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アイデアノート8 生きがいにおける理論+あとがき「本の選び方+生きがいの理論」

生きがいの図。好き、得意、価値、貢献の四要素によって生きがいは作られている。

生きがいにおける理論①金銭と金融資産

 生きがいイノベーションにおける理論とは何だろうか?これこそが本文章最大の問いであり、本書の存在目的である。これを明らかにするには、生きがいとは何であり、どうすれば生きがいを得られるのかについての基本的なおさらいの必要がある。まず生きがいとは、長期に渡って持続する幸福のことである。

幸福の資本論では、幸福とは金融資産、人的資本、社会資本の3つに分けられるとされている。この三つを達成できるのは、現在の慣行ではフリーエージェント戦略でないと難しいとしている。しかし、フリーエージェント戦略を取らずとも、ティール組織やシンフォニーブルー組織であれば、その戦略を取らずとも三つを達成できるだろう。また、この著書自体は、天動説的にデータを扱っているため、地動説的な視点からより深掘りを行う必要がある。

まず金融資産では、単独で年収800万円、世帯年収で1500万円、家庭での金融資産1億円までは幸福度が上昇すると言われている。単身では800万円で済むため、現在の日本の制度においても大企業の管理職や企業して軌道に乗る人などはこれを達成できる。しかし、男女間での賃金格差が大きい日本では、世帯年収1500万円を達成するのは難しい。そこで数値だけで考える天動説ではなく、生きがいを中心とした地動説でこれ分析する。
まず、世帯収入が年1500万円ということは、金融資産1億円を達成した上で、幸福を最大限する選択肢が充分に広がる数値であることを示している。ようするに年収1500万円から税金やその他費用と貯金分を除き、毎年得られた金額程度でできる選択肢が幸福を最大化する。すると、基本的に年収1500万円の場合、33%~43%が税負担となるため、一世帯につき1000万円程度が手取り額となる。生涯純所得が4億円であり、貯金に1億と考えると(株式投資を考慮にいれれば、さらに自由に利用できる金額は増加する)。3億円程度が自由に利用できる金額であるといえる。つまり勤労年数を考慮すると、家計消費支出が年700万程度までは、幸福度が増加する。

これは、現在の日本の二人以上の勤労者世帯の平均消費支出323万円の二倍程度である。つまり、現在の生活水準の二倍で得られる選択肢までは幸福度の増加に貢献することが分かる。このとき、家系消費の中で金銭的自由が増えることで選択肢が増加するものは、食料、住居、家具家事用品、被服および履物、交通・通信、教育、教養・娯楽、その他である。つまり、食品の選択肢、住居の選択肢、家具家電用品の選択肢、衣服の選択肢、通信の選択肢、交通手段の選択肢、教育の選択肢、教養・娯楽の選択肢が増加した場合幸福度が増加する。通信に関しては、日本であれば非常に性能が上昇しており、基本的には格安シムとWi-Fiを組み合わせることで、家系消費が323万円でも充分な設備を利用できる。また旅行代は娯楽費用に含まれるため、基本的な交通料金は自動車を自らが持つ場合を除き選択肢の増加に貢献しない。

よって、食品、住居、家具家電、自動車、衣服、教育、教養・娯楽の選択肢を増加させることが幸福度の最大化に貢献する。もちろんそれ以外の費用をこれらに移動させれば幸福になることも示唆される。しかし、それよりも重要なのはこれらの選択肢のうち、日本の平均値の二倍の生活水準で達成できるものは何か?である。これが分かれば、なぜ世帯年収1500万円まで選択肢が増加する必要があるのかがはっきりとするのだ。
つまりこれを因数分解すると、

スーパーにある商品ならば自由に選択できる、高級な店でなければ自由に外食できる、家のスペースと機能に不自由しない、家具家電の性能で妥協が必要ない、基本的な普通車を自由に買うことができる、高級な店でなければ自由に服を買うことができる、高級でない教材・教育サービスであれば自由に利用できる、高級でない娯楽であれば自由に利用できる。

などになる。すなわち「高級でなければ、買いすぎでなければ家族全員が何でも買える」という状態が幸福度を最大化している。「一般的な選択肢、常識的な選択肢であれば何でも買える」という状態の中で幸福度は最大化するのだ。

