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【忘れるコトは人生の救い】〜彼女の写真〜

すべて消したはずだったのに。
20代前半の頃まで付き合っていた彼女の写真を見てしまった。もう10年も前の写真。

共依存で共倒れになり、記憶から失くすために、別れてすぐに、スマホの画像フォルダから彼女の写真をすべて削除したのは覚えている。

10年後の現在まで、まさか、LINEのKEEP機能に消し忘れが残っていたなんて。

写真の中の彼女は、僕の隣で幸せそうに微笑んでいて、日常的に僕にしていた暴力や、自傷行為の片鱗も感じさせなかった。

何より恐ろしいのは、その写真が昨日撮ったかのように感じられたこと。時間軸が部分的に切り取られ、この10年間がすっ飛ばされてしまったような感覚。

10年振りに彼女の顔を見たことに驚き、呼吸を乱しているうちに、当時の記憶が鮮明に蘇り、シャッターを続けて切るように、僕の頭の中に映し出された。

その中には、辛い記憶だけでなく、幸せだった想い出も混じっていた。そんなもの、今さら思い出したくなかった。

スマートフォンの写真は、セピア色に褪せ、薄くぼやけていくことがない。保存か削除かの二択。時の流れを反映しない。

今日、10年前の彼女の写真を見た瞬間、ようやく忘れることできていた残酷な記憶が、突如リアルに、目の前に突き付られた。


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