マガジンのカバー画像

詩など

48
自作の詩,詩のようなことばをまとめています。
運営しているクリエイター

#創作

【詩】梢の神鳴

【詩】梢の神鳴

秋は心中を決意した

後悔はないの
ただ私はもう、手遅れ
そんな言葉を残して
紅葉は真っ赤に燃え落ちた

遺言が伝わると
夜でも色がわかるほど
黄色く盛る炎となって
公孫樹は無言で後を追った

見事なまでに 秋は全焼

間に合わなかった
わたしもなりたかった
手遅れなくらいの激しさに
闇を貫けるほどの明るさに

すっかり命をなくした梢では
十月を留守にしていた神様が
知らぬ間の皆の心変わ

もっとみる
【詩】生爪

【詩】生爪

サンダルの隙間から太陽を跳ね返していた
金銀のジェルネイルは
急な冷え込みに慄いた

秋雨に縮む靴の中
爪先に残っていた夏は
ばらばらに壊れ、剥がれて落ちた

現れたのは、随分息を塞がれて
少し白っぽくなって筋張った
久しぶりの生爪

雨を洗い流した風呂の中で
眺める足先の生白さ
柔らかく頼りないわたしの魂は
この身の隅々から不意に現れる

いつもより丁寧に体を拭いて
生まれたてのような爪

もっとみる
【詩】とどけもの【掌編】

【詩】とどけもの【掌編】

しずかな日曜日の午後
夕方に差し掛かるころ
インターフォンが鳴る

届けられたのは
化粧箱に入った
ひとつかみの 心

とどけもの、受け取りました。早速、風にさらして水に活けて、日の当たる窓辺に、飾りました。獣を飼うのも植物を育てるのも全く得意ではないのですが、せっかくとどけて下さったから、このまましばしお預かりします。
―――――――季節の変わり目どうぞご自愛を

受領の報せは書いたものの
宛先

もっとみる
【散文詩】無花果【掌編】

【散文詩】無花果【掌編】

あれはヤツデ? ──いいや、あれは無花果。しばらくすると、美味しい実がなるよ。

その日からわたしは、来る日も来る日も無花果の葉の下で、もたらされる実りを待った。青空はくらくらする。陽炎のような誰かと遊んでさみしいよりも、空を切り取る緑の手と戯れる方が愉しい。
葉をすり抜ける陽射しが肌を焼いて、体育座りの腿の内にまで汗を浮かべさせる。登校日は忘れたことにした。青空はまだくらくらする。よく何年も、そ

もっとみる
【散文詩】蝶【掌編】

【散文詩】蝶【掌編】

貴方がわたしの指に結んでくれたのは、蝶の形をした願いだった。小さな宝石のような模様を抱いて、蝶はわたしの指に棲みついた。流れる甘い血は吸い上げられ、指は鱗粉に塗れてかさついた。蝶はそれでも肥えない。痩せた願いだけが、貴方がいなくなった後も残り続けた。

いつまでここにいるつもりなの。わたしは蝶の薄い翅を摘んで訊いてみる。さぁねぇ、と応えが返る。指は歳をとる。皺の間深くまで鱗粉が入り込んで、皮膚と同

もっとみる
【詩】冬来たりなば春遠からじ ※アナグラム詩

【詩】冬来たりなば春遠からじ ※アナグラム詩

ゆらゆらと冬焦らし
瑠璃鳥は行き飛ぶ

ふかふかした雪から
顔出した蕗、鹿は囓る

はらはらと降る花々
鳩羽ばたき、白樺は薫る

りりり、
時折、ラジオから春は鳴る
ふふふ、
折々、菜花はただ語る

遥々時行き
大人と成り、
二人と為り、
母となる幸(ゆき)

白々した雪映ゆ丘
大きな花束抱き、冬終ゆる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「冬来たりなば春遠からじ」(はるきたりなは ふ

もっとみる
授賞式、そしてもう一つの受賞

授賞式、そしてもう一つの受賞

こんにちは、雪柳あうこです。今日はご報告など。

■授賞式

夏に「第五回永瀬清子現代詩賞」という栄えある賞に選出いただきましたが、本日、授賞式がyoutubeにて公開となりました。祝辞や朗読、講評など頂きました。そしてわたしも少しだけ受賞の言葉を寄せました。

岡山のフリーアナウンサー森田恵子さんが、受賞作「死の意思」を朗読して下さっています。ことばに命を吹き込んでもらいました。ぜひお聴き下さい

もっとみる
詩の受賞と、お願いと。

詩の受賞と、お願いと。

こんにちは。今日は最近の詩のことと、お願いです。

■最近の詩のこと。
小説は長年あれこれ書いていましたが、表現に行き詰まりを感じていた2019年の春。新たな角度からことばに取り組みたいと思い、始めたのが詩作でした。
作品にする過程の「うまくいかなさ」とどう付き合っていくのか、自分の中での格闘の方法と、表現のバリエーションを増やしてみようと。

少しずつ、詩を読み、詩を習い。試行錯誤しつつあちこち

もっとみる
春待ち

春待ち

ひとしずく
枝の先にこぼれる、春
堪えきれない涙のように

咲き初めの花に
目を伏せる人がいる
今年の冬は長いですねと

話しましょう
先の見えない明日のこと
灯のような花房の下
#詩 #短歌 #連歌 #春 #桜 #フォエム52 #創作

満開の花の

満開の花の

歩調を揃えて
微かな香の漂う
梅園をすり抜ける

満たされた時は短いのなら

時よ
止まれ
止まれ
止まれ、今すぐ
このまま私の心臓を貫け

満開の花の下
#詩 #創作 #写真 #フォエム52

破片

破片

‪光の破片が降る‬
‪静かな午後に‬
‪二人は微笑む‬
‪唇は重ならない‬

‪砕ける光に満たされた‬
‪ただ傍にあるだけの、永遠‬
#詩 #写真 #創作 #物語 #植物

たそがれの向こう

たそがれの向こう

黄昏の向こうの街で
貴方が暮らしていると聞きました

どんな理由をつけて
どうやって逢いに行こうかと
思案しているうちに
今日もまた日が、暮れていきます

まずはお手紙でも
出すといたしましょう
陽の光を透かす便箋に
昔年の想いを託しましょう

誰そ彼の向こうの街で
貴方が暮らしていると聞きました

お元気ですか
お変わりありませんか
ありふれた、たった一つの言葉よ
昼夜の境を越えて、黄昏の心臓ま

もっとみる
よこたわる

よこたわる

どこにでもたくさんいるわたしたちは
とてもつかれている
しずかにねむりたいのだけれど
やすまるところがみつからない

ねむりましょう、いっしょに

あなたはたおれている
わたしはおりかさなる

ねむりましょう、いつまでも

あなたとともによこたわる
わたしはやっと
やさしいねむりをてにいれる

・・・
写真は先日まで開催されていた #あいちトリエンナーレ  で観た作品「孤独のボキャブラリー

もっとみる