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記事一覧

【読書】伊坂幸太郎 ■死神の精度 ■死神の浮力

【読書】伊坂幸太郎 ■死神の精度 ■死神の浮力

精度の方が短編集で浮力の方が長編。私は浮力の方が好き。
死神という職種の人が主人公。死神というのは,その人が寿命とか病気で死ぬ以外の,事故死的なモノを管理している人たちで,事務所から「あの人は殺してよいかどうか見てこい」と指令があったら,その人と接触してその実態を見て,良いか悪いかを報告する…という仕事で(笑),基本ほとんどがOKの返事をするらしい。そして死神はその人が死ぬところを見届けるまでがお

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【読書】虚夢

統合失調症という病気は、昔は精神分裂症と呼ばれていた。
この小説には、この病気の人がいっぱい出て来るのだが、別にいつもおかしい訳ではないので、

ストーリーは、その統合失調症の男に自分の可愛い娘を殺され、自分も大怪我をさせられた母親と、駆けつけた時にはすでに娘は死んで奥さんは救急車で病院に…という旦那が中心で進んでいく。
結局その犯人は、刑法第39条1項「心神喪失者の行為は、罰しない。」という事で

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【読書】その鏡は嘘をつく 薬丸岳

【読書】その鏡は嘘をつく 薬丸岳

ある男性医者が首を吊って自殺。その医者はちょっと前に痴漢で警察に捕まったが、証拠不十分で起訴されずに釈放されたばかりだった。痴漢をした事てを悔やんでの自殺なのか、冤罪に対する憤りの自殺なのかは判明しないまま、片付けられようとしていたが、主人公の検察官が「これは自殺ではない気がする」と言い出して、再度調査をする。

そもそもその医者は奥さんに内緒の部屋を借りていて,そこで自殺していた。その部屋は何の

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【読書】リバー 奥田英朗

【読書】リバー 奥田英朗

大好きな奥田英朗さんの本が出たと新聞で見たので,図書館で予約して取りに行ったら,あまりの分厚さに圧倒されました。
栃木と群馬にまたがる連続殺人事件…と聞いたら,「足利事件」が頭に浮かびます。捕まえた犯人は冤罪で,犯人はまだ捕まっていない事件なのだが,「真犯人はそこにいる」という清水清さんが書いた本で,真犯人に触れられている。もしかしたら奥田さんはこの事件を小説にしたのか…と思って読んでました。(結

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【読書】溶ける

【読書】溶ける

何年か前にニュースになり実際に執行猶予がつかずに収監された大王製紙の社長の書いた本。
カジノにはまって会社の金を湯水のようにつぎ込んで…と思っていたら,すべて私財で返し終わっているとの事で,世間を賑わせただけだったのか…。そんなのでも実刑食らうんですね。見せしめみたいなものなのだろうか。(しかも100億以上を返すって,どれだけ金持ちなのか)(そう思うと,会社の金ではなく自分の金でやればよかったので

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【読書】余命十年

【読書】余命十年

フィクションなんだが,とてもいい話で,読みながら何度も涙を流す感じ。
こんな話は,最後は何とかハッピーエンドになって欲しいと願いながら読むのだが,どんどん悪い方に進んでいき,しかも主人公が自ら進んで自らの意思でそっちに持って行く流れなので,何とも言いようがない。ただ実際に自分がそのような状態になった場合は,どのような道を選ぶかと考えると,なってからしか考えられないという結論。絶対に10年で死にます

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【読書】凶犯 張平

【読書】凶犯 張平

多分「打ちのめされるほど凄い本」で紹介してあったので買ったけど,知らなければ絶対に読まない本だろう。
中国の実態をよく表している本だと書かれている。
ストーリーは,中国の軍人がベトナム戦争で功績を挙げたが,足を一本無くして義足で帰って来る。褒章的に,国有地の森の管理のような仕事につくのだが,その森が地元のやくざ的家族に牛耳られており,勝手に入り込んで伐採してどんどんお金に変わっている。それを阻止し

