書房いぬわし

書房いぬわし

記事一覧

「あの世へ持ってゆく花」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十七)丸山健二

 葉っぱだらけになってしまった夏の庭を彩ってくれるのは、各種のユリです。  テッポウユリ系よりもクルマユリ系が好きで、オリエンタルリリーの括りで販売されているド…

8

「生き物の宿命ってこと?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十六)丸山健二

 木枯らし一号とおぼしき、アルプス颪とも言える冷酷な風が、高齢者たる私に虚勢を張らせます。「何くそ、これしき」という思いが強まって、「今度の冬も生き抜いてみせる…

7

「生き死にはひとまず棚上げ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十五)丸山健二

 庭が理想の形に向かって充実してゆくにつれ、ここが捨て去るべき土地ではなくなりつつあります。  と言いますのも、五十代の頃までは頭の片隅に引っ越しが絶えずこびり…

書房いぬわし
2週間前
8

「ときには虚勢も必要」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十四)

 第三者の目にはどこが面白いのかさっぱりわからない、単調な庭作業に没頭しているときのことでした。  突如として家のなかからドタドタドスンというただならぬ音が聞こ…

書房いぬわし
4週間前
10

丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【9】12月21日~31日

第9回目の連載では、12月21日から31日までを「帽子」「シクラメン」「誕生日」「口実」「ケーキ」「青」「暦」「コオロギ」「新巻き鮭」「隙間風」「鐘」が語ります。

100
書房いぬわし
1か月前
4

「イメージを優先させるな」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十三)丸山健二

 標高があるからといって涼しい夏を満喫できるとは限りません。  観光地として有名な高原であっても、ときとしてそれなりの暑さに閉口させられます。  ましてここは、…

書房いぬわし
1か月前
10

「この世にしがみついてみたら」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十二)丸山健二

 言うまでもないことですが、まだ若いタイハクオウムのバロン君や、長年連れ添っている妻のように、庭もまた生き物なのです……このたとえは、ちょっと問題ありですか。 …

書房いぬわし
1か月前
15

「そこがほんとの居場所なの?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十一)丸山健二

 四方が田畑のせいで、いつしか自然林の様相を呈した我が庭が野生動物の集いの場や憩いの場と化しています。  といっても当初は昼間の庭の実態しか知りませんでしたから…

書房いぬわし
1か月前
15

「命の証ってこれのこと?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十)丸山健二

 春を予感させる日がつづいたかと思うと、いきなり大雪が降って冬へ逆戻りです。  毎年のことですからそれなりの覚悟ができているつもりでも、やはり挫折感を伴った失望…

書房いぬわし
1か月前
11

丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【8】12月11日~20日

第8回目の連載では「矛盾」「宿」「虚無」「ゴミ袋」「ボーナス」「ゴム長靴」「羽毛」「クリスマスツリー」「フクロウ」「野望」が語ります。

100
書房いぬわし
1か月前
5

「生き抜いてみせてやれば」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十九)丸山健二

 カッコウの鳴き声は、ヒグラシほどではありませんが、胸に沁みる郷愁を伴っています。  久しく忘れていた幼少時代のちょっとした感慨を蘇らせてくれ、思わずしばし聴き…

書房いぬわし
1か月前
12

「美学がため息を漏らす」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十八)丸山健二

 我が庭には、どういうわけか枝垂れの樹木が似合いません。  家の構造も含めて全体的に直線的な印象が強いためなのでしょうか、なぜか馴染まないのです。  それでも、…

書房いぬわし
1か月前
12

「植物は植物として扱うべし」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十七)丸山健二

 常緑針葉樹のなかで好きなのは、ツガよりも葉が小さいコメツガです。  これを我が庭へぜひ取り入れたいと思い、知人の許可を得てその山を駆けずり回ったのがもう三十数…

書房いぬわし
1か月前
11

丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【7】12月1日~10日

第7回目の連載では「本」「初雪」「喧嘩」「電気毛布」「クレーン」「手紙」「出会い」「日溜まり」「かんざし」「焚火」が語ります。

100
書房いぬわし
1か月前
5

「小説家のサガって何?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十六)丸山健二

 アカゲラとアオゲラの二種類のキツツキがしばしばやってきます。なんとも気紛れな訪問で、季節を問いません。  少しばかり見た目がいいからといって、必ずしも大歓迎と…

書房いぬわし
2か月前
11

「最後の勝利者は誰?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十五)丸山健二

 庭造りは、草取りに始まって草取りに終わると言ってもいいでしょう。  それが基本中の基本という地味な作業の連続なのです。けっしてチャラチャラした趣味ではありませ…

書房いぬわし
2か月前
11
「あの世へ持ってゆく花」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十七)丸山健二

