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Corazon
2024年10月31日 17:55
「手に持ってるそれ、なんですか?」わたしは、そう男にたずねた。「ああ、これですか。ほこりですよ、ほこり」そう言って、男は手の上にのせたフワフワとした物をわたしの前に差し出した。「ずいぶん掃除をサボってたんですね。こんなデカい埃見たことない」「なにをおっしゃるんです。「埃」じゃありません、「誇り」です」男はあきれた顔でそう答えた。「えっ、「誇り」って自分に対する尊敬の念みた
2024年10月25日 07:56
先ほどから気になっている客がいる。カウンターでコーヒーを淹れるわたしの斜め前に座っている男性だ。年齢は30代前半、身長は170cmくらい。髪は短めでTシャツのラフな服装をしている。片手に文庫本を持っているが、読んでいるようには見えない。まちがいない。産業スパイだ。きっとどこかでカフェをやっていて、うちの評判を聞きつけて調査にきたに違いない。気づかれていないと思っているだろうが、こちら
2024年10月18日 07:27
わたしはいま、夢にまでみたウインブルドン決勝のコートに立っている。・・・、ボールとして。決勝に進んだ二人は、審判から見て右側のコートにはアジア系米国人のシ・ホンカ、左側のコートにはポルトガルのプロ・レ・タリアが立っている。どちらもパワーヒッターの名プレイヤーだ。実力は拮抗している。この二人のラリーが続けば、ボールであるわたしの体はボロボロになってしまう。「ただでさえ、個人事業主は
2024年10月10日 13:38
私は業務戦隊ヤリタインジャーのレッドだ。レッドといっても原色の赤ではない。ややエンジがかった色をしている。仕事とはいえ、こだわりを捨てるつもりはない。そして、今日も「自由」を奪う悪を退治するため、カフェでお茶をしながら待機しているところだ。そのとき、通信で連絡が入った。「大変です!オフィス街に怪人ネバナラナイが現れて、人々を苦しめています」「ラジャー!すぐに現場に向かう!」そう言
2024年10月3日 17:34
今日も一日よく働いたなぁ。仕事を終えて店に鍵をかけた私は、暗い道を家へと向かいはじめた。人通りもなく、静かな一本道である。いつの間にか夏の暑さも幾分かやわらぎ、帰る時間には涼しい風を感じる季節になっている。「ん、あれはなんだ?」暗い夜空に光るものが動いたかと思うと、突然頭上に大きな光が現れた。そして、それは私の目の前にきて音もなく止まったのだ。あまりの眩しさに直視することができない
2024年9月26日 08:45
「サービス業の料理教室」「それでは、これより料理教室を始めます」教室に先生の声がひびく。私は初めて料理教室に参加している。目の前のホワイトボードには本日のお題として『ハンバーグ風常連客の作り方』と書かれている。「ではみなさん、最初は材料となる「お客さま」を選んでください。あちらの棚に様々な「お客さま」が置いてありますので、ご自身の好みに合わせて好きなものを取ってきてください」
2024年9月19日 13:30
「なるほど。ではこちらの商品はいかがでしょう?うちでもスタンダードなものです」店員は普通の紙箱に入った「安心」を持ってきた。箱には『まだまだ安心』と書かれている。「先ほどのものよりリスクは上がりますが、それでも今のお客さまよりは「安心」を得られるでしょう」「わたくしにはそのくらいが丁度いいのかもしれませんね。どのようにすればいいのでしょう?」「サラリーマンになることをお勧めします。出世
2024年9月12日 17:42
珈琲屋を始めて10年以上が経過した。私には始めたときからずっと欲しいと思っていたものがある。それは高級な材料でも立派な設備でもない。少なからず自営業者なら誰でも欲しいと思ってしまうものだ。「ここか、ついに欲しかったものを手に入れるときがきたぞ」私は地図を頼りに、あるお店の前にたどり着いた。店の看板には「安心ショップ」と書いてある。さっそく扉をあけ、店員さんに尋ねた。「わたくし、自営
2024年8月8日 12:11
「支払い方法は現金だけですか?」このように尋ねられることが多くなった。ひと昔前の個人商店は現金決済のみでクレジットカードが使えないお店がほとんどであった。しかし今では決済端末が無料で普及したことにより、うちのような小さなお店でもクレジットカードでの支払いが可能となっている。「クレジットカードも使えますよ」「じゃあ、クレジットでお願いします」私はお客様からカードを預かり、決済端末の電源
2024年9月5日 11:43
夫婦で閉店後に、珈琲屋店主の資質とはどうあるべきかを話し合っていた。「うちはお客さんの年齢層が高い。店主にとって必要な資質は、やはり知性だと思うんだ」「確かにそうかもね・・・」「君からみて私は知性的だろうか?」「私かみてあなたはチセイ的よ」「そうか、ありがとう。例えばどういう時に知性を感じるのかな?」「大学の先生なんかとお話ししているときかしら・・・」「確かに。お店では色々な専門分