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読書・映画感想

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読んだ本・観た映画の紹介と、ネタバレありの感想
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記事一覧

『黄色い家』川上未映子  |  読書感想

『黄色い家』川上未映子 | 読書感想

読んでからしばらく経つのですが、衝撃が抜けず感想をうまく言葉にできなかった本。
少しずつ感想を書いていきたいと思います。

中学生のころの主人公・花は、母の友人である黄美子さんと出会います。貧乏な母子家庭に育ち、学校にも馴染めずにいた花は、黄美子さんと生活をするうちに彼女の強さや奔放さに惹かれて心強く思うようになります。

ある日突然黄美子さんはいなくなり、それから数年の間、花は必死でバイトをして

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漢詩和訳の世界  |  エッセイ・本紹介

漢詩和訳の世界 | エッセイ・本紹介

「漢詩」と聞いて、なにを思い浮かべますか?

私は、中学校の国語の授業や大学入試などで扱われた漢文を思い出します。
難読漢字ばかりで、レ点などの訓読文から書き下し文にする作業で終わり。直訳を読んでもなにを言っているかよくわからないけれど、なんとなく漢字から意味を繋いで内容を理解していた気でいました。

「詩」であるにもかかわらず、リズム感や言葉の繰り返し、韻や広がっていく情景などの「詩の良さ」につ

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今日はいい夫婦の日らしいよ  |  エッセイ・本紹介

今日はいい夫婦の日らしいよ | エッセイ・本紹介

今日、11月22日はいい夫婦の日らしい。

21日の昨日はイーブイの日だったらしいので、語呂合わせが好きなだけじゃんとは思うけれど。さすがに覚えやすいからか、この日に実際に入籍する人も多いと聞きますね。

そういえば同僚も、今日入籍予定だった気が。結婚指輪の相談をされて、私たちが選んだハンドメイドのお店を紹介したらそのままそこに決定していました。写真を見せてもらったら、私の薬指のものとそこそこ似て

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日本近現代文学9作品 | 読書感想

日本近現代文学9作品 | 読書感想

授業で扱われた日本近現代文学のうち、青空文庫で読める9作品を、感想とともに簡単にまとめてみました。
有名どころでどれも短時間で読めるものなので、気になった作品や懐かしい作品があったらぜひ読んでみてください〜!

二葉亭四迷『あひびき』

明治21年(1888)発表。
ロシアのツルゲーネフの狩猟日記の一遍を逐語訳(文の一語一語を忠実にたどった訳)したもの。
秋のある日、主人公は白樺林の中で可憐な農夫

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超私的・初心者におすすめの村上春樹作品リスト

超私的・初心者におすすめの村上春樹作品リスト

「村上春樹の文章は、癖が強くて読みにくい」
「有名だけど、何から読めばいいか分からない」

ご学友の言葉。わかる、戸惑いますよね。でもせっかくこの時代に生きる本好きなら、あの魅力に飛び込んでほしい!

ということで、私の思う「初心者におすすめの村上春樹作品リスト」を作りました。独断と偏見です。異論は受け付けます。ではどうぞ。

村上春樹のここが凄いそもそも、村上春樹はなにが凄いのか。
卓越した比喩

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君たちはどう生きるか  |  感想

君たちはどう生きるか | 感想

ジブリ最新作、公開初日に観にいきました。
最後のシーンから会場が明るくなるまで、ずっと泣き通しだった人間です。
うまく言語化できる自信がないですが、ネタバレありの感想をば。

まず、見終わった直後の感想として。
「悪意と善意」「嘘と真実、信頼」のお話なのかなと思いました。自分はどう生きるかの答えの欠片くらいはぼんやり見えるような、私にとっては救いの塊でした。

戦時中、火事で母を亡くした主人公は父

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『ハーモニー』伊藤計劃  | 読書感想(生きづらさとは)

『ハーモニー』伊藤計劃 | 読書感想(生きづらさとは)

伊藤計劃の、第30回日本SF大賞受賞作品。

オルダス・ハクスリー『素晴らしい新世界』でディストピア小説の魅力に気づいたところで、ぜひ読んでみてはと紹介いただきました。

タイトルの<harmony/>や、紹介文の<br>といった見慣れない記号が出てきますが、これは本文を構成するMTML言語。
最初は戸惑いますが、なぜこの書き方がされているのか考えながら読み進め、意味が分かるとまた面白いものでした

