見出し画像

【読書感想文】太宰治「桜桃」

こんばんは!
やっぱり小説は短編が好き!いやでも、長編も好き!小栗義樹です!

さぁ今日は、恒例になりつつある企画【読書感想文】です!

先週投稿した梶井基次郎の「檸檬」も、多くの方からスキや興味深いコメントを頂くことが出来ました!

ありがとうございます!

本日は、とうとうやってきました。

太宰治です。


そろそろ国外作家の作品をやろうかなぁと思っていたのですが、国外へ出る前にやっておかないといけない作家がいましたよ。それが、太宰治なのではないかなと思っています。

代表作「人間失格」は、今なお日本で一番売れている小説です。たしか、夏目漱石の「こころ」とずっと1位を争っていた気がします。色々な意味・見方として、小説家を目指す人が避けては通れない作家と言っても過言ではないでしょう。

太宰治好きを公言している方、とても多いですよね。その評価は著しく高いです。人間失格は、未だに沢山の考察がなされていますし、毎回映画化されています。

僕、人間失格は若干苦手なんですよね(笑)
と言いながら8回くらい読み返していますけど。毎回、何かしらのダメージを負います(笑) あのパワーはなんなんでしょうね、なんかこう、よく分からないものに縋りたくなるが、縋れるものが無い事に気づいて急激におびえる感じ。不思議な作品です。現代で言う、鬱系作品とも違う重みを覚えます。

今日は、そんな太宰治の作品で読書感想文を書こうと思うのですが、色々語っておいて「人間失格」ではありません。人間失格は、いずれどこかでやります。避けては通れませんからね。

今回は「桜桃」です。

太宰治の遺した、最後の短編小説と言われています。

そうなんです。短編としては「桜桃」が最後らしいんです。太宰1発目の感想文ですから、題材はすごく悩みました。ぐるっと巡ってみて「逆行」とか「富嶽百景」あたりもありかなって思ったのですが、最終的に桜桃にしました。理由は、晩年の翳のある太宰作品の中で一番印象に残っているからです。勝手なイメージかもしれないですが、世の中に出回っている太宰治のイメージって、翳のある暗い作品を書く作家ではないでしょうか?

親友交歓なんかに見られるユーモアたっぷりな話づくりは、あんまり話題にされませんよね? 僕が見落としているだけなのかもしれませんけど、「走れメロス」なんかも、かなり自分勝手なのに良い教材として紹介されているくらいですから。

桜桃は、イメージの中の太宰ど真ん中という感じがします。かなりやられる作品なのですが、短編だからこそ丁度良いダメージで済みますしね(笑)

短編の面白いところは、長編よりも作家の思想がダイレクトに反映されるところだと思います。短いがゆえに、思ったことや感じたことがストレートに映し出されるのです。長編にもそういう作品はありますけど、長編はどうしてもお話に目が行きがちで、作家の思想が念頭に置かれにくい気がするのです。

桜桃は、輪廻に囚われている太宰の苦悩がにじみ出ていると思います。だからこそ、ここで紹介したいと思いました。

桜桃というお話には、遊んでばかりいるダメな夫と妻と3人の子どもが出てきます。桜桃とはさくらんぼのことです。このダメ夫が、家庭を顧みずにとにかく飲み歩きます。で、子どもには食べさせたことのない桜桃を、酒場で1人喰らうのです。子どもよりも親が大事という言葉を執拗に繰り返しながら。

ざっくり言うとそんな感じです。この辺りは実際に読んでみてください。ネットで調べれば考察も沢山出てきます。

この文だけを読むと、なんて自分勝手な男の話だろうと思うかもしれないんですけど、これね、不思議なんですが泣けるんです。会話描写が重要なので省いています。本当に読んでほしいからです。

妻と夫の少しだけコミカルなやり取りを読むと、その落差で、夫の姿が惨めで可哀想に思えてくるんです。「なんでそんなに不器用なんだい。ちょっと行動すれば、お前は立派な父親なのに」って思えてきて、とんでもなくやるせないんです。

僕、桜桃を読むとしばらくの間、さくらんぼを食べたくなくなるんですよね。あの最初に味わう酸味っぽい感じと、そのあとやってくる甘みが全部、桜桃を思い出して苦くなるんですよ。

この夫は気遣いが行き過ぎて、ねじ曲がってしまっているように思うんです。それに加えて困るのが、奥さんはかなり常識人で、旦那の事をよく分かっているものですから、時折旦那に、物凄く芯を喰った、気まずい一撃を与えることが出来てしまうんです。なんてリアルな家庭環境なんだろうって思います。終戦直後の話とは思えないくらい、現代の家庭でも平気で生まれる「ならでは」の歪なのではないでしょうか?

桜桃という作品は、「子どもより親が大事、と思いたい」という一文から始まるんですけど、と思いたいという事は思ってないって事だと言えます。最初の文から、読者に1回考えさせるんです。この書き方には脱帽しました。なんて完璧な入りなんだろうと思いました。これ、常識とか多勢倫理観を訴えるうえで一番確実な方法だと思うんです。大きな価値観として考えれば当たり前のことを言っているだけなんですけど、この一文に含まれた意味があまりにも多すぎて、ここだけ読んで天才だと思わざるをえませんでした。

晩年の太宰の作品のすさまじさは、語り手が太宰なのではないか?と信じられないくらい痛烈に思わされるところにあると思います。もちろんこれ、色々な作家がそう思わせる作品を残していると思うんですけど、太宰はとにかくその毛が強いと思います。桜桃も、恐らく太宰の実話なの?って思うんですけど、多分違うのでしょうね。この異常な没入感が太宰の魅力なのだと思います。

桜桃に限らず太宰の文章は、徹底的に読みやすいです。読むだけでよければ15分で読めます。現代の人間が書いたと言ってもバレないでしょうね。いや逆に、現代人の中でも言葉遣いが美しい、言葉の専門家が書いたと錯覚させるくらいでしょう。

考察しようと思えばいくらでも出来る作品だと思いますが、感想文には不要かなと思うので止めておきます。

痛みは、伴う事になるでしょう。でも、読んでみてほしいです。気づいたら食い入るように読み込んでいて、読みながら胸が熱くなって、読み終えたら急激に乾いていく。そんな感情の変化を体験できる作品だと思います。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?