逆を言えば、年収が少ないために一般的な選択肢に対する障壁が生じた時、幸福度は低下する。また、生きがいの源泉は一般的な選択肢の中にあり、高級にしても地動説的な付加価値が増加しないことも概ね示唆される。普段のスーパーの価格で一喜一憂しない状態が金融資産での最大の幸福のポジションである。天動説だと800万円という名目上の数値に囚われてしまうが、地動説であれば「一般的な選択肢では最大限に自由である状態」にあれば良いことが示される。

生きがいにおける理論②労働時間

労働形態については、ティール組織やシンフォニーブルー組織が幸福度を最大化させるが、労働時間においてはデンマークやドイツなど世界的に労働時間が短い国であっても年平均1300時間程度はあるため、データの比較がしづらい。

しかし、労働時間を見ると年1200時間までは幸福度が増加する傾向が示されている。労働時間年2000時間では、土日祝を除き毎日8時間労働する必要があり、家族と過ごせる時間が減少してしまう。家族と過ごせる時間が長く、夫が充分に家事に参加できる状態にあるとき幸福度は最大化する。このため、労働時間を完全に自由に決定できて、いくら仕事に生きがいを感じていたとしても、基本的には子供の帰宅前に仕事を終えるべきである。教育方針がティール組織同様、支援型であるとき子供の幸福度は最大化するため、子供と過ごす時間がしっかりあった方がよいのだ。また、会社も子供に合わせていく方が望ましい。朝、子供が学校に出てから仕事を開始し、午後に子供が帰ってくる時には仕事を終える必要がある。もちろん、子供が放課後に友人と遊ぶ分くらいは仕事の方が長くて良いが、やはり子供が帰宅した時には家事をしているか、くつろいでいなければならない。

この時の労働時間はどのくらいだろうか?小学校が年980時間、中学校が年1015時間であるから、少なくともこれを大きく超えた時間であってはならない。会社も学校も昼休みは基本的に一時間であるが、仕事では途中のこまめな休憩も労働時間に含まれる。一方で、朝礼、HR、合間の休憩時間が授業時間に含まれない。このため、1日1時間×200日の約1200時間程度が小中学校にいる時間であると考えられる。
 つまり、労働時間もこれに合わせて1200時間程度であることが望ましい。それが厳しい場合は、最低でも放課後、子供が友人と遊んで帰ってくるまで5時~6時頃には家についているようにしたい。すると、朝8時から夕方5時の8時間労働で、夏休みを子供に合わせて取るとして、年1700時間には抑えたい。ここで重要なのは企業も子供に合わせて朝型であるほうが良いという点だ。以上から、どの組織形態に対しても、賃金800万円、労働時間1200時間、朝8時開始をベースに、賃金と労働時間を考えていくと良いと言える。これは子供がいない場合でも同じで、ベースとなるだろう。

生きがいにおける理論③人的資本

人的資本は、自己実現ができるか、仕事に生きがいを感じるかどうかで決まる。このため、ティール組織やシンフォニーブルー組織であればすでに克服しつつある課題となる。人的資本の課題を克服する組織形態こそ、ティール型、シンフォニーブルー型であるからだ。もとより、フリーエージェント戦略を包括しているといえる。労働における生きがいイノベーションについては、「企業生きがい主義」にて述べる。

生きがいにおける理論④社会資本

社会資本とは、家族との繋がりや地域、友人との繋がりである。これは、労働時間を一定に抑えることで獲得する機会を得ることができる。今までの組織形態では仕事の中で同時に社会資本を形成することが困難であったが、これからはイニシアチブとしての活動を通じて交流を深めていくことも容易となるだろう。この時にも、やはり好きな人を自らで選ぶ意識が重要となる。自らの生きがいの源泉となる人々の関係を築くため、こうした関係を構築する仕組みも整えていく必要がある。人々の関係を築いて生きがいの源泉とする方法については、「個人生きがい主義」にて説明を行う。この場合であっても、友人との関係は互いにイニシアチブであって、互いの関係が最大の生きがいを生む組織であることが望ましい。
 友人や家族の関係性であっても、ティール型やシンフォニーブルー型であることが重要となるのだ。そうして互いに生きがいを得る関係があると、良い関係が持続する。労働中に社会資本が形成できる場合は、本人の望む労働時間が長くても生きがいを感じることができる。長い時間の労働には、それだけ社会資本でも対価を支払う必要があるのだ。それだけでなく、仕事でも社会資本が形成できる仕組みの構築が不可欠だと言える。また関係はより親密で深いものであることで、教育方針が支援型であることで家族間の生きがいも最大化する。