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100年後あなたもわたしもいない日に | 感想

100年後あなたもわたしもいない日に | 感想

とある田舎の本屋さんで発見しました。
装丁に惹かれた1冊。

「トリミング」がテーマの短歌とイラストの本です。表紙も、このとおり。

この仕掛け、素敵……!
表紙では、前の人の顔と奥の人の手しか見えなかったんですね。

本の中にも、トリミングされている箇所が多くあります。前のページから文字や絵が続き、切り取られ、世界観が造られています。

雨が風船へと変わったり、孤独に佇む人が前を歩く想い人へ変わ

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『コンビニ人間』 | 読書感想(普通ってなに)

『コンビニ人間』 | 読書感想(普通ってなに)

村田沙耶香さん「コンビニ人間」を読みました。第155回芥川賞受賞作です。

おもしろかった!もっと早く読むべきでした。

コンビニのアルバイトを18年間やっている36歳、恋人いない歴=年齢の恵子。
幼い頃から「普通に」友だちと馴染むことも、就職することも恋愛・結婚をすることも、まったく意欲がありません。
そんな主人公がコンビニでマニュアルに沿って働くとき、初めて「普通」「正常」な「世界の部品」にな

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『ハンチバック』 |  読書感想

『ハンチバック』 | 読書感想

第169回芥川賞受賞作、市川沙央さんの「ハンチバック」を読了しました。
話題作ということもあり、心して読みましたが凄かった…!自分の拘りや不満なんて簡単にぶっ壊されてしまうよな、大きなエネルギーを感じました。

主人公の釈華は、身体に重度の疾患を持っている。自らを"せむし(ハンチバック)の怪物"と呼び、電動車椅子や人工呼吸器が欠かせない生活を送ってきた。
普段はグループホームで有名私立大学の通信過

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『村上春樹と装丁』 |  感想

『村上春樹と装丁』 | 感想

こちら、村上春樹さんの本の装丁が特集されています。イラストレーションNo.239です。
普段寄らない雑誌コーナーになぜか吸い寄せられて見つけ、手に取りました。

村上春樹さんの本は内容が注目されがちだけれど、デザイン、紙質、見返し、シリーズものの色違いなど、装丁が世界観に合っていてどれも美しいですよね。

本・装丁の基礎知識から始まり、過去作品のこだわった箇所やボツ案などが掲載されています。
作品

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『よき時を思う』  |  読書感想

『よき時を思う』 | 読書感想

宮本輝「よき時を思う」を読みました。
自分の誕生日に、ぴったりだと思ったので。

宮本輝はもともと大好きで、今作も見かけてすぐ買いました。いつも、期待値を軽く超えてくれる。

四合院造りを管理する男性、一間を借りて住んでいる女性とその家族のお話。
四合院造りとは中国の伝統的建築で、中庭を囲んで四方に建物を配置しているものを指します。

物語の本筋である主人公・綾乃の実家や晩餐会場などはこの場所では

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『猫のエルは』 |  読書感想

『猫のエルは』 | 読書感想

町田康「猫のエルは」読了しました。
ほっこりしたりひやりとしたり、猫にまつわる世界のさまざまな面を見られる1冊。

何気に町田康を読むのは初めて。

癖が強そうという偏見で敬遠していましたが、本当に癖が強かったです。びっくりした。

詩を含む5編を収録している本作、ヒグチユウコさんの挿絵がフルカラーで入っていて世界観に引き込まれました。
緻密で表情豊かなイラスト、本当に素敵…!

私が1番好きだっ

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『傲慢と善良』 |  読書感想

『傲慢と善良』 | 読書感想

辻村深月「傲慢と善良」を読んだ。
あまりにもおすすめされるので、友人に借りて。噂どおりの良書だった。

人物描写や感情・行動の説明があまりに緻密で現実的で、ゔっっとなる場面が多かった。ここまで言語化してしまうのか。
なんて容赦ないんだ……

架の、鈍感で、視座が高いところ。
真実の、繊細で、視野が狭いところ。
真実の母親の、家族思いで、偏狭なところ。
架の女友達の、賢く、陰険なところ。
小野里の、

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