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アート関係を必死に理解しようとしてレビューするマガジン

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村上隆 もののけ 京都

村上隆 もののけ 京都

「村上隆の五百羅漢図展」(2015年)よりはこぢんまりとした印象。

よく知られている日本画のテーマやモチーフをスーパーフラットに解釈した作品群と、村上隆によく登場するキャラクターの現在形が展示されていた。そういう意味では、新作ではあるものの、どこかで観たことのある作品、ということになる。

これが現在の村上隆なのかもしれない。
つまり、ウォーホルは大衆文化のアイコンを大量に複製することでアートに

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「デ・キリコ」展@東京都美術館

「デ・キリコ」展@東京都美術館

デ・キリコの「形而上絵画」というキーワードを聞くと、半ば条件反射的に埴谷雄高の「形而上文学」を連想する。埴谷雄高は「死霊」において「虚体」というキーワードを提示し、実体のない、存在だけの人間について書いた。
デ・キリコもまた絵画において実体のない本質的ななにかを探し求めたのだろう。

画面の色の話をすると、デ・キリコは郷愁を描いた。それは空の色合いによくあらわれていた。テレンス・マリックの映画でよ

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展覧会「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る」

展覧会「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る」

「CURATION⇄FAIR」という新しいアートイベントが行われている。
展覧会と、アートフェアを、それぞれ期間をわけて行うイベントだ。
自分は展覧会のほうにいった。展覧会と、アートフェアで取引される作品が同じものなのかはわからない。

会場は九段下にある「kudan house」という施設だった。
ここは普段あまり一般公開されていないそうだ。
1927年に建てられたというから、昭和の最初期だ。

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水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた

水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた

今回は鬼太郎ではなく、一般的な妖怪にフューチャーした展示になっていた。だから、砂かけ婆やぬりかべ、子泣きじじいといった鬼太郎ファミリーに加わっている妖怪もいたが、あくまでも妖怪カタログのひとりといった扱いだ。

大量に展示されている原画を眺めていると、妖怪によって目の描き方だとか、全体のタッチなどが全然違うことに気づく。デフォルメの強度を調整するのが自由自在だ。
それは妖怪だけでなく、人間の姿も同

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奈良美智: The Beginning Place ここから@青森県立美術館 240102

奈良美智: The Beginning Place ここから@青森県立美術館 240102

青森県立美術館には「あおもり犬」と「森の子」があるので、今回の企画展では、建物全部で奈良美智美術館といってもいい印象を受けた。

展示自体は展示数自体は多すぎず少なすぎず、ちょうどよかった。
1,家
2.積層の時空
3.旅
4.No War
5.ロック喫茶「33 1/3」と小さな共同体

上記のテーマに沿って、1979年から2023年までの作品からチョイスされていた。
5つのテーマは奈良美智の作品

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日本民藝館

日本民藝館

柳宗悦(1889-1961)が1936年に建てた施設。
普段使いの工芸品の中に美を発見した柳宗悦は、民藝運動を展開する。民藝とは「民衆的工藝」の略。

食器や時計などと一緒に十字架などのイコンも陳列されている。日本の仏壇はなかったが、宗教的なアイテムも工芸品なのだろう。
自分は初心者なので細かいことはわからないが、眺めていると、なるほどたしかに味わいがある。
展示物だけでなく、建物そのものにも雰囲

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特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」

特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」

「やまと絵」の定義は時代によって変わるそうだ。

本展では、平安時代、鎌倉時代、室町時代を中心に、絵巻物や屏風を展示している。目玉になるのは4大絵巻(「源氏物語絵巻」、「信貴山縁起絵巻」、「伴大納言絵巻」、「鳥獣戯画」)。

自分が知らないだけなのかもしれないが、平安時代に描かれた「阿字義」という絵巻物には、カタカナでフリガナが振られていて驚いた。

また、鎌倉時代の絵巻には庶民の姿が描かれていた

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アーティゾン美術館「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」

アーティゾン美術館「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」

展覧会のタイトルにある「ジャム・セッション」とはなんだろうか、と考えていたのだが、おそらくは石橋財団のコレクションに対して、山口晃がアンサーを出すという行為をジャム・セッションと称しているのだと思う。
そして、それはアートに向かい合うとき、観客もアーティストに対して同じことをしているのだ。

「サンサンシオン」というのは、「感覚」を表すフランス語だそうだ。
ここで問われているのは、我々の感覚は、い

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「横浜狂言堂」231008

「横浜狂言堂」231008

「縄綯(なわない)」

ギャンブル好きの主人が、何某氏に負けた分の支払いをできずに、太郎冠者を差し出す。
太郎冠者本人はまさか自分が借金の支払いにあてられたとは知らずに何某氏のところに出向く。
そこで、自分が借金のカタにされていたと知らされる。
何某氏に仕事を命じられるが、太郎冠者は渋る。
借金のカタに手にいれた太郎冠者が働かないので、何某氏は主人にやっぱり金をくれという。主人は太郎冠者はちゃんと

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「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」展

「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」展

火薬を使ったパフォーマンスで有名なアーティスト。展覧会で展示されているのは、火薬を使って作った絵画のような作品と、パフォーマンスの構想を描いた作品(企画書のようなものもあるが、ちゃんと火薬を使ってイメージを描いてあり、作品になっている)。

冒頭「火薬を使用したのは、若い自分が、社会的統制に対して反発心を持っていたからでもあるでしょう」と書かれていた。
彼はずっと日記を書いているようなので、この言

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メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」

メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」

マルタン・マルジェラだったころのデザインは、前衛的ではありながら、どこか垢ぬけない印象だった。良くも悪くも手作り感があった。

創始者が引退して、ジョン・ガリアーノがデザイナーになった。2015年のことだ。そのあと、マルタン・マルジェラが自らを語る映画が公開された。悪くはなかったのだが、映画そのものはマルジェラっぽくなかった。あの、真っ白ではない、ちょっとくすんだ白と特徴的なフォントで構成された、

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デイヴィッド・ホックニー展

デイヴィッド・ホックニー展

これはすばらしかった。
デヴィッド・ホックニーという作家は、プールに飛び込んだ瞬間の絵が代表作なんでしょ、くらいでさほど好きでもなかった。ただ、こういう風に回顧展として作品に触れると、いろいろと見えてくるものがある。

ホックニーはイギリスのブラッドフォード出身のモダンアートの作家だ。若かりし頃にピカソの作品に出会い、大きな影響を受ける。
絵画を描くときの自由なスタンスというのを学んだのだと思う。

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横浜狂言堂230709(和泉流)

横浜狂言堂230709(和泉流)

「文山賊(ふみやまだち)」
二人組の山賊が主人公。仕事がうまくいかずに、喧嘩になる。殺し合いをすることになるのだが、見物人もいないところでやるのもなんだな、という話になる。
では遺書を残そうではないか、と。
ふたりがあれこれと掛け合いをしながら、遺書を書いていくのだが、結局は仲直りをするという話。

たとえばこれが外国人同士だったとする。言語も文化も違っていたら、やっぱりこういう風にこじれるかもし

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Tokyo Gendai

Tokyo Gendai

パシフィコ横浜で開催されたアートフェア「Tokyo Gendai」。
世界のアートギャラリーが出展しているから現代のアートのトレンドを知ることができる、というのが売りになっている。

会場を回って、「子どもっぽさ」というのがひとつのキーワードになっている気がした。それはマンガっぽさなのかもしれない。それが現代アートのトレンドなのだろうか。ただ、そもそもここは商談の場であることを考えると、世界中のギ

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