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詩など

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自作の詩,詩のようなことばをまとめています。
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#創作

【詩】梢の神鳴

【詩】梢の神鳴

秋は心中を決意した
 
後悔はないの
ただ私はもう、手遅れ
そんな言葉を残して
紅葉は真っ赤に燃え落ちた
 
遺言が伝わると
夜でも色がわかるほど
黄色く盛る炎となって
公孫樹は無言で後を追った
 
見事なまでに 秋は全焼
 
間に合わなかった
わたしもなりたかった
手遅れなくらいの激しさに
闇を貫けるほどの明るさに
 
すっかり命をなくした梢では
十月を留守にしていた神様が
知らぬ間の皆の心変わ

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【詩】生爪

【詩】生爪

サンダルの隙間から太陽を跳ね返していた
金銀のジェルネイルは
急な冷え込みに慄いた
 
秋雨に縮む靴の中
爪先に残っていた夏は
ばらばらに壊れ、剥がれて落ちた
 
現れたのは、随分息を塞がれて
少し白っぽくなって筋張った
久しぶりの生爪
 
雨を洗い流した風呂の中で
眺める足先の生白さ
柔らかく頼りないわたしの魂は
この身の隅々から不意に現れる
 
いつもより丁寧に体を拭いて
生まれたてのような爪

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【詩】とどけもの【掌編】

【詩】とどけもの【掌編】

しずかな日曜日の午後
夕方に差し掛かるころ
インターフォンが鳴る

届けられたのは
化粧箱に入った
ひとつかみの 心

とどけもの、受け取りました。早速、風にさらして水に活けて、日の当たる窓辺に、飾りました。獣を飼うのも植物を育てるのも全く得意ではないのですが、せっかくとどけて下さったから、このまましばしお預かりします。
―――――――季節の変わり目どうぞご自愛を

受領の報せは書いたものの
宛先

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【散文詩】無花果【掌編】

【散文詩】無花果【掌編】

あれはヤツデ? ──いいや、あれは無花果。しばらくすると、美味しい実がなるよ。

その日からわたしは、来る日も来る日も無花果の葉の下で、もたらされる実りを待った。青空はくらくらする。陽炎のような誰かと遊んでさみしいよりも、空を切り取る緑の手と戯れる方が愉しい。
葉をすり抜ける陽射しが肌を焼いて、体育座りの腿の内にまで汗を浮かべさせる。登校日は忘れたことにした。青空はまだくらくらする。よく何年も、そ

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【散文詩】蝶【掌編】

【散文詩】蝶【掌編】

貴方がわたしの指に結んでくれたのは、蝶の形をした願いだった。小さな宝石のような模様を抱いて、蝶はわたしの指に棲みついた。流れる甘い血は吸い上げられ、指は鱗粉に塗れてかさついた。蝶はそれでも肥えない。痩せた願いだけが、貴方がいなくなった後も残り続けた。

いつまでここにいるつもりなの。わたしは蝶の薄い翅を摘んで訊いてみる。さぁねぇ、と応えが返る。指は歳をとる。皺の間深くまで鱗粉が入り込んで、皮膚と同

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【詩】冬来たりなば春遠からじ ※アナグラム詩

【詩】冬来たりなば春遠からじ ※アナグラム詩

ゆらゆらと冬焦らし
瑠璃鳥は行き飛ぶ

ふかふかした雪から
顔出した蕗、鹿は囓る

はらはらと降る花々
鳩羽ばたき、白樺は薫る

りりり、
時折、ラジオから春は鳴る
ふふふ、
折々、菜花はただ語る

遥々時行き
大人と成り、
二人と為り、
母となる幸(ゆき)

白々した雪映ゆ丘
大きな花束抱き、冬終ゆる

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「冬来たりなば春遠からじ」(はるきたりなは ふ

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授賞式、そしてもう一つの受賞

授賞式、そしてもう一つの受賞

こんにちは、雪柳あうこです。今日はご報告など。

■授賞式

夏に「第五回永瀬清子現代詩賞」という栄えある賞に選出いただきましたが、本日、授賞式がyoutubeにて公開となりました。祝辞や朗読、講評など頂きました。そしてわたしも少しだけ受賞の言葉を寄せました。

岡山のフリーアナウンサー森田恵子さんが、受賞作「死の意思」を朗読して下さっています。ことばに命を吹き込んでもらいました。ぜひお聴き下さい

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詩の受賞と、お願いと。

詩の受賞と、お願いと。

こんにちは。今日は最近の詩のことと、お願いです。

■最近の詩のこと。
小説は長年あれこれ書いていましたが、表現に行き詰まりを感じていた2019年の春。新たな角度からことばに取り組みたいと思い、始めたのが詩作でした。
作品にする過程の「うまくいかなさ」とどう付き合っていくのか、自分の中での格闘の方法と、表現のバリエーションを増やしてみようと。

少しずつ、詩を読み、詩を習い。試行錯誤しつつあちこち

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春待ち

春待ち

ひとしずく
枝の先にこぼれる、春
堪えきれない涙のように

咲き初めの花に
目を伏せる人がいる
今年の冬は長いですねと

話しましょう
先の見えない明日のこと
灯のような花房の下
#詩 #短歌 #連歌 #春 #桜 #フォエム52 #創作

満開の花の

満開の花の

歩調を揃えて
微かな香の漂う
梅園をすり抜ける

満たされた時は短いのなら

時よ
止まれ
止まれ
止まれ、今すぐ
このまま私の心臓を貫け

満開の花の下
#詩 #創作 #写真 #フォエム52

破片

破片

‪光の破片が降る‬
‪静かな午後に‬
‪二人は微笑む‬
‪唇は重ならない‬

‪砕ける光に満たされた‬
‪ただ傍にあるだけの、永遠‬
#詩 #写真 #創作 #物語 #植物

たそがれの向こう

たそがれの向こう

黄昏の向こうの街で
貴方が暮らしていると聞きました

どんな理由をつけて
どうやって逢いに行こうかと
思案しているうちに
今日もまた日が、暮れていきます

まずはお手紙でも
出すといたしましょう
陽の光を透かす便箋に
昔年の想いを託しましょう

誰そ彼の向こうの街で
貴方が暮らしていると聞きました

お元気ですか
お変わりありませんか
ありふれた、たった一つの言葉よ
昼夜の境を越えて、黄昏の心臓ま

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よこたわる

よこたわる

どこにでもたくさんいるわたしたちは
とてもつかれている
しずかにねむりたいのだけれど
やすまるところがみつからない

ねむりましょう、いっしょに

あなたはたおれている
わたしはおりかさなる

ねむりましょう、いつまでも

あなたとともによこたわる
わたしはやっと
やさしいねむりをてにいれる

・・・
写真は先日まで開催されていた #あいちトリエンナーレ  で観た作品「孤独のボキャブラリー

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