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【読書】水俣病闘争史


【読書】水俣病闘争史

今まで読んだ水俣病関連の本で,一番スッキリまとめられていると思います。
入門編として読んでも面白いし,ある程度知識ある人が読むととても頭の中がすっきりします します。
私は熊本大学で この本にも出て来る社会学の丸山定己先生の下で学んでいたので,水俣病にあふれる機会は山ほどあった。多分普通の人よりも詳しいとは思うのだが,この本読んで初めて知った事も多数。

水俣地域に奇病が発生。どうもチッソが海に廃棄している排水に含まれる水銀が原因ではないか…とうわさが広がる。チッソは自社で猫に実験し,間違いなく自分の所に問題があるとつかんでいたにもかかわらず,最初のうちは「病気との因果関係がわからない。原因を追究するのが先である」みたいな話で無視を決め込む。国もチッソの持つ技術や製品が止まるとまずいとわかっているので,厳しく取り締まろうともしない。しかしいくら何でもそれが通るはずもなく,チッソが原因とはっきり国が認めたのが1973年。最終的に最高裁で国とチッソの罪が確定したのがなんと2004年…。なんじゃこりゃ。

患者さんにしてみれば,保証金をいくらもらおうが健康な体は帰ってこない。しかもその障害が人間としての尊厳を問われるようなレベルの人も多く,やってられないと思う。文中に,「チッソが関係ないというなら,その排水を飲んでみろ」と迫るシーンや「補償金であんたの子供を買う。そして排水を飲ませて水俣病にしてやる。その子の面倒を見ろ」とか迫るシーンもある。私だって立場変わればそれくらいすると思う。チッソの人間はいったい何を思って対応していたのだろう。

チッソの人間だけでない。市民も何とか握りつぶそうというか,表面化させないようにしたり,患者を差別したり,とにかくひどい。チッソの城下町であるがために,チッソが倒産するとか水俣から出ていくとなったら,自分達の生活が成り立たなくなる。2万の市民のためなら何千人かの患者は我慢しろ!!みたいな雰囲気。たまったもんじゃない。

さらに患者同士も色々ゴタゴタが。チッソの提示する条件で良いからとにかくお金をもらわないと明日が見えないみたいなグループ,裁判起こして戦いますみたいなグループとか5-6の団体があった様子。これも悲しすぎる。しかも今回初めて分かったのだが,共産党が自分たちの存在を世に示したいだけのために作ったグループもあるとの事で,それが他のグループの交渉悪い方に持って行ったとか,もう無茶苦茶。

ユージン・スミス,石牟礼道子,渡辺京二に近い立場の人が書いたようで,その部分が詳しく掘り下げられている。まるで自分もそこにいて一緒に戦っているような感じで読み進める事が出来る。

戦争は国と国との争いだが ,公害は被害者は個人で,相手は国と企業の連合体,それに世間も加わる。こんな事は二度と繰り返してはならないというのは戦争と同じであるが, 公害の方がたちが悪い気がする。しかも今もこの構図は崩れていない。沖縄の問題然り。

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