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読んだ本についてあれこれ語るマガジン

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#読書

紫式部 「謹訳『源氏物語3』」(1008年頃)

紫式部 「謹訳『源氏物語3』」(1008年頃)

源氏の君の26歳から31歳までを扱う。
この巻では源氏が都落ちして数年間須磨に住むところから、ふたたび都に戻ってきて、以前以上の地位につくところまでを描く。

島流し的なシチュエーションでも源氏はモテて、明石の入道の娘、明石の君に出会う。
なぜ源氏はかくもモテるのか。容姿端麗で頭脳明晰、音楽や絵画の腕前も玄人はだし、ホスピタリティもぬかりなし、ということで今のところ触れられていないのは武術くらい。

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ベルトルト・ブレヒト「三文オペラ」(1928年)

ベルトルト・ブレヒト「三文オペラ」(1928年)

ネットで「ブレヒト」を検索すると「ブレヒト 異化効果」という検索候補が出てくる。「異化効果」は知っているが、「ブレヒトと言えば異化効果」というほどのものだとは知らなかった。

そして、「三文オペラ」にも異化効果が仕込まれているという。
自分は全然わからなかった。このあたりは、知性と教養を身に着けることと、思考力を深めていく過程で、世界に対する解像度をあげていく必要がある。そういうことをやっていると

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紫式部 『謹訳「源氏物語1」』(1008年頃)

紫式部 『謹訳「源氏物語1」』(1008年頃)

リンボウ先生の「謹訳」はとても自然な感じが読みやすくていい。紫式部の原文がどういうものなのか、というのはわからないのだが、まずは全文を通読したい、という人にはいいと思う。

最初のほうは物語の展開がゆるやかで、これが平安時代の時間間隔なのだろうかと思っていたが、夕顔という女性が何者かに呪い殺されるあたりから展開が面白くなる。

1巻は、源氏の誕生(桐壺)から18歳(若紫)まで。
絶世の美男子として

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バルザック「ゴリオ爺さん」(1835年)

バルザック「ゴリオ爺さん」(1835年)

冒頭、風景描写や人物に関する説明が延々と続く。
この調子で最後までいくのではないかと不安になりはじめたころに物語がはじまる。そこからはどんどんストーリーが転がり、最後まで楽しめた。

1815年以降のパリ。
場末の下宿屋ヴォケール館に住む人々の中に、落ちぶれた製麺業者のゴリオ爺さんがいた。実は彼には二人の娘がいる。彼女たちが社交界で生き抜いていくために、ゴリオ爺さんは私財を投げうって支えているのだ

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ハイデガー「存在と時間8」(1927年)

ハイデガー「存在と時間8」(1927年)

ようやく全8巻を読み終えた。
ハイデガーの構想としては第2部まで続く予定だったらしい。
いずれにせよ、ここで一区切りということにはなる。

本書では引き続き時間のことを中心に考察が続く。
訳者の中山元による詳細な解説を頼りに読み進めてきたが、それでも理解できたとは言い難い。ただ、それでも自分の頭であれこれ考える時間を持つというのは大切なことだ。

自分が理解できた(もしくはこうだと思った)範囲で書

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フランク・ハーバート「デューン 砂の惑星」中巻(1965年)

フランク・ハーバート「デューン 砂の惑星」中巻(1965年)

フランク・ハーバート「デューン 砂の惑星」中巻(1965年)

ハルコンネン家の襲撃を受けて、アトレイデス家は壊滅的な打撃を受ける。
ポールとジェシカは戦いを生き延びて砂漠に逃れる。
フレメンと出会い、試練を経て、ふたりは砂漠の民に受け入れられる。
一方、ハルコンネン家には皇帝から調査が入ることになる。

ストーリーの大部分が砂漠や洞窟といった、フレメンの活動エリアで展開される。上巻のような大規模

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ハイデガー「存在と時間 7」(1927年)

ハイデガー「存在と時間 7」(1927年)

時間をメインとした考察が続いている。

用語も含めて難解な部分が多い。それでも自分なりに考えながら読み進めてきた。
哲学に詳しい人や賢い人がどのようなコメントをするかはわからないが、今になってようやくわかりかけてきたのは、本書は人間が本来の姿に気がつくために、今までで常識としてとらえられてきた事柄を事細かに考察し、それが本当なのか主に存在と時間と言う対象について分析し、定義しなおしてきたということ

