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小説

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こちら時空管理局。何らかの影響によりこのアカウント内に小説が発生してしまった。パルス誘導システムを使用して、マガジンに閉じ込めておいた。もし興味があったら見ておいてくれ。以上
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#ショートショート

マルチバース桃太郎

マルチバース桃太郎

昔々、ある所におじいさんとおばあさんが───
おじいさんは芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に───

おばあさんが鬼ババ

すると、川上の方から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきました。
おばあさんは桃を拾い上げると、おじいさんのために家に持ち帰りました。さっそく桃を割ると、なんと中から男の子の赤ちゃんが。
おじいさんとおばあさんは大喜びして、さっそく赤ちゃんを解体し始めました。

乱視

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小説|独房|みかん

小説|独房|みかん

「こんにちわ」
パソコンのディスプレイに緊張した顔が浮かぶ。男はまだ新しそうなスーツを着て、シルバーグレイのネクタイをしていた。
「はいどうも、こんちにわ」
私は何百回も繰り返した返答をした。
男は、もう一度こんにちわと言いながら、画面に向かって頭を下げた。

「じゃあ、面接ということでちょっと緊張しているかもしれませんが、まあ、リラックスしていきましょう」
「はい! ヨロシクオネガイシマス!」

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短編小説|「「母さん」」

短編小説|「「母さん」」

スマホが鳴った。

画面を見ると、母さん、という文字が浮かんでいる。まったく仕事中は電話をしてくるなといつも言っているのに。
おれは、やれやれといった表情を3割増しで表すと、もったいぶって電話に出た。

「もしもし?」
「ああ、わたしだよ。母さんだよ」
「知ってるよ。で、何?」
「それが大変なんだよ」

第一声から、明らかに慌てている様子が伝わってくる。しかし、今は仕事中だ。おれは声を強めてこう言

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短編小説|スマホが鳴った2

短編小説|スマホが鳴った2

スマホが鳴った。

まったく非常識極まりない。今なんの時間だと思ってるんじゃ。けしからん。こんなときでもスマホスマホか。まったく近頃の若者たちは、最低限の常識も持っとらん。こそこそと電源を切るくらいなら、持って来なければいいだけの話じゃ。

そもそも、そんな物を肌身離さず持っている神経も分からん。人間それなりの経験を積んでいれさえすれば、何も持たずとも立派に生きていられる。なんでもかんでも機械に頼

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短編小説|しっそうした女

短編小説|しっそうした女

探偵というなんでも屋の仕事をしている俺の元に依頼が入った。女を捕まえてくれ、というものだった。おかしな頼み方だなと思ったが、金になるなら俺はやる。詳しく事情を聞いてみることにした。

しかし、男は妙に落ち着かない様子で今にも事務所を飛び出しそうな勢いである。いったい何があったんですか、と聞いても
「早く彼女を捕まえてくれ。早くしないと行ってしまう」
というばかりである。

ははあ、なるほどな。どう

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短編小説|スマホが鳴った

短編小説|スマホが鳴った

スマホが鳴った。

「今何してる?」
俺は、またか、と独り言を言った。
「今からメシ」
と簡単に返信してスマホを置こうとした、その瞬間すぐに返信が来た。
「何食べるの?」
俺はふたたびスマホを持ち上げて
「おにぎり」
とだけ打ちこんで送った。

今度こそスマホを置き、おにぎりのパッケージを開封する。ガサガサという音だけがする。この場所は実に静かである。集中するにはもってこいの場所だ。

スマホが鳴

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短編小説|飛び降りてください

短編小説|飛び降りてください

「このマンションに引っ越したいのですが」

吉田が選んだのは、しばらくワイドショーを賑わせている物件で、世界一の超高層マンションとして有名になっていた。

特に最上階までの10フロアにいたっては一般人が住めるような家賃ではなく、仮に入居が決まったら扱いは有名人にも引けを取らなかった。入居が決まるたびに、その人物の人となりがニュースに取り上げられ、最上階の住人はテレビに引っ張りだこになっている。

