ちゃんぽんビート by あふろざむらい

思考すること、問いつづけること。 あれこれちゃんぽんしています。好きなマガジンをのぞい…

ちゃんぽんビート by あふろざむらい

思考すること、問いつづけること。 あれこれちゃんぽんしています。好きなマガジンをのぞいてください。

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最近の記事

第17回 人はひとりで生きていくものだから、って言うわりに、モテには興味があったりしてね。

  翌朝、洋介は五時に起きると、まず風呂に入った。  湯の中に肩まで体を沈めて目を閉じた。全身に力を入れ、次に力を抜く。それから、体の各部に順番に意識を向けていく。足のつま先からかかと、ふくらはぎへ。全身の感覚を確かめ終える頃には頭の中が空っぽになっていた。睡眠と覚醒の間くらいの感覚だ。その状態で十分ほど過ごした。  風呂から出てリビングにいく。ソファに腰掛けてアイマスクをつけると、深い呼吸を繰り返した。  風景を思い浮かべた。蝶と花から預かった風景だ。あの坂道の風景を、

    • 「007 ドクター・ノオ」(1962年)

      007シリーズの第一作。 今となっては古めかしいスパイ映画の雰囲気があるが、今の007映画のスタイルがある程度出来上がっていたことがわかるし、ストーリーもおもしろい。 冒頭の銃口に向かってボンドが銃を撃つショットは第一作からあった。そのあとアクションシーンがあって主題歌が流れる、という演出はここではまだない。 また、ボンドはモテる男であり、スパイのくせにやたらと名前を知られている。さらに自らも名乗るのも今と一緒。 なお、秘密兵器は出てこない。 現在のボンド映画は富裕層向けの商

      • 第16回 正しくないことが正論になることだって、ある。

         洋介は日が暮れてからマンションに戻った。酒の匂いをぷんぷんさせていた。ふらふらしながらリビングにいくと、ソファに真理子が座っていた。  ガラステーブルの上にお菓子が並んでいた。コンビニで売っているチョコレートやガムだ。封は切っていなかった。 「またやったのか」  真理子は答えなかった。背中を丸めてお菓子を眺めていた。スーパーに並んでいる死んだ魚のほうが、生き生きとした目をしている。  洋介はキッチンにいって水を飲んだ。大きなげっぷをした。こらえようともしなかった。  リ

        • 「アビス」(1989年)

          「ツイスター」(1996年)は本作の構成を真似たのではないか。 技術職の男と、男勝りな妻が命知らずな冒険をする。物語のはじまりではふたりはぎくしゃくしているのだが、冒険の中でお互いを認め合う。 本作は海底に沈んだ原子力潜水艦の調査がミッションだが、海底に潜む未知の生物とのコンタクトがテーマとなっている。キャメロンが高校時代に書いた短編小説がもとになっているというが、善良な「エイリアン」のようなストーリーだ。「エイリアン2」(1986年)の次に撮った作品だから似ているのかもし

        第17回 人はひとりで生きていくものだから、って言うわりに、モテには興味があったりしてね。

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        • 小説:風景の記憶
          17本
        • 能動的映画レビュー
          283本
        • 公園にまつわるスナップショット的コメント
          3本
        • その町の書店は、その町の顔をしているか
          10本
        • 書いたとたんに忘れていくエッセイ
          20本
        • アート関係を必死に理解しようとしてレビューするマガジン
          66本

        記事

          和田堀公園

          ここはなかなか素敵な場所だ。 川沿いの緑の多い公園。その中でも、観察の森という森があって、うっそうとした森になっている。中には入れなかった。 このエリアは日の出の直後くらいがとてもキレイだ。 太陽が昇りはじめると森の神秘性が失われてしまう。

          明治神宮

          都内ではここまで緑の多い土地は珍しい。明治神宮という場所がすでに珍しい場所ではないのだが。 森の中を抜けていく参道は広く、こまかい砂利が敷いてある。 そのせいもあって、保護林のような自然ではなく、整った都会的な自然という印象。 近くを通る電車の音などはする。それでも豊かな自然の中で過ごしていると気持ちが落ち着く。

          三省堂書店有楽町店

          入り口が三か所ある。 それぞれ、マンガ、女性ファッション誌、グルメ・旅行誌がお出迎え。 入り口の多さを活用して売れそうなジャンルを配置している。 メタル雑誌のBURRN!が平積みになっていたり、話題の本のコーナーに政治的なな思想の本や信仰宗教の本があるのが特徴的だ。需要があるからおいているのだろう。 三省堂書店というのは保守的なイメージがあるが、有楽町店はけっこう尖っている。

          第15回 なんなんだお前は。おれの知らない世界に生きていやがって……!

           女たちは手をつないで帰っていった。  洋介は神社に残った。ベンチに腰掛けて、ぼんやりと木を見上げたり、地面を眺めたりして物思いに耽っていた。散歩にきたジャージ姿の老人が不審げにじろじろ眺めていた。  洋介は、境内を後にした。  山手通りに出た。  スポーツウェアを着てサングラスをかけた女が坂道を上がっていった。洋介は道端でぼんやりとしていた。今日の仕事のことを思い返していた。  目の前に、黒塗りのベンツが止まった。洋介は坂道を少し下った。すると、ベンツもゆっくりとつ

          第15回 なんなんだお前は。おれの知らない世界に生きていやがって……!

