KILLING ME SOFTLY【小説】70_めでたしから先のお話を書く
おとぎ話の結末は決まって悪役が痛い目に遭い、〈主人公達はいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし〉と幕を閉じる。
しかし、こちらが心底知りたいのは描かれやしない物語のエンディングから先だ。
幾らフィクションとはいえ、つつがなく暮らして一生を終えるなど不可能であり、ただ話を盛り上げるか引き立たせる為、悪者とされた登場人物はその後どうなったのだろう。
私とて恋に落ち、すったもんだの末に、千暁と交際を始めて愛され、これで人並みにようやく幸せになれると思い込む。
ところが、そうではなかった。
嘘で塗り固めた化けの皮が剥がれ、隠そうにも埋めようにも、どうすることも出来ない過去のしがらみが襲い掛かってくる。
このような場面は童話を読み漁れども見付からず、王子様と結ばれた姫は転落、再び意地悪な家族に酷い仕打ちを受ける召使いへ。
つまり実際には都合の良い魔法はないが、〈タイムスリップしたい〉千暁の言い分も理解出来る、それでも、現実を受け入れるべきだった。
和やかな夕食を済ませ、ホテルから外出してイルミネーションを目指し車を走らせる間、彼は真っ暗闇の山道に怯える私を気遣い、可能な限り明るい音楽をかけて、くだらない話を始める。
「アキくんホント優しいよね。好き。」
「ん?俺は相手の目線に立って物を考えるだけだよ。」
さも当然かの如く語るので呆気に取られた。