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テンプル・グランディン「ビジュアル・シンカーの脳: 「絵」で考える人々の世界」(2022年)

テンプル・グランディン「ビジュアル・シンカーの脳: 「絵」で考える人々の世界」(2022年)

これはなかなかおもしろかった。

人は頭の中で考えるときに、文字で考えたり音声で考えたりするが、「ビジュアル・シンカー」は、絵で考える人のこと。
自分も頭の中に映像が浮かんで、それがどんどん連想していくということがよくあるので、以前から「人はどうやって思考するのか」というのは興味があった。

小説家の森 博嗣がエッセイで「映像で考える」と書いており、自分に似た人がいるのだと思った。自分の場合は、彼

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谷崎潤一郎「陰翳礼讃」(1939年)

谷崎潤一郎「陰翳礼讃」(1939年)

なかなかおもしろい。

エッセイ集であり、表題にある「陰翳礼賛」をきっかけに「適切」とはなにかを探るエッセイが並ぶ。

「陰翳礼讃」は文字通り「暗さ」についてのエッセイ。
日本の建物は以前は暗くて、それがよかったのだという。
古い料亭で、電気を使わずに、薄暗い灯りの中で食事をするのがよいという。
日本の場合、器や、食べ物そのものが、手元もよく見えないような明るさの中で楽しむようにできているだそうだ

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ハイデガー「存在と時間6」(1927年)

ハイデガー「存在と時間6」(1927年)

いよいよ時間についての考察がはじまるようだ。
その一端として、人間にとっての「死」についての考察がある。
人間の一生を時間としてとらえると、「死」は時間の終わりということなのだろう。
なお、ハイデガーは人間の死と他の生物の死を区別しており、生物の死を「落命」としている。人間の死については解説において、ハンナ・アレントの言葉が引用されている。つまり、人が完全に死ぬということは、故人のことを誰ひとりと

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フロイト「精神分析入門 下巻」(1917年)

フロイト「精神分析入門 下巻」(1917年)

上巻は夢判断に関する話題だった。
下巻は神経症に関する話題がメインとなる。

読んでいて思った。
夢判断も神経症の発作も、人間の内面にあるドロドロしたものが形を変えて表に出てきたものだ。
フロイトの講義は基本的に、他者とのかかわりあいにおいて出てきた症状について話している。
そう、他者の存在が前提になっている。
そのポイントをさらに踏み込むと、フロイトがこの本を書いたのも、誰かが読むから書いたので

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 鈴木祐「YOUR TIME ユア・タイム: 4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術」(2022年)

鈴木祐「YOUR TIME ユア・タイム: 4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術」(2022年)

これはなかなか良かった。
現代人は生産性を求められ、常に時間に追われている。
そして、生産性を上げてタスクを達成しても、タスクはなくならないし、思ったほどの効果はあげられない。

そんな現実を踏まえながらも、著者はいくつかの時間の使い方を紹介する。人によって適した時間の管理の仕方がある。

著者は、時間の有効活用を肯定しているわけではない。むしろ、人間が人間らしく生きるということがすばらしいのだと

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ハイデガー「存在と時間5」(1927年)

ハイデガー「存在と時間5」(1927年)

人間は普段、日常生活において現実世界に頽落してしまっている。つまり、人間本来の姿ではなくなってしまっている。
それが、不安によって、本来の自分が見えるというのがハイデガー( 1889年9月26日 - 1976年5月26日)の主張。
フロイト(1856年5月6日 - 1939年9月23日)も、不安という現象が人間の精神を深いところで刻印していると考えていた。同時代の人がこういうことを考えるのは面白い

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フロイト「精神分析入門 上巻」(1916年-1917年)

フロイト「精神分析入門 上巻」(1916年-1917年)

古典なだけあって面白いが、逆に疑問もわく。

当時と現代では当然時代が変化しているので、どの程度現代にも有効なのだろうか。
夢の解釈の話でかなりの分量をさいているが、あくまでもタイトル通り「精神分析」がテーマなので、「夢占いのハウツー」ではない。
といったあたりは留意点としたほうがよいだろう。

おもしろいと思ったのは、
・人が言い間違えたり、忘れたりするのは、深層心理でそれをガードしている。

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