          「パリ、テキサス」(1984年)

          テキサスを放浪していたトラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)は弟のウォルト(ディーン・ストックウェル)に引き取られる。 ウォルトと妻のアンはトラヴィスの息子ハンターを育てていた。 トラヴィスはウォルトの家でしばらく生活していたが、アンから彼の妻ジェーンの消息を知らされ、探しにいくことにする。 ジェーンを演じているのが絶頂期のナスターシャ・キンスキー。それだけでもうなにも言うことがないのだが、ヴェンダース作品としても、上位のクオリティだ。 強すぎる愛は相手を理想化し、本

          「パリ、テキサス」(1984年)

          「劇場版 呪術廻戦 0」(2021年)

          楽しいエンタメアニメ。 虎杖悠仁が主人公となっている呪術廻戦の前日譚に当たる物語。 本作は乙骨憂太という少年が主人公。ストーリーはなかなかよくできている。本編にも絡んでくるのかもしれない。ちなみに、乙骨憂太のキャラクターがエヴァンゲリオンの碇シンジに似ている。 声優がシンジを演じていた緒方恵美なので、制作側も意識しているのではないか。 呪術廻戦本編は、人間の負の感情から生まれた呪霊と、呪術師たちの戦いを描いている。呪霊は人間を襲うが、もともとは人間が生み出したものであり

          「劇場版 呪術廻戦 0」(2021年)

          第14回 坂道の記憶

           さいごの風景は身近な場所にある、と蝶が言った。  ディズニーランドや東京タワーの思い出はたくさんの人が持っている。もちろんそこで起こった出来事は、特別な思い出になりうるけど、そこがアミューズメントパークや名所である以上は、どこかしら他人と似通ったものになるのは避けられない、というのが蝶の意見だった。  洋介の経験から言えば、心の底から感動した観光地の風景を選ぶ客もいれば、最愛の人と一緒に観た映画を希望する客もいた。要は本人が満足していることが重要なんだ。逆に言えば蝶が身

          有隣堂 藤沢店

          藤沢駅から連絡通路をこえるとすぐにある。 やや中年高齢者を意識しているのか、健康系の本が目につく。 ただ、客層は20代くらいから70代、80代と幅広い。 10代はあまり多くないが、フロアがいくつかあるので分散しているのかもしれない。駅ビルの別の書店は10、20代の女性が多い。これは別に書く。 話を戻すと、入り口付近には単行本が平積みにされており、ここは話題の本が多い。それから雑誌コーナーがあり、その奥に各ジャンルの書籍、といったレイアウト。 この店はハマ本、藤沢本など湘南

          文喫

          入場料を取る書店ということで、できたころはずいぶん話題になった。 まだ続いているのはすごい。 どんな工夫をしているのか知りたいが、エントランスの無料ゾーンまでしか入ったことがない。 今回は夜明けの唄という漫画の巨大なパネルが貼ってあり、特設コーナーができていた。何人かの女性が物色していた。女性向けの作品のようだが、知らなかった。 その奥、カウンターまわりは雑誌や雑貨。 有料ゾーンは読書好きのためのめくるめく空間なのかもしれないが、無料ゾーンはスペースがかなり小さいので、よ

          思考深度

          最近、思考深度というか、問いを重ねることで人は思考や現実に対する解像度が上がっていくのではないかと考えている。 これはおそらく、ハイデガー「存在と時間」の影響だろう。あの本はまったく理解できなかったが、最初に「存在と時間」とはなにか、という問いにはじまり、それを検証する問いが生まれ、さらにそれを検証する問いが生まれ、と延々と問い続けたのだった。 もしくは、冒頭謎めいた舞台設定を提示しておきながらさほど活用することなく「虚体」についての考察のみを延々と問い続けた埴谷雄高「死霊

          「ノスタルジア」(1983年)

          タルコフスキーの作品をきちんと観たのははじめて。 ロシア人の詩人アンドレイは、自殺したロシアの音楽家サナノフスキーの取材でイタリアを旅していた。 小さな温泉街で、ドメニコという奇妙な男に出会う。 アンドレイは、ドメニコからろうそくを渡される。「ろうそくに火をともし、水の中を渡りきることができたら世界は救われる」。アンドレイはその役割を受け入れる。 タルコフスキーは「世界の救済」をテーマに創作を続けていたとwikiに書いてある。本作においてもそういう話は出てくるが、描かれて

          第13回 幸せに……なれますか?

            土曜日の午前中に金子家を訪れた。いつものように執事が出迎えた。母屋の玄関で蝶が待っていた。今日は花も一緒だった。  蝶の部屋は以前と同じく、甘い香水の匂いがした。  三人で折りたたみ式のちゃぶ台を囲んで紅茶を飲んだ。 「ねぇ」  蝶が大判のクロッキー帳を差し出した。色々なことが書き出してあった。イラストもあるし、文字で書いてあることもあった。マインドマップに見えなくもないけど、すべてが線でつながっているわけではなかった。  たとえば「海外旅行」という文字。船の絵。「

          第13回 幸せに……なれますか?