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岸田奈美

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#エッセイ

「お母さんが先月、病気で亡くなりました。一緒に死にたいです」と打ち明けてくれた

「お母さんが先月、病気で亡くなりました。一緒に死にたいです」と打ち明けてくれた

とある高校で、講演をした時のことです。

終わった後、一人の学生さんが話しかけてくれました。

「お母さんが先月、病気で亡くなりました。悲しくて、一緒に死にたいとまで思っています。でも、皆が心配するから、人前では泣けません。この悲しみはいつか亡くなるのでしょうか?」

今日、初めて会ったばかりの私に、打ち合けてくれました。

どれほどの勇気が必要だったことでしょうか。

夫を病気で亡くした私の話を

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頼りの娘から「死んでもいいよ」と言われた日

頼りの娘から「死んでもいいよ」と言われた日

岸田ひろ実と申します。

車いすに乗って暮らしています。

もしかしたら「あ、かわいそうだな」「大変そうだな」「何かしてあげないといけないかな」と、そんなふうに思われた人もいるかもしれません。

11年前まで、私は普通に歩いていました。

歩いていたときの私も、きっとそういうふうに思っていたと思います。
「かわいそうだな」とか、「不幸せそうだな」とか、マイナスのイメージがありました。

でも私は、

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忘れるという才能

忘れるという才能

風が吹けば、どうなるか。
桶屋が儲かる。

ご存知の通り、桶屋が儲かるのである。

すごい。
一見して意味がわからんのに、皆わかってんのが、すごい。

ところで「風が吹けば桶屋が儲かる」は、
十返舎一九が書いた東海道中膝栗毛という作品で書かれた話だ。

いいよね。十返舎一九。
一度は口に出して言いたい名前No.1だよね。

東海道中膝栗毛は作り話だけど。
元になった実話もあるとか、ないとか。
あえ

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絵の教習を受けたら、コアラとトナカイが生まれた

絵の教習を受けたら、コアラとトナカイが生まれた

ここまでの話は、事実上の前編をご覧ください。

※前回に引き続き、念のために書き残しておきますが、ワコムさんからはお金や金銀パールのたぐいは一切いただいておらず、あるのはマジで「社員さんから全力で応援された」という事実だけです。笑ったので、写真撮ってもらって私が勝手に書きました。

イラストの描き方を教えてくれるということで、ワコムの東京オフィスに行きました。

教えてくれなくて……いいんだけど…

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横着で二科展に入選したら、絵を描かなくなった

横着で二科展に入選したら、絵を描かなくなった

「いや、お前ゴリゴリに描いとるやんけ」と思うよね。

ごめんなさい。描きました。
オチから言うと、描き始めました。

落ち着いて。
古畑任三郎の脚本を踏襲した構成だから、今回は。

なんでこれまで描いてなかったかっつーと、ね。

私の濁り汚れきった、心のせい。
昔は澄みきってた。
なんなら、シジミくらい獲れてた。
土日は家族で潮干狩り。

でも、幼稚園に上がった頃には、もう濁ってた。
「ゴジラVS

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前澤友作さんに会ったら、来週も会うことになった|書かせて!前澤さーん

前澤友作さんに会ったら、来週も会うことになった|書かせて!前澤さーん

小さな頃から、スケールがでっけぇものに、ただならぬ興味がある。

興味っつーか、もはや、恐れがある。
東京ドーム。富士山。シロナガスクジラ。コストコのピザ。

今、この瞬間。
私の目の前に座っていた前澤友作さんも。
脳内の同じカテゴリに、ぶち込まれた。

私が友人から借りパクしたシティーハンターのDVDを返すか返さないか迷い続けていた2年の間に、123億円でバスキアの絵を落札し、月へ行くことを決め

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【続】一時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが戻ってきた

【続】一時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが戻ってきた

出頭命令が届いた。
ブラデリスニューヨーク(下着の店)からだ。

今日までの、私とブラジャーの顛末は、こちらをご覧あれ。

というわけで、私、もっぱら乳を育んでおりまして。
もはや、育むっつー言葉すら、生ぬるいわけで。

なんだろうな。

固めてる、かな。

感覚的には、土木建築。

更地に、城を建ててんのよ。
周りの人たちには、悟られずに。
こっそりと。

なんつーか、もう、奇策の域っつーか。

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家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

