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小説 桜ノ宮

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大人の「探偵」物語。 時々マガジンに入れ忘れていたため、順番がおかしくなっています。
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小説 桜ノ宮 あとがき

小説 桜ノ宮 あとがき

緊急事態宣言が出される少し前に、大阪環状線に乗った。

大阪駅から目的地の京橋へ行く間、車窓からは雑多な街や腐った青汁のような川を縫うように桜が咲き始めているのが見えた。

何となくその美と汚さの混じったさまを見て、このあたりを舞台に小説を書いてみたいと思ったのが始まりだった。

最初は、多くの人が大好きな不倫ものを書くつもりだった。

しかし、私自身が不倫に興味がなかったので、前から書いてみたか

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小説 桜ノ宮 ㉛ 終

小説 桜ノ宮 ㉛ 終

夕方が近づいて風が強くなってきた。
横なぐりの桜吹雪を春子は空虚な気持ちで眺めていた。
ふいに、肩回りが温かく感じられた。
背後に誰かがいる。
そう思った途端に後ろから抱きしめられた。
「春子さん。何考えてるの」
「“願わくは 花の下にて 春死なん”」
「西行だね」
腕の中にいながら、春子は振り返った。
スリムは春子の前髪を整えた。
「春子さん、僕と行こうか。おなかの赤ちゃんと幸せに暮らせるところ

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小説 桜ノ宮 ㉚

小説 桜ノ宮 ㉚

「私。急用が…」
消え入るような声で呟くと、真美は踵を返した。
「ダメですよ。逃げたら」
真美が振り返った目の前に同じような背格好の女がいた。
「おお、市川さん」
紗雪は真美の耳元から少し顔をだして頷いた。
昨夜、広季から真美が美里の実家へ現れる時間に合わせて来るよう連絡があったのだった。
真美は広季と紗雪の間に挟まるような形になった。
「逃げるようなマネをしたってこと丸出しやないですか」
紗雪に

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小説 桜ノ宮 ㉙

小説 桜ノ宮 ㉙

暦の上ではもうすぐGWであるというのに、今年はその気配すら感じられない。
どこへ行っても営業が自粛されたり、短時間しか活動できなくなったりしているからだ。
繁華街から人は消えたが、住宅地では増えた。
企業がテレワークを推進し、子供たちは目下休校中の身である。
朝早くから遅くまでエネルギーを持て余した子供たちの声を聞くと、広季は一人娘の可南を想い、涙を流していたのだった。
しかし、そんな毎日も昨日で

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小説 桜ノ宮 ㉘

紗雪は広季が滞在する部屋に美里を無事送り届けると、ゆっくりと廊下を歩きだした。
鼓動がいまさらになって早くなる。右耳の後ろから汗が流れた。
エレベーターを待っている間に肩を上下させて体をほぐすことを意識する。
間で大きく深呼吸をしてみた。
肩甲骨をぐるぐると回したあと、広季と美里のいる部屋を遠目に伺う。
ドアは閉じられたまま。
何の異変も感じられなかった。
エレベーターが到着し、ドアが開く。
なだ

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小説 桜ノ宮 ㉗

広季は部屋のインターホンが鳴ったと同時にドアを開けた。
姿が見えないよう、ドアに身を隠す。
「さあ、入って。振り向いては駄目ですよ。まっすぐ歩いて」
「はい」
美里の肩を抱いて紗雪が入ってくる。
「さ、ベッドに腰掛けて」
二人は広季に背を向けてセミダブルベッドにゆっくりと座った。
紗雪は美里の背中を撫で、耳に髪の毛までかけてやっていた。
「大丈夫、大丈夫」
耳元で囁くと、美里は肩の力を抜き、深く息

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小説 桜ノ宮 ㉖

小説 桜ノ宮 ㉖

しばらくすると、広季だけがエレベーターホールへと消えていった。
紗雪がフロントへと歩いてくる。
「ごめんな。いきなり」
「ええよ。どうせ暇やし」
パソコンの画面から目を離さずに修は答えた。
「探偵稼業も楽やないわ」
紗雪は大きく息をつきながらフロントに背を向け、カウンターに両手を伸ばした。
「ハニワ誠実教って、いろいろやらかしてんの?今回みたいに」
振り向くことなく紗雪は修に訊ねた。
「そうやなあ

