マガジンのカバー画像

書評

148
運営しているクリエイター

#政治

堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第三部:激流』早川書房

政治と報道をめぐる三部作の最終部。新しい世代は古来の因縁をどのようにして乗り越えていくのか、鮮やかに描き出していく。舞台が現代となり、政治と女性とか、絶対的な信念の揺らぎとか、そういったものが題材になっているのがもっともらしい。

最後に、表題の「小さき王たち」について。小さな選挙区からその土地の理屈で選びだされる日本の政治家をよく表した言葉だと思い本書を手に取った。期待するほど選挙制度に対する批

もっとみる

堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第二部:泥流』早川書房

早熟の少し浮かれた様相だった日本社会の雰囲気をよく表した描写のなかで、第一部に続いて政治と報道の関係をモチーフに物語は進む。少し創作味が濃いが、断っても断ち切れない人間関係の存在を読者に伝えるには分かりやすい描写でもある。

今作でもパートナーの存在の大きさが際立つ。仕事の展開と並行して、主人公たちのプライベートも進行していく。どんな人間にも公私の両面がある。そんな当たり前の現実が微笑ましくもあり

もっとみる

堂場瞬一(2022)『小さき王たち 第一部:濁流』早川書房

田中角栄を彷彿とさせるある政治家と新聞記者の戦いを描く政治小説。選挙買収を巡る疑惑が物語の中心だが、その周囲で、世襲の苦楽や若者の人生設計、伴侶の大切さを真実味を持って伝えてきてくれる厚みのある一冊。

臨場感のある描写や展開は娯楽作品として十分すぎるが、日本のこの手のエンタメは必ずと言っていいほど政治家サイドが汚職や買収などに手を染める悪者として描かれる。政治は皆んな悪だという固定観念を再生産し

もっとみる

石原慎太郎(2018)『天才』幻冬舎文庫



天才・田中角栄の生涯を一人称視点で描いた小説。田中角栄という一人の人生があったことを厳然として標し続けてくれるだろう。この際、著者の長逝にも哀悼の意を示したい。

先を読み、例え理解されずとも国民にとって必要な施策を打つことが政治の仕事であり、現代の政治家も大いに勉強しなくてはならない。また、田中氏の人を巻き込む力には感心するばかりである。しっかりと引き継いでいかなくてはと思う。それでも、人生

もっとみる

田村亮(2010)『28歳で政治家になる方法』経済界



参入障壁が異様に高く感じられてしまう政治の世界への入門本として、若者の感じるハードルを下げるには一定の効果がある著作物だと思う。もちろん楽観にすぎる部分はあり、また校正のなっていない部分が多いのは残念である。

執筆から10年がたった今でこそ、N国の立花孝志や戸田市議のスーパークレイジー君など政治の舞台にも革新が起きているが、こうした政治の"民主化"に筆者が貢献したのは間違いないだろう。目立つ

もっとみる

上杉隆(2011)『官邸崩壊:日本政治混迷の謎』幻冬舎文庫



第一次安倍内閣の誕生から瓦解までを、実名の登場人物が織り成す権力闘争を中心に描く「小説みたいな」一冊。日本の報道では執筆記者名とともに匿名化されがちな権力中枢にいる者たちの思惑や判断内容を取材に基づいてしっかりと書き込んでいる。

そもそも署名記事・リソースの明確化が当然の諸外国のジャーナリズムでは恐らく当然のことであろうが、どんな公共機関でも中身は何人かの生臭い人間によって運営されている(し

もっとみる

宇野重規(2018)『未来をはじめる:「人と一緒にいること」の政治学』東京大学出版会



「政治とは、人が誰かと共に生きていくことそのものである」そのことを中高生への講義の中から明確に描き出していく非常にわかりやすい導入書である。自分を失いたくはないし、他人とは一緒に生きていきたい。この矛盾してしまう命題をどう両立させていくか、今なお難題であり私たちが取り組むべき課題なのだ。

本書を手に取ったもう一つの理由としては例の学術会議会員に任命拒否をされた著者であったから。個人的には優秀

もっとみる

御厨貴・渡邉昭夫(1997)『首相官邸の決断:内閣官房副長官 石原信雄の2600日』中央公論社



オーラルヒストリーの試みから生まれた貴重な一冊。普段からベールに包まれている政権中枢の役割や動きについて往時の時代背景も含め詳細に記述している。つまるところ最後は「人」であるという結論も説得力がある。

内閣官房は政府の最も中核にある組織であるにもかかわらず、だからこそ各省に比べてその仕組みや機能がはっきりと定まっていない。さらに最高権力者の隷下にあるだけに最も変化を求められ得る。国の組織とし

もっとみる

早川誠(2014)『代表制という思想』風行社



国民が国会議員を選んで代わりに政治をしてもらう、そうした代表制は国の規模が大きくなってやむなく採用されている制度だという通説を疑うところから始まる。そして、代表制には、代表たちが意思と決定の間に立つ中間集団として判断をし議論をすることによる、結論と国民の双方の成熟をもたらすという積極的意義があると認める本著。

現代で半ば当たり前になってしまい皆が深く考えないような制度は多々存在するのであろう

もっとみる

塩崎恭久(2020)『「真に」子どもにやさしい国をめざして』未来叢書



児童虐待防止のため、児童福祉法の抜本改正を成し遂げた国会議員の物語。政治と行政の関係性の一つの理想的で象徴的な記録として、そして我が国の子ども達のための戦いの参考書として価値の大きい一冊。

「子ども」という、票にも金にもならない政策分野は、俗な活動家や政治家には見向きもされず社会変革の駆動力に欠ける状態が続いてきた。それが児童虐待死事件や少子化を生みだし、我が国社会は危機的状況にある。いま一

もっとみる

マックス・ヴェーバー著=脇圭平訳(1980)『職業としての政治』岩波文庫



政治とは、崇高な理想の実現のために、人の欲望とかそういう低俗なものを手段として使わなければいけないものだよというお話。それに耐えられる現実主義者が政治家としての天職を持つみたい。

彼の言う「政治」は、聖人の為してきたこととは違うものみたい。自己中心的な革命家のやっていたこととも違うみたいだけど。まぁ、くじけぬ気概が大切だということは、切り出せば、みんな同意するだろうね。