生きがいにおける理論まとめ

①     金融資本「一般的な選択肢では最大限の自由」
②     人的資本&社会資本「人間関係がシンフォニーブルー型(SQの高い関係)」
③     社会資本「社会資本に合わせた労働時間」
この三点を揃えることができれば、充分に生きがいを感じることができる。そして③はティール組織で達成が可能となっている。グリーン組織でも完全フレックスタイム制を取り入れる企業が出てきており、社会資本に合わせた労働時間へシフトすることは既に取り組まれつつある。ティール型へと段階が進めば、②についても大きく前進する。
よって、ここで問題となるのは「一般的な選択肢では最大限の自由」をいかにして「社会資本に合わせた労働時間」で稼ぐかである。ないしは、賃金を下げないよう選択肢の価格破壊をするかである。いずれにせよ、天動説に見れば、いかに800万円を1700時間で稼ぐか?と同値であり、一企業レベルでみれば可能だが、国家レベルでみれば非常に厳しい。日本では、非正規雇用の平均労働時間が年1000時間と達成しているが、賃金では180万円であり、賃金では平均労働時間が年2000時間、賃金は503万円である。労働時間は最低でも300時間減少する必要があり、賃金では60%上昇する必要がある。正規雇用では90%、非正規雇用では265%も時間当たり生産性が上昇する必要があるのだ。これは、日本の生産性上昇率が高い時でも2%しかないことを考えると、72の法則から日本の正規雇用で36年、非正規雇用で80年近く経ってようやくこの生産性を達成できるといえる。
80年はともかく、36年は現実的な数字ではある。しかし、これを待っている訳にはいかない。天動説ではあまりに遠すぎる。そこで、これら三点を克服するような発想の転換が必要となるのだ。つまり、賃金や表層的な経済成長以上に「一般的な選択肢では最大限の自由」を達成することを目的としなければならない。この方法についてどのように立ち回るかを考えることが本章の存在目的である。

あとがき

生きがいについてより深く理論を知る場合には、『幸福の資本論』よりも、『イノベーション・オブ・ライフ』『SQ 生き方の知能指数』『本物のリーダーとは何か』『さあ才能に目覚めよう』『トータル・リーダーシップ』などを参考頂きたい。

著書を選ぶ際は、下記のルールに則って読むのがオススメだ。
実践者(インテグラル理論の内面、行動の部分を正確に言及)、アカデミック(インテグラル理論の文化、社会の部分を言及)というように、四事象全てについてより一次資料に近いものから参考頂きたい(そういう意味ではこの文章さえネガキャンしていると言えるが、できるだけThinkers50について語ることで進めていきたい)。(かつてはこうした本の選び方を知らなかった)


また、重要なことだが、『究極の生きがいがそれに至るために必要な要素を揃える』のであって、生きがいとはある条件を満たすことで得られる感覚のことでは厳密にはない。

金融資本・人的資本・社会資本が幸福を生み出すのではなく、幸福が世界の中から必要なものを集めるための第一歩なのだ。

天動説的「不足→得る→幸福」
地動説的「幸福→得る」

それは、幸福だと引き寄せの法則が生じて上手くいくといった類の話ではない。相関関係はあるだろうが、そもそも世界を変えるより自らの感情を変え、幸福になることは遥かに簡単なことなのだ。

インテグラル理論の4事象と生きがいの4事象は密接に対応している。

そして、その幸福を支える生きがいの4事象のうち、好きが最もコントロール可能だと捉えることもできる。

これが生きがいイノベーションの本質であり、究極型パラダイムにおける価値順序の変更である。

しかし、これは「今あることを好きになれ、そうすれば上手くいく」という話ではない。

そうではなく、「そうしたくてもどうしてもこれだけはそうしたい、そうでないと嫌だ」といったどうしようもない自らのエゴこそが重要であり、それこそが生きがいと密接に繋がっている、ということなのだ。

先に幸せになれば済む話なのに、これだけはどうしても達成してからでないと幸せになれない、という部分こそエゴ=自分自身なのだ。

そして、その自らのエゴとBeing(自らの存在そのもの)を一致させることが、エゴロジー経営であり、これの最終形態がBeing経営だと言える。

beingはwhyよりも中心に存在する。

こうして、インテグラル理論より常に少し強い関係を持つ生きがいの理論について、究極的な発達段階と合流させ、理論を構築する必要がある。

というよりも、クリアライトパラダイムより更に先の世界ではどうやら、インテグラル理論と生きがいの理論は合流するようだ。

以前はそれを生きがい型パラダイムと呼んでいたように。次回以降、さらにその合流に近い世界のアイデアノートを公開する。

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