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ショートショート|しゃべる思い出

ショートショート|しゃべる思い出

「ここ、ぼくの秘密の場所なんだ」
「わぁ、素敵ね」 
 海沿いの公園で、二人はベンチに座っていた。海面をはさんで向こう側には、高層ビル群のイルミネーションが見える。
 湿った潮風が由美子の髪を揺らし、茂の鼻先を吹き抜けていった。
「由美子さん」
 茂は汗ばんだ手のひらを握りしめて言った。
「は、はい」
 由美子も緊張している。
「ぼ、ぼくと・・・」
 そのとき茂の耳から甲高い声が漏れてきた。
「懐

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小説|あの頃のように

小説|あの頃のように

茂が休日出勤に疲れ切って帰ると、妻であるリカが悩ましい顔でキッチンに立っていた。

「どうした、難しい顔して」そう言うと、茂は手に持っていた背広を椅子の背もたれにかけた。
「別にどうもしてないわよ?」リカの眉間からシワが消え、いつもの笑顔に戻った。

「どうもしてないのか」
「ええ、どうもしてないわ」
「そうか、どうもしてないんだな」
「どうもしてないわよ」

 茂はリカを五秒ほど見つめると、背広

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ショートショート|ホワイトラン

ショートショート|ホワイトラン

大勢の仲間たちと走り出してから、どれだけ経っただろうか。
足の踏み場もないほどいた俺たちは、もう半分ほどになった。
出発前に話していた友人は、走り出した途端に力尽きてしまい、群衆の中へとあっという間に消えた。

友人といっても、数時間前に知り合っただけで長い付き合いではない。
そしてそれは俺だけに限ったことではなく、ここにいるほぼ全ての俺たちがそうに違いなかった。

数時間前から数日前、同じ場所へ

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小説|この世のありとあらゆる

小説|この世のありとあらゆる

生体認識完了。シリコン製アーム感度調節、調節完了。コード読み込み中。

私は今、白いベッドの上に裸で寝転んでいる。体中には電極がこれでもかと貼り付けられ、細かい一挙一動も全てコンピュータへと記録される。
今こうして考えていることも、おそらく記録されているだろう。
多少の恐怖心を感じる。まだ誰も受けたことのない試験なので、それは仕方のないことだ。

コード読み込み完了。試験開始まで五秒前。

なんの

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ショートショート|おみくじ

ショートショート|おみくじ

俺はその日、山の中腹にある神社でおみくじを引いた。おみくじを開くとそこには「即凶」と書かれている。
なんだこれはと思っていると、それを見た住職が血相を変えて逃げて出した。すると突然、本殿が傾きこっちに向かって倒れてきた。おれは慌てて参道を引き返して逃げ出すと、ちょうど狛犬の乗っている台座の耐震強度がゼロになり2つとも重なるように落ちてくる。ハの字になって落ちてくる狛犬の隙間を、転がるようになんとか

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ショートショート|おかしくはない

ショートショート|おかしくはない

2階の部屋にいると、突然ベランダに大きく黒いものが落ちてきてもおかしくなかった。それはカラスで、頭がふたつあり羽は4つあってもおかしくなかった。

おれは驚いて尻もちをついてもおかしくはなかったし、その拍子に手に持っていたビールを床に落としてもおかしくはなかった。

空は晴れていて、春先のような風がふいていてもおかしくはない。目の前のベランダにある、このカラスのような化け物だけが違和感を放っていて

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超短編小説|忙しい

超短編小説|忙しい

最近忙しい。

いや、最近というかずっと忙しいような気もする。でも忙しいのは間違いないかも。だって休む暇が無い。もうずっと動きっぱなしで、とにかく大変です。

なんかもう寝てる暇もない。そんな感じがずっとしてる。寝てる暇がない、というのは大抵比喩的に使われるのだけれども、僕の場合は本当に寝てる暇がない。

だってもう寝たら大変だもの。もう本当に大変なことになる。だから寝る暇がない。

たまに少しだ

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