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海から食卓へつづく太刀魚ドリーム

約2年ぶりに行くことになった海釣り。

前日の夕方から夜にかけて、出発する予定の港から数キロ離れたエリアでは道路が冠水するほどの集中豪雨となり、めまぐるしく変わる天候に行けるんか行かれへんのかどないやねんと右往左往しながらも、当日は清々しいほどの快晴となりました。

「ネコちゃん(私)、元気そうやなー!!」

久しぶりに会う仲間が笑顔で迎えてくれます。

私以外の3人全員が小型船舶免許2級を取得している海の強者たち。
いつでも強く優しく楽しい彼らは、元来ビビリで引きこもり気質の私とは対極に位置する人々で、会うたびに私もみんなのように豪快に逞しく生きてみたい、という気持ちにさせてくれます。

まだ残暑が厳しく更には午後からまたゲリラ豪雨の可能性があるという事で、朝早く出港して昼過ぎには終えようというスケジュールを組み、仲間の1人が持つ船のある係留所へと向いました。

「今日は太刀魚のポイントまで行くからな。ドラゴンも釣れてるらしいわ」

ドラゴンとは、だいたい1.2メートルを超える太刀魚の事を言う。

私は久しぶりに聞く“ドラゴン”という言葉に、ネバーエンディングストーリーのファルコンを頭に思い浮かべながら、夢いっぱいにうはぁデカいの釣りたいなぁと口を半開きにしていました。

そういえば初めて太刀魚釣りをした淡路島で釣れたのは、間違ってアルミホイルが引っかかったのかと思うほどの薄さだったな。


釣り竿、仕掛け、クーラーボックスなどみんなで荷物を積んで、いざ出港です。

仲間の1人 釣りジャンキーの船長


湾内は船のスピードを出してはいけないのでゆっくりと進み、湾を出るとエンジンを唸らせて一気にスピードを上げ、目的地へと爆進します。

「兄やん!!これ時速何Km出てんのかなー⁈」

波しぶきと爆風と爆音を全身で感じながら、私は兄やんと呼んでいる仲間に大声で聞いてみました。

兄やんは「ネコちゃん!海はな、Kmやなくてkt(ノット)で表すねんでぇぇー!!」とドヤ顔をした後「でも何ktかはわからん!!キャハハハ」と笑いました。

ほんまに小型船舶免許2級持ってるんか怪しい。

猛スピードで過ぎ去る景色を眺めながら、こんな心地の良い気分になったのはいつぶりだろうかと考えていました。


人生も景色も流れるように過ぎ去っていくな。(口 半開き)

頭にタオルを巻く派



20分程船を走らせると、太刀魚の釣りポイントに船団が見えてきました。
個人船もあれば有料船もあり、大小様々な船が集まって一定の距離を保ちながら釣り竿を垂らしています。

銀色のお宝を求める海賊船たち


太刀魚釣りは『テンヤ』と呼ばれる仕掛けにイワシを巻きつけ、それ以外にもおとりのような役割を果たす針に小さな生き餌を付けて、海底に落とします。


テンヤ765円! 無くしたらてんやわんや 


魚群探知機で船長がポイントを探ってくれている間に、各自準備を進めます。

「はーいOK!!魚影映ってるでー水深90mから70mまで!」

船長の合図で一斉に全員が仕掛けを海底に落とします。

私は電動リール付きの竿を貸してもらいましたが、兄やんは自分の手巻きリールがいいという事で、海底90mまで仕掛けを落としてひたすら手動で巻き上げるという偉業を繰り返しています。エステティシャンの腕力は侮れません。


手巻きリール派な兄やん
電動リール派な私


海底に“トン”とテンヤが着いたらゆっくりリールを巻き上げ、太刀魚が掛かるのを待ちます。

竿の先がグンとしなって下に引っ張られたら餌を食べた合図、その瞬間に竿を大きく上に上げる“合わせ”という動作をした後、一定のスピードで巻き上げます。

「めっちゃ魚影映ってるでー!今チャンスタイムやでー!」

船長の掛け声に鼓舞されながら、みんなで水深90〜70mを探っていると「きた!」「こっちもきた!」と、仲間たちがどんどん太刀魚を釣り上げていきます。


そして私にも、とうとうその時がやってきました。


「キターーーーーーーーーーーー!!!!!」



それは織田裕二にも負けない叫びでした。

電動リールで勢いよく巻き上げると、とてつもない抵抗力を感じる。
2年ぶりだけど、ここまでの引きは相当大物の予感。

私はこれはもしかするとドラゴンかファルコンを釣ってしまったのではないかと、弓形にしなった竿を見ながら心を震わせていました。

「みんな、これ絶対今日イチやで!!」「すごい抵抗力!!」「めっちゃデカいで!!!」と大声で実況中継しながらリールを巻き上げます。

「まじか!!焦ったらあかんで!」「逃すなよ!」「タモいるか!?」「頑張れ!!」

みんなの声援と注目を背中で一身に受け止めながら広い海のど真ん中でスポットライトを浴び、高まる期待に頬を紅潮させました。

みんな待ってろよ!私がドラゴンかファルコン釣ってあげるから!!

いよいよ電動リールの水深を表示する画面が残り1mを示した頃、煌めく水面にゆらぁと光る銀色の太刀魚が見えてきました。


それは細長い、婦人用ベルトサイズの太刀魚でした。


「…チッ」
「…今日イチほそいやないか」
「…ほっそい日本刀やな」
「…抵抗力ってさ、電動リールのスピード上げすぎただけちゃうの」


みんな、あんなに優しかったのに急に冷たいな。

私は改めて、思い出しました。

リールを巻き上げて水面に現れた魚と対面するまでの高揚感こそが、釣りの醍醐味の1つだということ、そして過去に誰しもが「今日イチや!」と叫びながら、舌打ちされてきたということ。

その後全員で喜怒哀楽を繰り返し、昼過ぎにお開きとなりました。



残念ながらドラゴンもファルコンも現れなかった


「ネコちゃん一番大きいの持って帰り」「何匹でも持って帰り」

みんな、優しかったり冷たかったり優しかったりやっぱり優しい。
私はお礼を言い、たくさんもらっても食べきれないので1匹だけもらうねと、もちろん大きそうなのを血眼になって選んで持ち帰りました。

帰宅後太刀魚の下処理を済ませ、シンプルにそのおいしさを味わうために塩焼きを作りました。

お刺身にしたかったのですが、3枚におろすほどの厚みはなかったのでそれは次回の楽しみに取っておきます。


全長約80センチ 太さ最大約6センチ
ドラゴンに見えなくもない
中心に光り輝く太刀魚 
相変わらずランチョンマットからはみ出す欲望




釣りって最高に楽しい。
みんなと過ごす時間って最高に楽しい。
釣った魚を料理して美味しくいただくのも最高に楽しい。


ネバーエンディングストーリーであって欲しい。


自分1人では決して見る事が出来ない景色と夢のような時間の余韻に浸りながら、こうしてnoteを書いています。

#日記   , #エッセイ , #料理 , #自炊 , #太刀魚 , #ネバーエンディングストーリー

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