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「小説家のサガって何?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十六)丸山健二
アカゲラとアオゲラの二種類のキツツキがしばしばやってきます。なんとも気紛れな訪問で、季節を問いません。
少しばかり見た目がいいからといって、必ずしも大歓迎というわけにはゆきません。それというのも決まって悪さをするからです。樹木の表皮の裏側に巣くっている虫をほじくり出したり、ドラミングによって縄張りを主張したり、異性を惹きつけたりする行為は一向に構わないのですが、しかし、幹に大きな穴をあけて巣
「生きたまま現世を超える?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十)丸山健二
庭に集まってくるさまざまなハナバチたちの羽音の渦に巻きこまれて花殻を摘み取る作業が、おそらく誰にも理解できないであろう至福の時を与えてくれるのです。
不思議な感覚です。根気のいる単調な仕事がなぜこうした充足感を差し招くのでしょうか。傍目からすれば理解できないと思います。
掛け替えのないその気分をどう表現していいものやら、物書きのくせに、これがなかなか難しいのです。
癒しを帯びた安らぎ
「人生なんてさあ……」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(十八)丸山健二
標高が七百五十メートルだからといって、この地の夏が格別涼しいというわけではありません。
内陸性気候の特徴で、確かに湿度は低く、海辺のむしむし感と比べたらまだましとはいえ、たびたび発生するフェーン現象のせいで気温が都市部のそれを上回ることも珍しくないのです。「信州って意外に暑いんですね」などと客にからまれても、「そうなんですよ」のひと言でさらりとかわすしか手がありません。
冬は雪と低温に支配さ
丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』1988年10月1日~10日
☆
私は風です。
うたかた湖の長命な湧水から生まれて
穏健なる思想と控えめな恒常心を兼ね備えた
名もなき風です。
気紛れ一辺倒の私としましては
きょうもまた日がな一日
さながら混沌に支配されたこの世界よろしく
特にこれといった意味もなく
曲がりくねった岸辺に沿ってひたすらぐるぐると回るつもりでした。
ところがです
一段と赤みを増した太陽が連山