「あの世へ持ってゆく花」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十七)丸山健二

 葉っぱだらけになってしまった夏の庭を彩ってくれるのは、各種のユリです。

 テッポウユリ系よりもクルマユリ系が好きで、オリエンタルリリーの括りで販売されているド派手なユリも、使い方次第で新鮮な驚きと感動をもたらしてくれるために厳選したものを少々使います。

 しかし、所詮はオニユリやヤマユリといった自然系の引き立て役でしかありませんから、さほどの思い入れがなくても、美の基準に適合している場合に限

もっとみる
「生き物の宿命ってこと?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十六)丸山健二

「生き物の宿命ってこと?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十六)丸山健二

 木枯らし一号とおぼしき、アルプス颪とも言える冷酷な風が、高齢者たる私に虚勢を張らせます。「何くそ、これしき」という思いが強まって、「今度の冬も生き抜いてみせるぞ」という、年寄りの冷や水もいいところの覚悟を勝手に固めます。というか、弱音を吐いたところで誰も助けてはくれません。

 まあ、これは例年通りで、今ではもう慢性化された、その分だけ新鮮味に欠ける自分への叱咤激励なのですが、生き抜くための底力

もっとみる
「生き死にはひとまず棚上げ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十五)丸山健二

「生き死にはひとまず棚上げ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十五)丸山健二

 庭が理想の形に向かって充実してゆくにつれ、ここが捨て去るべき土地ではなくなりつつあります。

 と言いますのも、五十代の頃までは頭の片隅に引っ越しが絶えずこびり付いていたからです。好きで選んだ住処ではなく、妥協の産物としての住居であったがために、いつかもっと好みに合ったところへ移り住もうという、ある種の口癖のごとき念願から離れられませんでした。

 そうはいってもやはり寄る年波の圧迫感には逆らい

もっとみる
「ときには虚勢も必要」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十四)

「ときには虚勢も必要」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十四)

 第三者の目にはどこが面白いのかさっぱりわからない、単調な庭作業に没頭しているときのことでした。

 突如として家のなかからドタドタドスンというただならぬ音が聞こえてきたのです。直接見たわけではありませんが、瞬時にしてぴんとくるものがありました。そしてその光景が鮮明に脳裏に浮かびました。

 案の定です。タイハクオウムのバロン君がギャーギャーと大騒ぎする最中、階段から転がり落ちた妻が廊下にうずくま

もっとみる
丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【9】12月21日~31日

丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【9】12月21日~31日

第9回目の連載では、12月21日から31日までを「帽子」「シクラメン」「誕生日」「口実」「ケーキ」「青」「暦」「コオロギ」「新巻き鮭」「隙間風」「鐘」が語ります。

もっとみる
「イメージを優先させるな」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十三)丸山健二

「イメージを優先させるな」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十三)丸山健二

 標高があるからといって涼しい夏を満喫できるとは限りません。

 観光地として有名な高原であっても、ときとしてそれなりの暑さに閉口させられます。

 ましてここは、七百五十メートルという中途半端な高度ですから、太平洋高気圧の張り出し方いかんによっては三十五度を超える高気温に見舞われることも珍しくありません。

 もうだいぶ以前のことになりますが、ヒマラヤの青いケシにいたく魅了されたことがあり、たと

もっとみる
「この世にしがみついてみたら」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十二)丸山健二

