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#短編小説
【短編小説】LOVE POTION NO.9(後編)
先を行くお兄さんに気づかれないように、私は美春にこっそりと尋ねる。
「そもそもあの人なんなの?」
「お店の人なんだけど、なんて言えばいいのかな、古道具屋さん?」
……古道具屋さん? 古道具屋さんがいったいなんでチョコレートなんて取り扱っているのだろうか。
先を行くお兄さんはまるでウィンドウショッピングを愉しむかのように飄々と町を歩いて行く。どれだけ歩いただろうか、いつの間にか私達は駅前の裏路地
【短編小説】LOVE POTION NO.9(前編)
きっと、バレンタインのせいだ。
二月になると教室の空気がなんだかそわそわしてくる。他愛ないおしゃべりだったり、視線を交わす仕草にもなんとなく緊張感が漂っているみたいに感じる。
でも、私は正直に言うとみんながなんでそんなにバレンタインに必死になっているのかが分からないのだ。同級生の男子がなんだか子供のように思えてしまって、よっぽど仲の良い女友達と話している方が楽しいと思うんだけど、みんなはそうじ
【掌編小説】けなげな鍵
ちょっと聞きたい。あなたは忘れ物をしやすい人かい? もしそうなら俺と同類なんだが、思うにそういう人は、基本的に適当なのだ。適当にぽいっと置いてしまうからすぐに物を無くしてしまう。それが良くない。まあ色々と忘れ物をしてしまうのだが、よく無くすのは鍵だ。もちろん無くしてしまう俺が悪いのだが、だいたいあのサイズがよろしくない。すぐにそこらの隙間に入り込んでしまって、どこに行ったか分からなくなる。
【掌編小説】電波塔に上って
「はぁ……」
カタカタとパソコンのキーボードを叩きながら、向かいの席の後輩の田中が大きく溜息をついた。人の気配の少ないオフィスでは小さな呟きもやけに大きく響き渡る。今日は年末の挨拶回りもかねて得意先への訪問予定があったため、自分も彼もオフィスへと出社していた。ずいぶんとあからさまに大きな溜息をつかれてしまうと、さすがに反応しないわけにもいかない。
「どーした、そんな大きく溜息をついて」
パソ