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ショートショート|おみくじ

俺はその日、山の中腹にある神社でおみくじを引いた。おみくじを開くとそこには「即凶」と書かれている。
なんだこれはと思っていると、それを見た住職が血相を変えて逃げて出した。すると突然、本殿が傾きこっちに向かって倒れてきた。おれは慌てて参道を引き返して逃げ出すと、ちょうど狛犬の乗っている台座の耐震強度がゼロになり2つとも重なるように落ちてくる。ハの字になって落ちてくる狛犬の隙間を、転がるようになんとか抜け出すと、勢いそのままに階段を転がり落ちた。

真ん中にある踊り場でやっと止まったが、全身をしこたま打ち付けたうえ頭からは血が滴り落ている。あまりの痛みに意識朦朧としていると、空に雷鳴がとどろき、あっという間に黒い雲で覆われてしまった。

いったいこれはなんだと思う暇もなく、ぶっとい雷がこれまたぶっとい御神木めがけて落ちてきた。

鼓膜がひしゃげるような音と光が俺を襲った。思わず両耳を塞ぎしゃがみ込む。数秒か数十秒の後、キーンという耳鳴りに混じって、ゴロゴロとバキバキがめちゃくちゃになった音が近づいてきた。

はっとして見上げると、折れた御神木が階段脇の木々をなぎ倒しながら転がってくる。

俺は一目散に走り出し、階段を駆け下りた。下りきると同時に、真後ろにご神木が落ちた。はずみで大きな敷石がテコの原理で跳ね上がり、俺は数メートル飛び上がってしまった。

ちょうどそこへ走ってきたトレーラー・トラックの屋根に着地すると、体中の痛みが再び全身を駆け巡り、俺はばったりと倒れ込んでしまった。

しばらくしてはっと目を覚ますと、トラックは街中を走っている。その瞬間、前に老人が飛び出してきた。トラックが急ブレーキをかけると、俺は屋根からカタパルト発進のごとく発射された。

その先には銀行があり、今まさにピストルを片手に強盗に押し入ろうとしている男がいる。俺はその強盗にぶつかると、一緒になって路上にぶっ倒れた。

どうやら強盗がクッションになったおかげで、俺は意識があるようだ。やおらに立ち上がり、気がついた。なんと手元に落ちていたピストルを、無意識に持ってしまったようだった。

すると、ちょうどそこに駆けつけた警官が俺を銀行強盗と勘違いし、サスマタとアクリルの盾を振りかざして突進してきた。俺は銀行のすぐよこにある建物の隙間に逃げ込んだ。狭い通路をなんとか抜け、ビルの裏手に曲がった瞬間、男とぶつかった。

ビルの外壁に頭を打ち付け、そのままぶっ倒れる男。しかし、足元にはもうひとりの男が倒れており、胸の辺りから大量に出血していた。

すぐさま先程の警官が追いつくと、この光景を目にして驚愕した。俺は自分がやったのではないという意思をしめそうと、両手を前に突き出した。しかし、左手にはピストル、そして男とぶつかったはずみで右手にはいつの間にか血まみれのナイフが握られていた。

警官はすばやくホルスターのロックを外し、拳銃を俺に向かってかまえた。

こうなってしまったらもう正直に話そうと思った瞬間、近所の子供が遊んでいたかんしゃく玉が破裂した。それに驚いた警官は、やたらめたらに拳銃を発泡してきた。その一発がナイフを持っていたであろう男の額を撃ち抜いたのを見て、俺は再び走り出した。

銀行強盗、銃刀法違反、殺人の疑いをかけられてしまった俺が表に飛び出すと、そこでは玉突き事故の処理をしていた警官隊がいた。

そして、拳銃片手に追いかける警官が姿をあらわすと、警官隊はすぐさまこの状況を理解し、その場に居た全ての警官が拳銃をかまえた。

俺は今度こそ釈明しようと、凶器を地面に捨て、膝をついた。

その瞬間、さっき警官が撃った弾のひとつが当たったヘリコプターが、俺の上に墜落してきた。



───そんな風景が見えた俺は、その隣のおみくじを引いて事なきを得た。


サブタイトル「予知能力」

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