからないからこそ圧倒され、言葉を束の間剥奪される。取り戻そうと藻掻きながらシャッターを切り、ため息をつき、ただ、すごいなあと

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蟻と葡萄と10月某日

蟻と葡萄と10月某日

休日。夏のあいだに読めなかった本を読む。好きな作家さんの小説、コピーライターの本。溜めていたドラマを1話だけ観る。好きな俳優さんが出ているやつ。

風がつめたいことに気づく。ヒートテックを引っ張り出す。それでも日が差すとすこし暑く、カフェラテはアイスで飲んでしまう。たぶん一瞬で終わってしまう季節。はかない。

シャインマスカットを買おうとして、逡巡してやめる。代わりに想像する。薄い皮がはじける瞬間

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書くこと秋めくこと

書くこと秋めくこと

書きたくて書きたくて仕方がないくせに、書くことは業が深いことだと思っていて、誰にどう届くのか、周りにどんな影響があるかをぐるぐる考えてしまうせいで、ぶわーっと書いたものを人知れず墓地送りにしてしまうことがよく、ある。書き溜めた小説や詩や短歌、ボツにしたコピーやステートメント、誰かに見てほしい気もするし、大切に私のなかだけに留めておきたい気もするし、で、気づけば容量を圧迫して、慌てふためいたりする。

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9月のかけらたち

9月のかけらたち

長編1本、短編2本、詩1本。
9月末に脱稿した。

この1か月間、ほんとうにずっと書いていた。小説の執筆はいつもいのちがけだけど、今回は人生で一番いのちがけだった。

*

6万字弱の長編を書くには、自分の記憶や傷や熱とひたすらに向き合わなければならなかった。
全時間軸の自分と話をした。いつの自分も、どの世界線を選んだ自分も、ちゃんと救われてほしかった。どうか届いてほしいと祈った。あのときの自分に

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8月のかけらたち

8月のかけらたち

8月も過ぎるのがはやかった。
今月も断片的にふりかえり。いつかの自分にあてた備忘録です。

某日-1

大人の写真部に参加。軽井沢と小諸へ撮影に行った。メンバーのなかにはお世話になっている人も、初めてお会いする人もいた。みんな大先輩だから、私なんかがいていいのかどきどきしていたけれど、カメラを持って街を歩いているうちに、そんな不安は消えた。楽しかった。夢中でシャッターを切っていた。
写真はおもしろ

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始業式の朝

始業式の朝

いつもより早く家を出たら、駅に小学生がたくさんいた。自由研究が入った紙袋、こんがりと日に焼けた笑顔。今日が始業式らしい。

久しぶりの登校を、見送りに来ているお母さんがいた。ランドセルをぽんとたたいて、いってらっしゃい、と手を振っていた。

登校班らしき数人のまとまりが、ホームで電車を待っていた。電車のドアが開くと、年長者の女の子が、黄色い帽子を被った一年生を先に電車に乗るよう促した。当たり前のよ

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声が枯れるまで語る時間

声が枯れるまで語る時間

声が枯れるまで話をした。人生について。親愛なる友人と、大好きな街で。

大学4年間を過ごした街には至る所に思い出があり、そのひとつひとつについて語るだけで数時間が経ってしまう。なくなったお店も、新しいお店も、変わらないお店もあった。

あの頃に戻りたい、と悲観的になるのではなくて。未来志向の懐古は心にいい。こういう時間こそ人生だ、と思う。

話しながら気づいたり、気づきながら捉え直したり。声が枯れ

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あの夏の余興

あの夏の余興

久しぶりに、帰省した。

通勤に使う下り列車。片手には文庫本。車窓から見える夏が、鈍行のスピードで流れていく。
会社の最寄り駅を通り過ぎると、見慣れない景色に変わる。引っ越してきてから一度も、この駅より先まで乗ったことがなかった。

夏はいつもフィクションみたいだ、と思う。鮮やかな景色も、追憶を誘う匂いも。遠い昔の記憶。ひぐらしの声、線香と桃畑の匂い。

一度、高校の頃の最寄り駅で降りた。この駅に

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7月のかけらたち

7月のかけらたち

追憶。あっ、と言うまもなく、と言うまもなく、終わった7月。あまりにも夏だった。夏はいつも短命だ。どうしようもなくまぶしくて、濃い影を残して去っていく。

これは7月の断片。断章。

***
◯日

人生で経験できる夏には限りがある。ふっと気づいて、焦燥感に襲われた。私は夏が好きだ。いのちの気配が濃いところも、終わりの匂いが強いところも。どうしよう。また夏が去っていこうとしている。待って。私は夏が好

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いつか、あの頃になる夏で

いつか、あの頃になる夏で

夏。あまりにも夏。仰いだ空は高純度、木陰が誘う夕涼み。

海。森。光。地面にできる模様。砂の感触。土の感触。視界。私が切り取る世界。夏の匂いから逃れられない。透明な手が背中に触れる。夏。遠い昔の夏休み。塩素とプール、スイカと朝顔。

あの頃はよかった、と人は言う。私も言う。今日も、いつか、あの頃になる。

歩く。砂浜はさらさらしている。歩く。木立はしっとりしている。考える。考える考える考える。とき

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私を見つけるために書く

私を見つけるために書く

「何食べたい?」

と聞かれたとき、本当に自分の食べたいものを答えたことが、今まで一度だってあっただろうか。

咄嗟に、今相手はどんな気分だろう、何が好みだろう、暑いから定食よりお蕎麦のほうがいいか、イタリアンより中華がいいか、そもそもチェーンがいいか個人店がいいか、頭を猛スピードで回転させる。間違えないように。気分を損ねないように。気まずくさせないように。笑ってもらえるように。

本当は、何が食

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