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なんでもない。

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記したつもりが消えていくもの。
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#親子

純正じゃない思い。

純正じゃない思い。

 最近、"母に似て来た"と自分でも思うようになった。
以前ほど思い出さなくなっているのにも関わらず、日々、鏡に映る顔を見る度に"母"を感じる。
幼少期には、もうこの世から消えてしまったから、その記憶のほとんどはアルバムの中に在る。自分の子供と向き合う時、ふとスマホに視線を落とす時、
わたしは母親の姿をそこに見つける。

 母は美大の学生だった。21歳でわたしが生まれた。わたしが絵が好きなのは遺伝な

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詰め込む愛。

詰め込む愛。

 久しぶりにお弁当作りをした。自分自身の学生時代から始まり、子供達の離乳食から、幼稚園児の小ちゃなお弁当まで、それはそれで歴史でもある。"不慣れ"だったり、"不器用"だったり、"不恰好"だったり、"質実剛健なお弁当"キャラ弁は時間が無理、でも"彩りと旬はモットー"に、お腹が減ってる時は"スタンダードが一番"なんだから、とばかりに、唐揚げ、ウインナー、玉子焼きなどがメインの至って普通のメニュー。手先

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多面体。(父の夢をみたから固定)

多面体。(父の夢をみたから固定)

 夏が過ぎ、秋へ向かう。

 季節の変わり目は、いつも高校2年の夏休みを思い出す。
精神は湖のように深くゆれ揺らぎ、全身を浸した水面で手足を掻き続けて底が濁る。濁らせたい訳ではないが動けば動くほど濁りは広がってゆく。同時にいつ沈むのか推測不能な不気味さに体が冷え切る。常に水の中に浸っているからか手先足先が痺れる。一歩進み出したら一瞬で溺れてしまうかもしれない恐怖と緊張と裏腹に、陸に上がり自分の体温

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エフェクト。

エフェクト。

 「貴女も どうか お元気で」エフェクトしながら、脳内に流れる。

 たとえ血の繋がりがある関係でも、「時間」というものの前では無力だと、それを実感した。

 もう息子と私の「時間」が重なることは、二度と無い。

 喜びと哀しみの複雑に混ざってる涙の、色と味を知る。

 はたち過ぎたばかりでの結婚で、約10年後の離婚までに残ったものは何もない。厳密に言えば、失われたものの方が多いのだろう。息子を含

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Automatic。

Automatic。

スタイリストの補助をしていた頃。

衣装を運び込む作業の途中で、
ある女性と少女を見かけた。
少し手前で止まり、通路を譲った。
二人は、ドアを開けられて、入室して行く。

小柄ながら、背筋の伸びたスタイル
あの強い眼差し。自分の親世代。
リアルタイムには知らないけど、有名な歌手だと
いうことは分かっていた。

その後ろから、線の細い、大人びた少女が、
戸惑いを隠せないような雰囲気で付いて行く。

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