マガジンのカバー画像

:妄想歳時記:

10
月刊誌「大阪人」にて2008年2月号〜2009年11月号まで巻頭コラム「おおさか絵暦」、見開きページにて掲載。「大人のための絵本のように」とディレクションを受け、大阪の歳時記をベ… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

:妄想歳時記:天満宮の登竜門で、 もっぺん繰り返す

:妄想歳時記:天満宮の登竜門で、 もっぺん繰り返す

風薫る、端午の節句。
天神橋の新築マンションのベランダに、
新しい家族と、小さな鯉のぼり。

鯉のぼりの由来は、中国の登竜門の話。
昔、霊山に「竜門」という難所の滝あり、
一匹の鯉がそこを懸命に登り切った時、
神通力をそなえた龍となり、悠々と天に昇ったという。

故事にならい、男の子の健康と成功を願って、
天の神様に向かい、目印として鯉のぼりを立てた。

登竜門は、合格祈願の難関通り抜け、神事と

もっとみる
:妄想歳時記:桜之宮で、間悪う魅いられた

:妄想歳時記:桜之宮で、間悪う魅いられた

造幣局の「桜の通り抜け」より少し前、
桜之宮の大川ぞいは、花見の宴で遅くまで明るい。
満開の桜に誘われ、夕方から呑み始めると、
花曇りの空は、だんだん深い色に移る。

昼と夜が入れ替わる逢魔(おうま)が時に、
ふと見上げた桜は、群青を背景に白く透きとおる。
無数の花びらが悪悪(わるわる)う冴えわたり、
ゾッとするほど妖しく美しい。

もちろん樹の下に何かが埋まっているはずもなく、
ただ光の加減と空

もっとみる
:妄想歳時記:アッチャコッチャの天王寺詣り

:妄想歳時記:アッチャコッチャの天王寺詣り

暑さ寒さも彼岸まで。
上方落語「天王寺詣り」では
お彼岸に、黒犬の供養のついでに親の供養もする
アッチャコッチャの男が出てくる。
善男善女で溢れかえるこの時期。
調子よくしゃべる落語を観光案内にして、
今も残る風景を手がかりに、
四天王寺さんでタイムスリップ。

昼と夜の長さが同じになる春分、秋分は、
真西に当たる西門石島居の真ん中に太陽は沈む。
はるか昔、人々はきれいな夕陽に手を合わせ、
西門の

もっとみる
:妄想歳時記:路地(ろォじ)で笑う、 えべっさん

:妄想歳時記:路地(ろォじ)で笑う、 えべっさん

年が明けて、正月気分もおさまるころには
「えべっさん」の始まり。

今宮さんや堀川さんの近所の参道は、
提灯や露店の用意で、ザワザワと落ち着かない。
仕事終わりに、残り福のギリギリにお参りして、
しまいかけの露店の寂しい参道を抜け
路地の小さな店に入る。

たいがいのお店では、もう新しい福笹が飾ってある。
そのネタで少し話して、酔いと共に別の話に流れる。

なんとも感じなかった事に、
年々気付き

もっとみる
:妄想歳時記:梅田の地下街で、心急(こころぜ)きなサンタ

:妄想歳時記:梅田の地下街で、心急(こころぜ)きなサンタ

街はクリスマス一色に染まり、
今年も梅田の商業施設に、たくさんのサンタが来る。
ここにある最新のプレゼントを仕入れ、
すべての人に幸せを届けようと
いつもの地下街を抜けてサンタはやって来る。

ただ毎年、迷路のような街にとまどう。
去年あったお店はなくなっている。
街は変化し、開発と停滞、統合と撤退を繰り返す。
去年の情報は、もう役に立たない。

迷いながら、焦りながら師走にサンタも走っている。

もっとみる
:妄想歳時記:御堂筋のギンナン、何(なん)なん。

:妄想歳時記:御堂筋のギンナン、何(なん)なん。

もうすぐイチョウ並木も黄金色に色づき、
いよいよ本格的な秋が始まる。
今まだ青いイチョウに成るのは、ギンナン。
食べると旨いが、かなん匂いは、何なん。

久しぶりに御堂筋、歩くのは、よい提案。
真っすぐ下って左折する、行き先は東南。
やっと終った仕事を納め、乗り越えた苦難。
信号待ち、一服しようとした時、眼前の取締官。
すっかり忘れた路上喫煙禁止、あかん我慢。
日暮れ前、行き交う人を避けな

もっとみる
:妄想歳時記:淀川で、知らん顔したサギ。

:妄想歳時記:淀川で、知らん顔したサギ。

秋気澄む、高い空、色なき風が吹き抜ける。
犬連れの人、走る人、自転車の人。
ワンドでは混じり合い、多様な生物。
淀川は時間をかけて、たくさんのものを受け入れる。

川の中、人影のようなサギの姿。
お気に入りのポイントを見つけると
なんのためかは知らないが、じっと動かない。
サギには、サギの用事がある。

渡り鳥は、ここらで休み南へ帰る。
知らん顔したサギは、やっぱり止まったまま。
見上げるのは、十

もっとみる
:妄想歳時記:出来損(でけぞこ)ないの秋、 仕上げは松虫で

:妄想歳時記:出来損(でけぞこ)ないの秋、 仕上げは松虫で

立秋をとうに過ぎても、秋とは名ばかり。
昼間はまだまだ暑く、夏の疲れが身体に残る。
そんな出来損ないの秋を、仕上げるために
松虫を訪ね、小さい秋を採集する。

阿倍野の松虫塚、寂しい伝説がいくつもある。
ただスズムシの古名がマツムシと言われ、
その時代、鳴いていたのはスズムシか?
考え過ぎると頭に熱がこもる、それはやめ。
どちらしても、この地は昔、
虫の音がきれいな松原だった、これでよし。

もっとみる
:妄想歳時記:さぶイボたてて、 炎天下の平野。

:妄想歳時記:さぶイボたてて、 炎天下の平野。

残る暑さは、秋の知らせとは裏腹に長く続く。
地上には、カラカラに乾いたセミの脱け殻。
地中の出来事をすっかり忘れたセミは、
朝から手加減なしに今だけを鳴き続ける。
うつせみの世は短い。

平野の大念佛寺。
広い境内に大阪府下最大の木造建築。
「万部おねり」では、人があふれていたけれど、
普段はひっそり。
炎天下では、なおさら所在ない。
8月、年に1度、幽霊画の特別公開。
さぶイポ立つほど、ゾッとす

もっとみる
:妄想歳時記:科学館の天の川と、あいそなしのそうめん。

:妄想歳時記:科学館の天の川と、あいそなしのそうめん。

明るくなる前、暑さで起こす太陽。
町家の軒先、日に日に伸びる朝顔のツル。
笹の葉サラサラ、七夕の短冊、願い事。
真っ白の光、輪郭だけを映す影。
縁日、走る子ども、汗で額に張りつく髪の毛。
金魚すくいでとった金魚は、いなくなった。

中之島、大阪市立科学館、昼間見る星空。
プラネタリウム、天の川で避暑。
こと座のベガ、わし座のアルタイル、
織姫と彦星、うたた寝、終らない物語。

キュウリのザクザク、

もっとみる