書房いぬわし

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「小説家のサガって何?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十六)丸山健二

 アカゲラとアオゲラの二種類のキツツキがしばしばやってきます。なんとも気紛れな訪問で、季節を問いません。  少しばかり見た目がいいからといって、必ずしも大歓迎と…

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「最後の勝利者は誰?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十五)丸山健二

 庭造りは、草取りに始まって草取りに終わると言ってもいいでしょう。  それが基本中の基本という地味な作業の連続なのです。けっしてチャラチャラした趣味ではありませ…

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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【6】11月21日~30日

第6回目の連載では「橋」「影」「薄笑い」「ヘッドライト」「芝生」「ベンチ」「印象」「夜嵐」「池」「消火栓」が語ります。

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「光を浴びてから死のうか」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十四)丸山健二

 家と庭が合体してこその〈家庭〉なのでしょう。  その意味においては私の住処も家庭の仲間に入るのかもしれません。  しかし、半世紀以上もこの地にこうした形で住ま…

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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【5】11月11日~20日

第5回目の連載では「紋章」「カマキリ」「快晴」「鏡」「歌」「空気」「くす玉」「弱音」「北」「火花」が語ります。

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2週間前
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「天然記念物であらせられるぞ!」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十三)丸山健二

 数年前の真っ昼間の出来事です。  ふと庭へ目を転じて仰天しました。なんとニホンカモシカの訪問ではありませんか。  もちろんこうした山国ですから、あちこちの山林…

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2週間前
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「自分を買い被ろうかな」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十二)丸山健二

 庭の花が咲き乱れています。  好みの草木たちが黄金の季節を迎えて大はしゃぎしています。  地味な田園地帯の一角にあって異様な華やかさを醸すこの空間は、どこに潜…

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2週間前
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「死ぬまで振り返らないぞ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十一)丸山健二

 正直、近頃の天候の高圧的な態度にはいささか押され気味です。  それというのも年々歳々予測不可能な展開が次々にもたらされるからでしょう。  その反面、我が庭の植…

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2週間前
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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【4】11月1日~10日

第4回目の連載では「バス」「茶柱」「頽廃」「酒場」「野良犬」「死」「ラジオ」「追放」「絵葉書」「温泉」が語ります。

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2週間前
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「生きたまま現世を超える?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十)丸山健二

 庭に集まってくるさまざまなハナバチたちの羽音の渦に巻きこまれて花殻を摘み取る作業が、おそらく誰にも理解できないであろう至福の時を与えてくれるのです。  不思議…

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3週間前
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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【3】10月21日~31日

第3回目の連載では「ボート」「木漏れ日」「脳」「ハンググライダー」「虹」「牛乳」「交情」「扉」「畑」「嫌悪」「義手」が語ります。

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4週間前
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「死が癒してくれるよ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(十九)丸山健二

 幸運にも、この八十年間で残酷な自然災害に見舞われた経験が一度もありません。しかし、この先もそれがつづくかと言いますと、「怪しい限り」が本当のところでしょう。 …

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4週間前
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「人生なんてさあ……」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(十八)丸山健二

 標高が七百五十メートルだからといって、この地の夏が格別涼しいというわけではありません。  内陸性気候の特徴で、確かに湿度は低く、海辺のむしむし感と比べたらまだ…

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1か月前
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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』【2】10月11日~20日

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1か月前
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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』1988年10月1日~10日

         ☆  私は風です。  うたかた湖の長命な湧水から生まれて  穏健なる思想と控えめな恒常心を兼ね備えた  名もなき風です。  気紛れ一辺倒の私…

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1か月前
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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』の連載にあたって

丸山健二を知っていますか? こんな小説を読んだことがありますか? 丸山健二は、就職先の商社が合併されて路頭に迷う前の23歳、初めて書いた小説「夏の流れ」で芥川賞を…

書房いぬわし
1か月前
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「小説家のサガって何?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十六)丸山健二

「小説家のサガって何?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十六)丸山健二

 アカゲラとアオゲラの二種類のキツツキがしばしばやってきます。なんとも気紛れな訪問で、季節を問いません。

 少しばかり見た目がいいからといって、必ずしも大歓迎というわけにはゆきません。それというのも決まって悪さをするからです。樹木の表皮の裏側に巣くっている虫をほじくり出したり、ドラミングによって縄張りを主張したり、異性を惹きつけたりする行為は一向に構わないのですが、しかし、幹に大きな穴をあけて巣

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「最後の勝利者は誰?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十五)丸山健二

「最後の勝利者は誰?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十五)丸山健二

 庭造りは、草取りに始まって草取りに終わると言ってもいいでしょう。

 それが基本中の基本という地味な作業の連続なのです。けっしてチャラチャラした趣味ではありません。地道な努力の積み重ねが必要とされるのは、他の趣味と同じです。

 ところが、どうでしょう、ガーデニングも文学もなぜかそうした目で見られることが間々あります。周囲の視線がそうであっても、携わっている当人の認識が冷静で正確であれば問題はな

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「光を浴びてから死のうか」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十四)丸山健二

