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【短編小説】腸詰奇譚 6話
夏の世の夢
これが、私が乱歩先生と関わった、たった数日の出来事でございます。
その後私は良縁に恵まれまして、こうして地元にいて孫に囲まれているわけでございますが、まるであの日のことは一夜の夏の夢のように思われるのでございます。
……ですがね。
この歳になって、今更思うのです。
なぜあの手紙は、わざわざタイピングされて書かれていたのだろうか。
良美姉さんは別にタイピストだったわけではありません。
私に宛てて手紙を書くなら、そのまま万年筆なりなんなりで書けば良かったのではないでしょうか。
それとも。
……それとも、なにか良美姉さんが手書きできなかった理由があったのでしょうか。
あの夜、私が見たのは、ほんとうにバケツに隠れていた、生きている良美姉さんだったのでしょうか。
もう、この年寄りには分かりません。
あの日の夜の私が本当で、今のこの私の方が夢なのかもしれません。
そんなことを、思ったりもするのでございます。
<了>
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