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【読書】ウクライナにいたら戦争が始まった  松岡圭祐

【読書】ウクライナにいたら戦争が始まった  松岡圭祐

松岡さんは「睡眠」とか「千里眼」というのをずいぶん昔読んだ事がある。その作家がたまたまウクライナに行ったら戦争が始まった…というノンフィクションのルポなのかと思ったら,完全な小説だった(笑)。

女の子二人のと夫婦の4人家族。旦那は電力会社の広報みたいな仕事をしていて,長期でチェルノブイリの事故の記録を展示してある記念館のようなところで,福島原発の事故の写真展みたいな仕事をしていた。(チェルノブイ

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【読書】水俣病闘争史

【読書】水俣病闘争史

【読書】水俣病闘争史

今まで読んだ水俣病関連の本で,一番スッキリまとめられていると思います。
入門編として読んでも面白いし,ある程度知識ある人が読むととても頭の中がすっきりします します。
私は熊本大学で この本にも出て来る社会学の丸山定己先生の下で学んでいたので,水俣病にあふれる機会は山ほどあった。多分普通の人よりも詳しいとは思うのだが,この本読んで初めて知った事も多数。

水俣地域に奇病が発

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【読書】逆転のアリバイ 香納 諒一

【読書】逆転のアリバイ 香納 諒一

初めての作者。シリーズものらしい。
刑事コロンボみたいに,最初に犯行(妻と情夫を殺す)が描かれ,完全犯罪的にアリバイも完璧で,妻を殺された悲劇の夫を演じていたが,主人公の女刑事にアリバイを覆され,結局捕まってしまうという話。

犯人の奥さんは有名な宝石の専門家。テレビなどにもいっぱい出演中。ただ旦那の方は地味で奥さんの仕事の手伝いなどをしている感じで,奥さんはどんどん浮気をしてしまう。その浮気相手

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【読書】嫌われ者の矜持 新堂 冬樹

【読書】嫌われ者の矜持 新堂 冬樹

黒新堂の作品なのだが,昔の新堂さんを思ったら,ずいぶん平凡というか普通の小説になりました。
筋は,芸能記事のスクープで大物俳優をどん底に落とした新聞記者が,自殺。実際にはその俳優の事務所の社長か裏の世界にも顔の効く悪人で,怒って始末したらしい。

その記者の息子は,文春みたいな週刊誌を作っている出版社の社員で父親の復讐をしようと,その事務所の社長を社会的に葬るネタを探し続け,ついにつかむ。ところが

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【読書】未必のマクベス

【読書】未必のマクベス

早瀬 耕

朝日新聞の書評での紹介があまりにもすばらしく、普段はこんな本買わないのだが(笑)←ハヤカワ文庫、思わず買ってしまいました。
一言で言うと、私はこのタイプはダメ。でも面白いことは面白い。究極の恋愛小説的に読めば感動するのかもしれない。

とにかく人が簡単に死にすぎるし殺しすぎる。その部分が全くリアリティが感じられないし共感もできず、なんか宇宙人が出てくるSFみたいな感じになってしまう。あ

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【読書】同志女性よ敵を撃て

【読書】同志女性よ敵を撃て

先日の「戦争は女性の顔をしていない」に続けて読んだので,グッと理解が深まりました。この本は,「戦争は女性の顔をしていない」を小説にしたようなものです。だから「戦争は女性の顔をしていない」は,読んでてお腹いっぱいになりますが,こっちは一気に読んでしまいます。そして最後は戦争・女性という事を超えて,思いもしなかった展開でエピローグを迎えます…。

第二次世界大戦末期のドイツとロシアの戦いの話。ロシアの

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【読書】戦争は女の顔をしていない

【読書】戦争は女の顔をしていない

第二次世界大戦のロシアとドイツ(ヒトラー)の戦いに参加した,「女性兵士」の証言を聞きまわって本にした。日本で言えば「きけ わだつみのこえ」が有名であるが,あれは多分全員男性の証言であろう。この本は全員が女性。しかも看護婦とかまかない的な後方支援で戦争に言ったのではなく,兵士として参加していた人たちの証言だから,読んでて「もう勘弁してください…」という感じになる。お腹いっぱいという感じ。

しかしあ

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