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エッセイ

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#料理

ローストビーフ協奏曲

ローストビーフ協奏曲

もう4月だというのに、ひんやりと冷たい風に吹かれながら大通りを歩いていました。

道端に植えられた薄いピンク色のツツジの花が強風に煽られて歩道を舞っているのを見ていると、桜の花が舞う幻想的な風景とは相反して現実世界のもの悲しさを感じるのは何故でしょうか。

もしかすると私の住むエリアではツツジは大通りに面した歩道といった、おそらく植物にとっても過酷だと思われる環境に植えられている事が多く、雨、風、

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全体を通して迂闊

全体を通して迂闊

この世はたくさんのBeforeAfterであふれています。

日々目にするSNSでもBeforeAfterはありとあらゆる場面に用いられ、まるでサナギが美しい蝶になるような変化として、Afterがいかに素晴らしい未来なのかをインプットされているように感じます。

化粧前/化粧後、ヘアカット前/ヘアカット後、ダイエット器具使用前/使用後、健康サプリ飲用前/飲用後。

今よりもっと美しく、今よりもっと

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あきれるほど秋めいて

あきれるほど秋めいて

タイトルまでダジャレにしたくなるなんてダジャレ愛が著しく重症化してるじゃないかと怯えたのですが、1年前に『ナスカってなんっスカ?』というタイトルの記事をアップしていました。

良かった、現状維持で。

うっかり一句詠んじゃった。

1年の中で1番好きな季節はいつかと問われれば間違いなく10月から11月にかけての秋だと答えます。

10月31日のハロウィンは私にとってハローウィンターごきげんよう、て

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海から食卓へつづく太刀魚ドリーム

海から食卓へつづく太刀魚ドリーム

約2年ぶりに行くことになった海釣り。

前日の夕方から夜にかけて、出発する予定の港から数キロ離れたエリアでは道路が冠水するほどの集中豪雨となり、めまぐるしく変わる天候に行けるんか行かれへんのかどないやねんと右往左往しながらも、当日は清々しいほどの快晴となりました。

「ネコちゃん(私)、元気そうやなー!!」

久しぶりに会う仲間が笑顔で迎えてくれます。

私以外の3人全員が小型船舶免許2級を取得し

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さよなら、鍋

さよなら、鍋

とうもろこしごはんを炊くために購入した『STAUB/ラ ココットde GOHAN』。

鍋が届いてから、ある事に気がつきました。

家に鍋が結構ある。

もう何年も使いすぎて出どころ不詳の鍋もたくさんありまして、捨てられずに現在に至るといったところでしょうか。

これまで何度も引っ越しを経験しているけれど、私はどうやら鍋と共にその土地を去り、鍋と共に新しい土地へ根をおろしているようです。

鍋と共

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兄やんとネコととうもろこしごはん

兄やんとネコととうもろこしごはん

先日アップした『兄やんとネコと魚』について、本人に記事化して良いか確認するために連絡を取ったところ、どうぞどうぞという返事とともに、話の流れで今度は兄やんおすすめのお店に食べに行こうという事になりました。

「ネコちゃんちょっとこれヤバない?」

土鍋で炊かれたとうもろこしごはんを食べながら、トロンとした目で兄やんが言うのです。

「うんやばい、これ100合食べれる」

私はあまりのおいしさにそう

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出会いについて たとえばおかひじき たとえば祈りの音楽

出会いについて たとえばおかひじき たとえば祈りの音楽

すばらしい出会いとは、突然やってきます。

それは向こうからやってくる場合もありますが、たいてい私の中の私という犬がここ掘れわんわんと鳴いて、そう?ちょっと面倒だけどじゃあ掘ろうかしら?と腰を上げると、なんとまぁこれはこれはすばらしいものに出会った、となるわけです。

鳴けば、かなりの確率でそうなります。

因みに私の中の私という犬は、本田選手が言うところの、心の中のリトルホンダとは異なります。こ

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桃が主役

桃が主役

先日川で洗濯していましたところ、どんぶらこっこどんぶらこっこと可愛い桃が、流れてきたので拾ったんですよね。

でも中から桃太郎的な、いのちが、産まれてきても育てる自信もなく、育てられたとしてもうちにはネコしかおらず、イヌもサルもキジも従える事ができませんので、困ったなとしばらく注意深くその桃を見てたんですけど、どうやら私の妄想だという事に気が付きました。

実家に滞在中、長野県に滞在している叔母さ

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衝動サマーランチ

衝動サマーランチ

もう蝉が鳴き出した真夏日和の朝、じんわり額に汗をかきながら外を歩いていました。

以前、数えてみたら120歩で通り抜けられた近所の短い商店街には花屋があって、だいたいいつも空箱の上に黒猫が不機嫌そうに座っています。

お、今日はお店のお婆さんによしよしされてご機嫌さんだね。

チラっと視線を送りながらお店の前をゆっくり通り過ぎようとした時に、お婆さんから初めて声をかけられました。

「こんにちは。

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私のキッチン

私のキッチン

前回のnote「父のキッチン」に書いた母の圧迫骨折。

帰省して痛感したのが、いつも自分のためだけに料理を楽しんでいる私は、食事シーンにおいて途方もなく無力な存在だったという事だ。

実家に滞在している間、母の介助や洗濯、掃除などのサポートをしながらも料理だけは主導して一切作らなかった。

塩分量を全体の0.6〜0.8%に抑える計算で全て父が作ってくれていたが、私はとてもじゃないが塩分コントロール

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父のキッチン

父のキッチン

この数週間はあまりにもめまぐるしかった。

いくつか種まきしていた仕事が一気に決まって喜んでいた矢先、我が家の愛猫2匹が立て続けに体調を悪くし塞ぎ込んでいたところに、趣味で続けていたnoteが初めて『今日の注目記事マガジン』に選ばれて、たくさんの方に読んでいただいた。

いいこともやなことも繰り返すんだなと思っていた。

大好きなボ・ガンボスのどんとが『夢の中』で歌ってた通りだ。

でももう繰り返

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Fall in love (with ズッキーニ)

Fall in love (with ズッキーニ)

しばらく我が家はインドカレー店と化していました。さしずめ私は住み込みで働くオーナー兼シェフ兼お客といったところでしょうか。

先日のnoteでご紹介したエビカレーは、3日かけて完食しました。
その後基本となるミニマルチキンカレーを作り2日食べて残りは冷凍しました。
さらに応用編のコッテリモードチキンカレーを作り2日食べて残りは冷凍しました。

カレー沼に片足を突っ込んだところで、ふと我に返るとごら

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夜風に香るスパイスカレー(後編)

夜風に香るスパイスカレー(後編)

水野仁輔氏の著書『スパイスカレー』はまるで図鑑のような本です。独自の理論とメソッドによって2187通りものカレーができるという仕組みが語られており、何とも目が眩みそうです。

第1章から第6章を通じてスパイスカレーに関するメソッド、基礎知識、作り方が学べる構成になっています。

第3章の中表紙には、こう書かれていました。

ローランドかと思いました。

『この世には2種類の男しかいない。俺か、俺以

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夜風に香るスパイスカレー(前編)

夜風に香るスパイスカレー(前編)

みなさまはプロポーズを経験された事はおありでしょうか。
ご結婚されている方は、大抵そうでしょうか。

自身は職業柄、定期的に何かしらのプロポーザル方式へ参加して愛という名の企画提案(プロポーズ)を差し上げ、勝利したり敗北したりを繰り返しておりますが、個人対個人のプロポーズにおいては人生にそう何度も訪れるものではないと認識しています。

例に漏れずこの私も、
長い人生でたった一度、ありました。

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