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目目、耳耳

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#詩

美しき、百“希”夜行(夜天/女王蜂)

今、『先が見える人』と『先が見えない人』は、どちらの方が多いんだろう。

終わりが見えないなんちゃらウイルスに、もしかしたら明日起こるかもしれない震災に。

行きたい場所へ、行けない。

誰かに会いたいのに、会えない。

ピリピリした現実。

あっちを向いても、こっちを向いても、一寸先は闇。

自分のこともそうだけど、自分が好きな人達も。

たとえば、好きなミュージシャンのこと。

僕の大好きなバ

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知らない(パウル・クレーと愛の詩集)

クレーが好きだ。『思考のための死』とか『釣り人』とか、好きな絵はたくさんあるけど、有名なのは、『忘れっぽい天使』などの、天使の絵だろうか。白い紙に黒い線。の、簡素な絵。

晩年、強皮症を発症し、思い通りに動かない手で綴った線。が、とても優しく、とても悲しい絵になった。(と、感じているのは、ぼくだけど。)

クレーの天使達は、知らぬ存ぜぬ内に、ことばを呼び寄せる。谷川俊太郎は、彼らに心を動かされ、詩

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あなたの名前を、(よいひかり/三角みづ紀)

あなたの名前を、(よいひかり/三角みづ紀)

「お元気ですか」

「元気ですよ」

「そちらの街は、どうですか」

「すてきですよ。あなたの街と同じくらい」

「たとえば、スープを作るとき。

じゃがいもを、にんじんを、玉ねぎを、あとベーコンを切って。しめじは、もともと切ってあるのを使って。出来上がったスープは、コンソメと秋の匂い。

あなたにも、届いているといい。」

「たとえば、インクを変えるとき。

新しいインクを手に入れた。色はもちろ

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「から」の続きにあるもの(世界はきっと僕の味方じゃないから/水色爽 )

「から」の続きにあるもの(世界はきっと僕の味方じゃないから/水色爽 )

「世界はきっと僕の味方じゃないから」

世界は味方じゃない。味方してくれない。世界は優しくないから。でも、「じゃない」で句読点を打つのではなく、「から」と続き、その先のことばを予感させる。ぼくはそれを、とても優しいと思った。

SNSには、善意がある。わかりやすい悪意もある。本人は善意と思っていても、他人に押し付けることで悪意に変質するものもある(本人はそれが善意だと信じたまま)。なにを言ってもい

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世界を臨む唯一の方法――菅原敏『季節を脱いで ふたりは潜る』に寄せて

世界を臨む唯一の方法――菅原敏『季節を脱いで ふたりは潜る』に寄せて

日々を、肌で感じる。汗ばむ腕の夏。粟立つ背の冬。時々、風に突き刺され。壊れ物を扱うように、あなたが触れ。

目を閉じても開いても、季節は巡る。時間は確実に進んでいるとか、よくわからないけど。季節は、肌が教えてくれる。あなたに目隠しされながら。想うことはたくさん。

しんとした部屋が、自分の中にある。(誰の中にもある?)空っぽのことがほとんど。枯葉が降り積もることもある。雪で埋もれることもある。誰か

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締め付けられる痛みに、(智恵子抄/高村 光太郎)

締め付けられる痛みに、(智恵子抄/高村 光太郎)

いやなんです
あなたのいつてしまふのが――

――『人に』より引用

指先が火照る。その内、火が灯る。のは、見間違いにしても。熱は脈打ち、血液を血管を支配する。この熱は、どこへ行くのだろう。心臓へ戻るのか。熱なので、冷めてしまうのか。

すると、火照った指先が花開いた。白詰草のようにしたたかで、しおらしい花。すぐに、しおれてしまうけど。その儚さを、いとおしく思った。

阿多多羅山の山の上に
毎日出

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連作詩「flos」

本作は、R Sound Design氏の「flos」に登場する花および花言葉を題材にした連作詩です。作曲者であるR氏と原曲に敬意を込めて。

Daphne(沈丁花)貴方は 私を
か弱いと お思いでしょう

本当は

私が 貴方に
そう 思わせているのです

来るべき時のために
私は 貴方に しなだれているのです

花言葉
「栄光」「勝利」

Ficus(無花果)私が 咲くことはありません

誰も彼

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子どものぼくに宛てた手紙(ともだちは海のにおい/工藤 直子、長 新太)

(いちばん……手をにぎって……もらいたい……ひとって……いちばんすきな……ひと……の……こと……なんだな)

――p64より引用

子どものぼくへ。

保育園でも、小学校でも、中学校でも、ずっと君は、寂しい思いをしているね。ものごころが付いたときから、友だちと仲よくなりたいのに、失敗ばかりだったね。

お父さんにもお母さんにも、褒められることもあるけど、なにか賞をもらったときだけだったね。大声で叱

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その通りだよ(美しいからだよ/水沢なお)

「美しい」のが「汚い」とか。
「汚い」のが「美しい」とか。

どっちなんだよ、ってことば遣いをする人がいる。

ぼくが「美しい」と思ったものを、誰かは「美しくない」といい。
誰かが「美しい」といったものを、ぼくは「美しくない」と思い。

やっぱり、どっちなんだよって思う。

「美しさ」って、なんてあいまいなものなんだろう。

だから、自分のことばを大切にしなきゃいけないのかな。

それを「美しい」

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ぼく の (8ヶ月)じゆうけんきゅう(水温集/古本屋 弐拾dB)

先日、理想的なバケツを見つけた。

見つけた瞬間、「コレだ」と思った。ので、その場でお買い上げした。

何に対する理想かといえば、『水温集』に対する理想だ。

これは世にも珍しい水に溶けてしまう一冊の本。

――BOOTH商品紹介より引用

『水温集』をお買い上げし、早8ヶ月。

8ヶ月前、僕は尾道を訪れた。旅の目的に、「古本屋 弐拾dBを訪れること」そして「『水温集』を手に入れること」があった。

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紙の片で見る夢は、(音楽集「紙片」/本と音楽 紙片)

時々、夢を見る。

僕の、将来を。
僕らの、将来を。



3ヶ月前、僕とパートナーは、尾道を旅した。周囲の人は、それを「新婚旅行」と呼んだけど、僕らはその土地で、いつも通りの日常を過ごした。

本屋に行く、カフェでコーヒーを飲む、たまたま見つけた店に、ふらっと入ってみる……。僕らは、きちんとした工程を立てなかった。(行ってみたかった場所には、忘れずに行こう、くらいかな。)ほとんど成り行きに任せ

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見えない(死んでしまう系のぼくらに/最果タヒ)

見えない(死んでしまう系のぼくらに/最果タヒ)

「どこにも行かないでね」

そういったのは、
僕だったっけ。
パートナーだったっけ。

どっちでもいいか。
どっちも、同じことを考えているから。

もしも、
パートナーがいなくなったら。

別れるとか離れるとか、そんなんじゃなくて、
「もう二度と」が頭に付く、そんな感じの。

あんなに好き好きといってくれるのに、
(僕も、同じくらいいっているのに)
それを酸素のように吸っている僕は、
いったいどう

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