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小説 桜ノ宮 ㉑

小説 桜ノ宮 ㉑

あ、名前、きちんと言っていなかったですね。
芦田美里と申します。
職業は専業主婦です。
夫とは今、別居しています。
あのう、そうですねえ。去年の今頃ですかね。
家にいると、ちょうど天気が悪くなり始めていまして。
雨が降るかもしれないなって、部屋の窓ガラス越しに外を見たんです。
その時に窓ガラスに映った自分の顔を見て、あれ?この人、誰なんやろうって思ったんですよね。

何だかこう、私というのは、夫と

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小説 桜ノ宮 ㉕

小説 桜ノ宮 ㉕

修はフロントで書類整理をしながら、紗雪を待っていた。
最初に届いたメールを見た時には度肝を抜かれた。
―私、芦田さんとホテルに行くから。-
読むなり修の顔が真っ赤になったのは言うまでもない。
嫉妬はもちろん、この間自分と関係を持ったばかりだというのに相手がほかにいるのか、しかもこのホテルへ一緒に来るのかと、紗雪の神経を疑った。
―あ、今、変なこと書いたかも。誤解せんといて。これには事情があってやな

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小説 桜ノ宮 ㉔

小説 桜ノ宮 ㉔

タクシーは5分もしない間にやってきた。
スマホをいじっていた紗雪を先に乗せ、広季はあとに続いた。
「桜ノ宮のホテルブルームまで」
「はい」
金髪をひっつめにした初老の女性運転手は、紗雪の注文に甲高い声で答えた。
少し無邪気で幼女のような明るい声だった。
車は静かに動き出した。
「お客さん、ちょっと寒いかもしれませんけど、コロナ対策でちょっと窓開けさしてもらってますんで」
広季は車内の窓を一つ一つ見

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小説 桜ノ宮 ㉓

小説 桜ノ宮 ㉓

広季は公園でブランコを漕いでいた。
マスクをした親子づれがジャングルジムや滑り台で遊んでいる。
ひとりブランコを漕ぐ広季の姿を時折見ては目をそらしていた。
「たぶん、お前、変質者やと思われてるで」
隣のブランコに腰掛けたスリムが冷やかした。
「どう思われたってええわ」
「さて、うまくやってくれたでしょうかねえ、おばさん探偵は」
「さあ。でも、頼れる人がほかにおらんしなあ」
「秘書の福井さんは」

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小説 桜ノ宮 ⑰

小説 桜ノ宮 ⑰

可南からの電話を切った後、広季は唸った。
「ああ。腹立つわー」
タンクトップとトランクス姿で地団駄を踏むごとに腹と胸が揺れている。
「どないしたんや」
ソファ越しにスリムが訊いた。
「あのなあ、あ、せや、あの人に連絡しよう」

広季は紗雪に電話した。

「あ、市川さん。芦田ですー。どうもお世話になります」
「ああ、お世話になりますー」

「市川さん、早速探偵の仕事やってほしいんですわ」
さっきまで

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小説 桜ノ宮 ㉒

小説 桜ノ宮 ㉒

紗雪はおもむろにマスクを下げ、意を決して紫色の飲み物を口に入れた。
甘くてやたら舌や歯にまとわりついた。
紗雪の推理が確かならば、この飲み物は、かき氷のブルーハワイといちごのシロップを掛け合わせたものではないだろうか。
コップを盆に戻すと、マスクの位置を上げた。
これをどうしてお茶と思えるのだろう。
教祖がお茶だといえば、それはお茶だということなのだろうか。
お茶への疑問はまだあったが、紗雪はひと

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小説 桜ノ宮 ⑳

小説 桜ノ宮 ⑳

ドアの隙間から顔を出した美里は、ビアホールで見かけた時より、しぼんで見えた。
「こんにちは」
紗雪は無表情を意識してあいさつした。
とはいえ、顔のほとんどが眼鏡とマスクで覆われているのだが。
「こんにちは。あの。明日じゃなかったでしたっけ?」
肩にかかった髪を整えながら、美里は訊いた。
「お友達が日にちを間違えたみたいですね」
「あ、そうなんですか。ちょっと友達に連絡して来てもらいます」
「私がも

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