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コトバでシニカルドライブ

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頭の中でたまーに構成する言葉とコトバ。 その組み合わせは、案外おもしろいとボクは思う。誰に向けるでもなく、自分の中にあるスクラップをつなげてリユース。エッセイや小さな物語を綴りま…
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#日記

[ちょっとしたエッセイ] カーブを曲がると見えてくる光とか

[ちょっとしたエッセイ] カーブを曲がると見えてくる光とか

 朝の人通りの多い道を、逆方向に歩く。凍てつく空気を吸い込むと、ようやく冬らしい冬がやってきたなと1月も8日を過ぎて思わされる。自転車に乗れば手袋が必須になり、カイロの重要性も日に日に増してきた。澄み切った青空を見ながら歩みを進めると、少しずつまわりの音が止んでいくのがわかる。都電線の線路を渡ると見えてくる枯れ木の姿。そして、さらに寒々とした空気が首元を冷やす。
 
 細いアスファルトの道を行くと

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[ちょっとした物語] トルソーの誘いと春の風

[ちょっとした物語] トルソーの誘いと春の風

ある春の日の午後だった。
部活がはやくに終わり、僕は着替えて教室を出た。
あたたかな風が廊下を吹き抜ける。その誘いに足は運ばれる。

さらさらとなびくカーテンは、人の気配を薄くしていく。風にさらわれたカーテンの裏側に現れた人影。
僕はドキッとする。
でも微塵も動かない、その影は半身をこちらに向けて佇んでいる。

風に乗った葉の香り。近づくにつれて、乾きがなびいて、髪の毛を揺らす。手をその肩に置くと

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[ちょっとした物語] 記憶をくすぐる檸檬の香り

[ちょっとした物語] 記憶をくすぐる檸檬の香り

ちょっと声をかけた、秋の午後。
君は照れ臭そうにボクの誘いに応えてくれた。その時の表情、その時の鼓動は、どことなく今でも心をくすぐる。

新高円寺の駅から青梅街道を渡る歩道橋。東には環七を望み、西の方には夕日が沈む。僕たちはいつもこの歩道橋の上に立つ。
薄暮の青梅街道は、いつもより車の数が少なかった。

「あ、月だ」
あちらに見える月の影に隠れた空の色。
こんな会話はどこか変だった。まもなく迎える

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[ちょっとした物語] 霜の降りる朝と

[ちょっとした物語] 霜の降りる朝と

 吹き荒ぶ風の音に目が覚める。

 布団の触りと留まったほのかな温かさが体を動かしてくれない。しかし微かに聞こえるお湯の沸く音。まもなく生活の針が動き出す頃だ。
 窓から見える空の色は、澄んでいて、冬の日のそれを一身に表していた。

 ふと目を閉じてみると、季節の環が駆け巡る。春の、夏の、秋の、それぞれの時は都合よく目の前に現れては消えてゆく。
 一瞬の光は、常に重なり合って、また季節は折り重なる

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[ちょっとした物語]バターの香り

[ちょっとした物語]バターの香り

 まだ昼前だというのに、腹が減ってきた。そんな時にキッチンを見回すと、たぶんあの人の残したパンケーキミックスを見つけた。
 ああ、なんとも甘美な誘惑だろう。すぐさま、冷蔵庫の扉を開く。この黒い冷蔵庫の正反対にあるような牛乳を見つける。まだ半分はあるだろう。その揺れる体積を腕に感じながら取り出して、卵をひとつもう片方の手に取り、キッチンへ戻る。
 ボウルにすぐさま、少しきしむような膨らみのある袋から

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[ちょっとした物語]夜はこうして過ぎてゆく

[ちょっとした物語]夜はこうして過ぎてゆく

 深夜1時。
 さて寝ようかという時間は、その意思とは裏腹に布団に入ることをなにかが拒否をする。
 ムダにスマホを眺めたり、SNSを開いて意味もなくタイムラインをのぞいてしまう。
 ほら、ひとスクロールすると、誰かがこの夜に向かって叫んでいる。僕は、その声をじっくり読んで、いいねを押す。何がいいんだか。そんなことを思いながら、この世界に残された唯一の意思表示を残す。

 誰のせいでもない。
 そん

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[ちょっとした物語]深夜4時。夜と朝の狭間で。

[ちょっとした物語]深夜4時。夜と朝の狭間で。

「いらっしゃいませ」

 このあいさつは、これまでいろいろな人に褒められた。唯一褒められたことと言ってもいい。こんな街の片隅の、大手チェーンでもない、しがないコンビニの店員に誰がなにを褒めてくれよう。そんな中で、褒められるということ自体が稀有で、誇らしいことではないか。そういつも自分に言い聞かせている。
 耳にイヤホンをはめていようが、なんの反応もしなかろうが、面倒な目で見てこようが、この建物の入

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[ちょっとした物語]行く当てのない言葉

[ちょっとした物語]行く当てのない言葉

「元気ですか?」

 何を思ったのか、僕はスマホのアドレス帳から、あの人にメッセージを送った。
 いつだって追いかけるだけの人生だ。
 僕が織りなす言葉なんて、あらゆる武装に他ならない。それが小さなほころびに食いこむことを願って。

 テーブルに置いたスマホを頬杖ついて眺める。グラスに注いだ冷たいコーヒーは、氷の音とともに揺らめいている。
 返事が来ることなんてたぶんないだろうと踏んでいた。でもや

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[ちょっとした物語]五月の涙を僕は忘れない

[ちょっとした物語]五月の涙を僕は忘れない

 うだる暑さの前触れは、いつだって街に出たくなる。
 夕立が降り終わった後の黒いアスファルトの匂い、僕はとても好きだった。

 冷たい飲み物は好きじゃないはずなのに、夏だからってキンキンに冷えたグラスのビールを無理に飲んでみたり。海は好きじゃないって言っていたのに、真夏の時には「海に行ってみたい」と駄々をこねたり。ひまわりの咲く草原で、麦わら帽子をかぶって、水玉模様のワンピースを着るのが夢なんだっ

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[ちょっとした物語]明け方にめざめる君について

[ちょっとした物語]明け方にめざめる君について

パッと目が開いた。
とてもすばやく、境目のないくらいに。
自分が寝ていたことすら意識していないくらい自然に、目の前に情景が広がった。

「あ」

一瞬、間が開いた。

今何時だ?

時計に目をやると、午前4時を指していた。
テレビは煌々と、誰も見ていないとは知らずに昨晩起きた事件についてごていねいに知らせている。
天井のあかりは点いたまま。

そうだ、昨晩のテレビを見ながら寝てしまったのだ。
これ

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[ちょっとした物語]雨

[ちょっとした物語]雨

 僕らは雨が降ると、いつも家で過ごすようにしていた。

ポツポツ
ザーザー

 どんな雨でも同じだった。
 ほんの薄暗い日中は、よく最近見たドラマや読んだ本、聴いた音楽の話をした。
 でもふと、ふたりの会話に、窓から漏れる雨音が差し込むと、僕らは会話を止めて降り続く雨の音を聴いた。
 それはまるで、ショーウィンドウに飾られたマネキンのように、降る雨をひたすら同じ顔つきで、同じ姿勢で、やりすごすよう

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