「この世にしがみついてみたら」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十二)丸山健二

 言うまでもないことですが、まだ若いタイハクオウムのバロン君や、長年連れ添っている妻のように、庭もまた生き物なのです……このたとえは、ちょっと問題ありですか。

 それはともあれ、そうした常識中の常識をついつい忘れてしまい、美術作品の創作と同等の位置付けをした結果、イメージ先行の大失敗を招きがちの状況に陥ります。

 つまり、一年中花いっぱいの庭にしたいなどという、とんでもない夢を命の世界へ持ちこ

もっとみる
「そこがほんとの居場所なの?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十一)丸山健二

「そこがほんとの居場所なの?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十一)丸山健二

 四方が田畑のせいで、いつしか自然林の様相を呈した我が庭が野生動物の集いの場や憩いの場と化しています。

 といっても当初は昼間の庭の実態しか知りませんでしたから、寄ってくる生き物の数も高が知れていると思っていました。ところが、あれは夕方だったでしょうか、まったくの偶然で、眼前を横切って行くキツネの姿を見かけたのです。もちろん雪面に残された足跡によってさまざまな獣が訪れていることは重々承知していま

もっとみる
「命の証ってこれのこと?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十)丸山健二

「命の証ってこれのこと?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(三十)丸山健二

 春を予感させる日がつづいたかと思うと、いきなり大雪が降って冬へ逆戻りです。

 毎年のことですからそれなりの覚悟ができているつもりでも、やはり挫折感を伴った失望感は禁じ得ません。

 しかしまあ、積雪がどうであろうと、なんといっても三月には違いないのですから、除雪作業の重苦しさを意識するほどではないのです。放っておけばすぐに融けてしまいます。

 問題なのは庭の植物たちの狼狽振りで、他人はむろん

もっとみる
「生き抜いてみせてやれば」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十九)丸山健二

「生き抜いてみせてやれば」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十九)丸山健二

 カッコウの鳴き声は、ヒグラシほどではありませんが、胸に沁みる郷愁を伴っています。

 久しく忘れていた幼少時代のちょっとした感慨を蘇らせてくれ、思わずしばし聴き入ってしまいます。

 妻に訊いてみますと、都会育ちであるにもかかわらず同じ印象を持つとのことでした。かつては東京においてもカッコウやヒグラシの声は飛び交っていたそうです。

 時代が便利さを得た代わりに何を失っていったのかという、そんな

もっとみる
「美学がため息を漏らす」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十八)丸山健二

「美学がため息を漏らす」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十八)丸山健二

 我が庭には、どういうわけか枝垂れの樹木が似合いません。

 家の構造も含めて全体的に直線的な印象が強いためなのでしょうか、なぜか馴染まないのです。

 それでも、糸枝垂れの桜が春風に揺れて咲き乱れる蠱惑的な風情に憧れるあまり、ろくすっぽ考えもせずに取り入れてみました。予算と根付きの関係から、いつも通り若木一本を植えたのです。

 翌年にはもう花を咲かせてくれ、当然ながらさほどの見応えはありません

もっとみる
「植物は植物として扱うべし」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十七)丸山健二

「植物は植物として扱うべし」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十七)丸山健二

 常緑針葉樹のなかで好きなのは、ツガよりも葉が小さいコメツガです。

 これを我が庭へぜひ取り入れたいと思い、知人の許可を得てその山を駆けずり回ったのがもう三十数年ほど前のことです。ありふれた樹木であるのになぜそこまで探し回ったかと言いますと、より小さな葉のものを欲していたからです。つまり、同じ種類であっても微妙に個体差があり、なかには盆栽仕立てが似合いそうな細かい葉のコメツガも稀に混じっていて、

もっとみる
「小説家のサガって何?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十六)丸山健二

「小説家のサガって何?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十六)丸山健二

 アカゲラとアオゲラの二種類のキツツキがしばしばやってきます。なんとも気紛れな訪問で、季節を問いません。

 少しばかり見た目がいいからといって、必ずしも大歓迎というわけにはゆきません。それというのも決まって悪さをするからです。樹木の表皮の裏側に巣くっている虫をほじくり出したり、ドラミングによって縄張りを主張したり、異性を惹きつけたりする行為は一向に構わないのですが、しかし、幹に大きな穴をあけて巣

もっとみる
「最後の勝利者は誰?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十五)丸山健二

「最後の勝利者は誰?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十五)丸山健二

 庭造りは、草取りに始まって草取りに終わると言ってもいいでしょう。

 それが基本中の基本という地味な作業の連続なのです。けっしてチャラチャラした趣味ではありません。地道な努力の積み重ねが必要とされるのは、他の趣味と同じです。

 ところが、どうでしょう、ガーデニングも文学もなぜかそうした目で見られることが間々あります。周囲の視線がそうであっても、携わっている当人の認識が冷静で正確であれば問題はな

もっとみる