記事一覧
心お弁当【毎週ショートショートnote】
空のお弁当箱から折り鶴をつまみ上げる。メモ用紙で作られた折り鶴の羽にごめんの文字が見えた。この作者である同棲中の恋人、晃太はかなり意地っ張りな性格だ。
包装紙で出来たクマの隣に折り鶴を並べる。ずらりと並んだ動物達には、ごめん、すまなかった、今後は気をつける、何か欲しいものあるか等とメッセージが隠れていた。
喧嘩するたびに、お弁当箱の中に忍ばせてくるのだ。どんな時でも残さず食べてくれるのは嬉し
大増殖天使のキス【毎週ショートショートnote参加作品】
天使育成ゲームアプリは大勢の人々にダウンロードされた。天使には九つの階級があり、初期設定は一番下のエンジェルから始め、一番神に近いセルフという天使を目指す。
「レベル上げ成功!」
万引き少年への説得が成功するとポイントが入り、見過ごすとサタンに取り憑かれ、レベルが下がる。下から六つ目のドミニオンという階級まで上り詰めていたが、些細なミスが命取りで気が抜けなかった。
「使い時に迷うなあ」
ポイ
失恋墓地【毎週ショートショートnote参加作品】
「次はここ!」
お化け屋敷の前で茉莉花が言った。
「カップルは必ず別れるってジンクス、知らない?」
「気にしないわよ」
怖がる様子もなくズンズン進む。
「井戸から幽霊ってベタねえ」
機械仕掛けの幽霊がぎこちなく上下運動していた。
「墓地か」
「変な声しない?」
「いや」
「待って、元カレの声に似てる」
「ただのうめき声だろ?」
「いいえ!『俺が悪かった。もう一度やり直そう』って。やっぱり、彼
5次会擬似クラス招集【毎週ショートショートnote裏お題参加作品】
5次会ともあれば、こいつ誰だよっていう輩が紛れ込んでいる。でも今夜はしたたかに酔っていて気付かなかった。こいつ誰だよは、自分だと言う事に。
「どこのクラスだっけ?」
とろんとした目の男が俺を指差す。
「えーと、三組」
「三組っていうとよっちんと同じクラスか」
もちろんよっちんを俺は知らない。
「あいつ、まーと結婚したんだぜ?」
「へ、へえ」
今でもあだ名で呼び合う程仲が良いなんて羨ましいと
2次会デミグラスソース【毎週ショートショートnote参加作品】
「ガーデンテラスまでお進み下さい。皆様に参加して頂きたいのは、『2次会デミグラスソース』作りです」
レストランの案内係が大きな鍋の前で言った。
「ベースのデミグラスソースは出来ております。そこに、お好きな食材を投入して頂きます」
皿に載せられているのは、マシュマロやチョコレート、その他にはレーズン、木苺などの果物だった。
「お一方ずつお願いします」
私はピンクのマシュマロを一つ、トングでつま
宝くじ魔法学校【毎週ショートショートnote参加作品】
宝くじに当たったら、そのお金で学校を作らないかと怪しげな団体に声をかけられた。ファンタジー映画に出てくる黒の三角帽子とマント姿の連中に追い回され町中を逃げ回った。
「君の力を貸して欲しい」
「……クソ、何で……平気、なんだ」
息も絶え絶えの俺にマント集団は平然と見下ろしていた。
「力って金だろ?」
一番偉そうな白い髭の男がニコリと笑った。
「こうしては如何かな? 見たところ、就職活動中のよう
告白雨雲【毎週ショートショートnote参加作品】
舞台に立つ咲良の顔に閃光が走った。スクリーンに映し出された雨雲から雨が降り始める。
「犯人は……あなたよ!」
空気を切り裂くように指を差した瞬間、雷と雨音がさらに激しくなる。その指は客席に座る啓太に向いていた。
「観念して告白するのです!」
ぴたりと動きを止めた咲良に拍手をした。
「さすが期待の新人女優だな」
咲良は高校の演劇部に所属していた。
「……おかしいなあ」
深いため息をつき舞台
棒アイドル【毎週ショートショートnote応募作品です】
木枯らしが枯葉を巻き上げた。薄曇りの公園で走り回り、うっすら汗をかく娘のそばで冷えてきた腕をさすった。買い物帰りに少しだけという約束で寄ったが、すでに四十分は遊んでいた。
「そろそろ帰ろう」
「やだ。これ全部拾う」
「どんぐり?」
背後から少年が長い木の枝を持って娘の手のひらを覗き込んだ。急に話しかけられた娘はぎょっとして固まり、手からどんぐりがぽとりと落ちる。
「あっ」
当の少年は公園の中
再会 【2000字のホラー】
「ママ、眠い」
「肩にもたれていいわよ」
「苦しくない?」
「大丈夫よ」
妊娠中のつわりがひどい時期は幸樹を甘えさせてあげられなかったのを申し訳ないと思っていた。
幸樹が小学一年生になって初めて挑んだピアノの発表会の帰りだった。極度の緊張から解放された安堵からだろう。バスの揺れも相まってすぐに寝息を立て始めた。夕方五時を過ぎた日曜日のバスはほぼ席が埋まっている。安定期に入ったとはいえ、長丁場の
チャリンチャリン太郎【毎週ショートショート参加作品】
神社のアイドル猫、太郎に似せて招き猫が作られた。誰が言ったかその名はチャリンチャリン太郎。招き猫を振り、チャリンチャリンと涼やかな音が鳴ると願いが叶う。ジャリジャリ、ジャンジャン等と濁った音がするなら、それは叶わないという。
そこに一人の気弱そうな男がやってきて、チャリンチャリン太郎を抱えた。
「お、重い」
病み上がりのその男には持ち上げるだけでもしんどい様だ。
「にゃーん」
モデルになっ
おにぎりの中身は? #2000字の小説#あざとごはん
他人の生活音や馴染みのない音楽が、隣の部屋から聞こえてくるのが不快でヘッドホンを付けた。テレビで再生したのは、何度となく観た映画の続きだ。結末を知っている映画は、新鮮味がない代わりに安心して見ていられる。
コロナ禍で在宅勤務になり、会社の面倒な飲み会や人付き合いをしなくて済むのを快適に感じながら、深夜に目が覚めて水を飲んでいる時、孤独感に襲われる。その両端にある感情は、とても厄介だ。
空腹を
カミングアウトコンビニ【毎週ショートショートnote応募作品】
男性客がお酒の棚にある読み取り機に会員証をかざした。ここ、無人コンビニでお酒を買うには、事前登録した携帯電話のアプリか、会員証が必要だ。
男子高校生の二人がニヤニヤしながらレジにやって来たが、『私』が雑誌名と価格を言うと、急に恥ずかしくなったのか、もじもじし始めた。
「その雑誌、兄ちゃん達には刺激が強いんじゃねーか」
「す、すみません」
二人は雑誌を戻し、そそくさと出て行った。
「邪魔者はい
ショートショート王様【毎週ショートショートnote応募作品】
「タイトルは小さい小さい王様の方が……」
「それじゃ、絵本のパクリだと思われるよ」
ショートショート王様はパクリじゃないのかと思いながら、常連客の絵本作家に珈琲を注いだ。
「今回のお題は難しいな」
ショートパスタの穴をじっと見つめ始めた。
「何か閃きました?」
「グリーンピースは入るかな?」
「絵本の話じゃないんですか!」
「怒る事ないじゃないか」
グリンピースをパクリと食べた。
「短気で短