私が住んでいる東京という大都会に、母と弟が来た。
ひろ実と良太が来たとも言う。

母からのリークによると、新幹線の中で、弟は何度も「奈美ちゃんは?奈美ちゃんは?」と、母に聞いていたそうだ。

なるほど、なるほど。
それはそれは猛烈な歓迎を受けるに違いないと、相応の準備をしていたら。

弟に真顔で「よう」と言われた。
ちょっとちょっと。話が違うじゃないか。

弟心は、秋の空ほど移り変わる。

さて、

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奈美にできることはまだあるかい?〜赤べこ姉弟は滋賀に来た〜

奈美にできることはまだあるかい?〜赤べこ姉弟は滋賀に来た〜

どうも、岸田奈美です。
以前書いた、この記事で、赤べこになった姉べこです。

まさか、あんなに多くの人に読んでもらえると、思わなくて。
noteのサポート(投げ銭)まで、いただいてしまって。

なんかもう、ここんとこ岸田家、盆と正月が一緒に来たような大騒ぎ。

実家に帰ったら、父の仏壇にいつも供えられてる、ぼんち株式会社のぼんちあげ(155円)が、播磨屋本店の朝日あげ(500円)になってた。

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車いすの母とミャンマーに行ったら、異国の王様だと思われた

車いすの母とミャンマーに行ったら、異国の王様だと思われた

2016年11月。
土埃と魚醤の匂いがするミャンマーの市場で。
私は立ち尽くしていた。

車いすに乗る母の背後には、何人ものちびっ子托鉢僧たちが、連なっていた。
逃げようとすれば、ついてきて。
そしていつの間にか、増えていて。

君たちは、あれか。ピクミンか。

母・ひろ実は困り果てた顔で「どうしよう」と、私に助けを求めた。
私は、見て見ぬフリをした。

私という人間は、理解できない状況に遭遇した

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先見の明を持ちすぎる父がくれた、移民ファービーとボンダイブルーiMac

先見の明を持ちすぎる父がくれた、移民ファービーとボンダイブルーiMac

先見の明を持つ人って言うと。
うん。
織田信長だよね。

なんてったって、火縄銃を大量導入してっから。
戦国大名が「無理やがな」って匙投げてんのに、モリモリ導入してっから。
騎馬隊、木っ端微塵にしてっから。

でもね。
先見の明を持ってたのは、信長だけではねえのよ。

そう。

私の父、浩二。

岸田家の信長と言っても、過言ではない。

信長は兵に、火縄銃を与えた。
父は私に、火縄銃に匹敵するブツ

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動かないよ!プリウス!〜免許の試験が1分で終わった〜

動かないよ!プリウス!〜免許の試験が1分で終わった〜

運転免許がほしいんです。
海の見える一本道を走りたいんです。
時代はモータードライブだから。
急がなきゃ出遅れちゃうから。

こういう特訓を踏まえた上で。
ついにやってきました。

仮免許 運転技能試験!
イン・ザ・運転免許試験場!(Yeah!)
(※仮免許を交付できない教習所のため)

平日しかやってないから、有給休暇いただいて。
朝6時起きで。
用紙記入に30分並んで、支払いに30分並んで。

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弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった

弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった

高校から帰ったら、母が大騒ぎしていた。
なんだなんだ、一体どうした。

「良太が万引きしたかも」

良太とは、私の3歳下の弟だ。

生まれつき、ダウン症という病気で、知的障害がある。
大人になった今も、良太の知能レベルは2歳児と同じだ。

ヒトの細胞の染色体が一本多いと、ダウン症になるらしい。
一本得してるはずなのに、不思議ね。

「良太が万引き?あるわけないやろ」

ヒヤリハットを、そういう帽子

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白馬の王子様に、お茶を淹れてあげる才能がまるで無い

白馬の王子様に、お茶を淹れてあげる才能がまるで無い

仮免許の学科試験に受かりました。
いやあ。順調、順調。
もうね、知ってるようで、知らないことばっか。
道路交通法って。

大人になった今、学べて良かった。本当。
なにが一番良かったかって。

白馬の王子様は軽車両扱いになる……ってことかな。

王子様、車道の左側を時速30kmで走る義務があった。

そりゃ、私のもとに来ねえわけだわ。

私の実家から出発したとして、ぶっ通しで16時間かかるし。
軽車

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