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散文

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#夏

散文 トンボの群衆

散文 トンボの群衆

僕は雨に打たれてる。
傘を持たずに、1人歩く。ザーザーと降っていた雨が緩やかになって、途絶えたその後のポツポツと体のバリアの外に弾かれるぐらいの雨粒に気持ちよさを感じたのだった。

雨が降り出した時のプールを思い出した。水の中に入っていれば、雨は冷たくもない。もっと入っていたかった。外に出たら寒くなってしまう。ぬるい雨に纏われるのが嫌で、僕は限界まで潜っていた。それでも、スピーカーからはプールから

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写真詩『尽きた命の音』

写真詩『尽きた命の音』



尽きた命の音がした
カシャっと乾いた音
死んだ命を踏んだこの足に罪はある

【写真詩集『はみ出す青』のボツ作】
掲載するつもりで作ったけど、微妙だ!と思ったのでこちらで供養です。好きだけど!!ちょっと単語が無意味に繰り返されてる感じがします。純度が低い……

そしてこれもsampleで兄が作ってくれた表紙案です。
これもとても素敵ですが、ちょっと水色過ぎるかなと!思って!リテイク出したらより良

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詩『僕の街は命色』

詩『僕の街は命色』



流れる街は、夏終わり
感じた思いももう終わる
叶うはずだった願いは、遠い過去

夏ってそういうものだよと
あの子は言った
人は何かを諦めて新しい季節に順応する
雲も空気も何もかも
昨日までとは違うものを抱きしめる

こことあそこはもう違う
君と僕ももう違う
愛するものはみな同じ

あの空がこの空気が
変わったことに気付いたら
僕に教えてくれないか
きっとそのときあなたの中で息衝くから

詩『はみ出す青』

詩『はみ出す青』



もう終わるらしい夏休みの
空を見ることなく
部屋の中
ひとりぼっちで吸う息に
とくとくと輝いた愛のなさ
めぐる命の空き箱は
何かを思わすことも無い
さおさおさお
竹の音がどこからか聞こえるの
さおさおさお
また聞こえる
それは猫の悲鳴をかき消すために

マスクから開放され
入ってくるのは青の音
侵食していくその色は
まぶたの裏に焼き付いた

詩『午睡の空』

詩『午睡の空』



午睡の夢の色をしていた
その空を僕は目をつぶって感じてる
吸った息に含まれた
純粋な色彩は
僕の体内全部を染め上げた

色の着いた空気は
ちるちると音を立てる
宇宙を感じるその色を
きっと火星人も見ているに違いない

僕の世界は
ピンクとも撫子色とも石竹色とも
言いたくない色で満たされた

命よ君よ、僕をありがとう

散文 夏色に乞う

散文 夏色に乞う

進行方向に向かって座ったまま何キロで進んでいるかも分からないで、目的地に行こうとする。そんな私と同じようにスマホをいじるだけの乗客もみな、いつの間にか半袖に衣替えをしていた。

世界には黒と白しかないのかと思うぐらい彼らの服装は無彩色であった。色があるのは私だけなのか。多数に流される方がきっと楽だ。でも、私は色が好きだ。夏の毒々しいほどの名前の知らない赤い花とか、遊びに行くからと玄関に投げ捨てられ

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散文 夏を撒く

散文 夏を撒く

私は今、蚊に刺されている。左の肘に少しの痛みを感じたから目をやると細い足と胴、そして翅がそのサイズよりも存在感を表していた。すぐに腕を動かすと消えた。ぎりぎり噛まれていなかったのだろう。だけど、先の痛みを意識してしまって、痒くなってきた気がする。気の所為かもしれないけど、痒い気がする。こそばゆくて、痛い。

私はきっと思い込んでいるだけ。痛みを作り出しているだけでしかないんだろう。今もずっとジーっ

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散文 暑さを縫う

散文 暑さを縫う

何を思っている訳でもないのだけど、私はそっと街を眺めていた。夏の涼しさを感じながら、自転車で駆け巡る。髪が風に吹かれて、私は一人声を出して笑ってみた。

ハハハ、なんだか愉快な気持ちになってきた。

空の青さはどこまでも優しくて、命が沸き立つのが分かる。雲はきっと滑らかだ。生きてるって実感するのは何故なのだろう。夏が来るまではどこかぼやけたような気持ちがしていたということか。夏生まれの私は全身が水

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