「光を浴びてから死のうか」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十四)丸山健二

 家と庭が合体してこその〈家庭〉なのでしょう。

 その意味においては私の住処も家庭の仲間に入るのかもしれません。

 しかし、半世紀以上もこの地にこうした形で住まっているというのに、その実感が一向に湧いてこないのはなぜでしょう。

 子どもがいないからでしょうか。それとも、小説家という、浮いた印象が強めの、特殊な職業のせいでしょうか。さもなければ、先天的にこの世への根付き方が悪いからなのでしょう

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「天然記念物であらせられるぞ!」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十三)丸山健二

「天然記念物であらせられるぞ!」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十三)丸山健二

 数年前の真っ昼間の出来事です。

 ふと庭へ目を転じて仰天しました。なんとニホンカモシカの訪問ではありませんか。

 もちろんこうした山国ですから、あちこちの山林では幾度も見かけていました。しかし、いくら田舎町の田園地帯とはいえ、ここでも一応は住宅地なのです。キツネやタヌキならまだしもニホンカモシカの登場とは驚きで、何しろ数十年間の暮らしのなかで初めての経験だったのです。

 すぐさま妻を呼んで

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「自分を買い被ろうかな」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十二)丸山健二

「自分を買い被ろうかな」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十二)丸山健二

 庭の花が咲き乱れています。

 好みの草木たちが黄金の季節を迎えて大はしゃぎしています。

 地味な田園地帯の一角にあって異様な華やかさを醸すこの空間は、どこに潜んでいたのかわからない珍しい蝶や季節の小鳥を呼び集めて、作庭家自身を有頂天にさせます。

 もしかするとですが、こうした高揚感こそが人生の黄金時代の錯覚を差し招くのかもしれません。

 ひょんなことから文学の世界に首を突っこんでもう半世

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「死ぬまで振り返らないぞ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十一)丸山健二

「死ぬまで振り返らないぞ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十一)丸山健二

 正直、近頃の天候の高圧的な態度にはいささか押され気味です。

 それというのも年々歳々予測不可能な展開が次々にもたらされるからでしょう。

 その反面、我が庭の植物たちがこぼす無言の愚痴には、環境に支配されるしかないのだという、半ば諦め気分やら運命の必然性やらも感じられてしまうのです。

 そうした後ろ向きの空気が漂うなかで、いつの間にやら視界の外へ消えていった種類も、残念ながら少なくありません

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「生きたまま現世を超える?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十)丸山健二

「生きたまま現世を超える?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十)丸山健二

 庭に集まってくるさまざまなハナバチたちの羽音の渦に巻きこまれて花殻を摘み取る作業が、おそらく誰にも理解できないであろう至福の時を与えてくれるのです。

 不思議な感覚です。根気のいる単調な仕事がなぜこうした充足感を差し招くのでしょうか。傍目からすれば理解できないと思います。

 掛け替えのないその気分をどう表現していいものやら、物書きのくせに、これがなかなか難しいのです。

 癒しを帯びた安らぎ

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「死が癒してくれるよ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(十九)丸山健二

「死が癒してくれるよ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(十九)丸山健二

 幸運にも、この八十年間で残酷な自然災害に見舞われた経験が一度もありません。しかし、この先もそれがつづくかと言いますと、「怪しい限り」が本当のところでしょう。
 本能的直感なる疑問符だらけの予感を前提にしますと、天変地異の時代が募ってゆくばかりと感じている人々の数は、増えることがあっても、減ることはないと思います。今さらながら偉そうに言うまでもないことなのですが、世界の変化は大中小の組み合わせによ

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「人生なんてさあ……」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(十八)丸山健二

「人生なんてさあ……」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(十八)丸山健二

 標高が七百五十メートルだからといって、この地の夏が格別涼しいというわけではありません。
 内陸性気候の特徴で、確かに湿度は低く、海辺のむしむし感と比べたらまだましとはいえ、たびたび発生するフェーン現象のせいで気温が都市部のそれを上回ることも珍しくないのです。「信州って意外に暑いんですね」などと客にからまれても、「そうなんですよ」のひと言でさらりとかわすしか手がありません。
 冬は雪と低温に支配さ

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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』1988年10月1日~10日

丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』1988年10月1日~10日

         ☆

 私は風です。

 うたかた湖の長命な湧水から生まれて
 穏健なる思想と控えめな恒常心を兼ね備えた
 名もなき風です。

 気紛れ一辺倒の私としましては
 きょうもまた日がな一日
 さながら混沌に支配されたこの世界よろしく
 特にこれといった意味もなく
 曲がりくねった岸辺に沿ってひたすらぐるぐると回るつもりでした。

 ところがです
 一段と赤みを増した太陽が連山

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丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』の連載にあたって

丸山健二著『千日の瑠璃 Changed writing style for web ver.』の連載にあたって

丸山健二を知っていますか?
こんな小説を読んだことがありますか?

丸山健二は、就職先の商社が合併されて路頭に迷う前の23歳、初めて書いた小説「夏の流れ」で芥川賞を受賞。その後、文壇とは一線を画して長野県に居を構え、今の今まで徹底して純文学を追究している書き手です。

丸山健二は、書くことを止めません。
365日、毎朝、必ず書きます。それが60年近く続いています。
なぜか。
それは一日でも書く

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