射谷友里(イテヤユリ)

ショートショートや短編を書いています。 シナリオも勉強中です! 宜しくお願いします。

射谷友里(イテヤユリ)

ショートショートや短編を書いています。 シナリオも勉強中です! 宜しくお願いします。

マガジン

  • 坊ちゃん文学賞 応募作品

    坊ちゃん文学賞に応募した作品です。 少し不思議なショートショートのつもりで書きました。 少し歪んだ少女の恋の話です。

  • ショートショート集

    noteで発表したショートショートをまとめていきます

  • TO-BE小説工房 応募作品

    一年間、応募していた課題作品をまとめていきます。

  • noteショートショート杯 応募作品

    少し不思議なショートショート作品集です。

最近の記事

  • 固定された記事

ハーモニアスカフェへようこそ

 夕方六時。清水はカフェ『ハーモニアス』の看板の周りを掃除していると、カフェのオーナーである市川が年末の挨拶回りから戻って来た。 「清水くん。今日は悪かったね。店の営業は休みにしようと思ってたんだが、常連さんに夜だけでも早めに開けて欲しいと言われてね」 「いえ。暇してたので。それより市川さん。今日のフードメニューはカレーとサンドイッチのみですか?」  市川が企画した年越しイベントの為に、清水ともう一人のアルバイトが駆り出されていた。 「そうだね。今日は九時からのイベントに合わ

    • 心お弁当【毎週ショートショートnote】

       空のお弁当箱から折り鶴をつまみ上げる。メモ用紙で作られた折り鶴の羽にごめんの文字が見えた。この作者である同棲中の恋人、晃太はかなり意地っ張りな性格だ。  包装紙で出来たクマの隣に折り鶴を並べる。ずらりと並んだ動物達には、ごめん、すまなかった、今後は気をつける、何か欲しいものあるか等とメッセージが隠れていた。  喧嘩するたびに、お弁当箱の中に忍ばせてくるのだ。どんな時でも残さず食べてくれるのは嬉しい。それが晃太の大嫌いな青椒肉絲ならなおさらだ。涙目になりながらピーマンを食べる

      • 貯金箱釣り

        「料金は一時間千円です。もし時間内に一匹も釣れなかった場合はお好きなミニ貯金箱を差し上げております」  ビニールプールの中には握り拳大のカラフルな魚が泳いでいた。 「本物の魚に見えますね」 「泳ぐ貯金箱、『ぱく貯くん』です」  赤い出目金が水面の上まで来て、ぱかっと口を開けた。 「あっ」 「見えましたか? そのぱく貯くん達にはあらかじめ五十五円分を貯金してあります」 「そうなんですね。可愛いです」 「有難うございます。ミニサイズの販売もしておりますので、お求めの際は受付にお申

        • 大増殖天使のキス【毎週ショートショートnote参加作品】

           天使育成ゲームアプリは大勢の人々にダウンロードされた。天使には九つの階級があり、初期設定は一番下のエンジェルから始め、一番神に近いセルフという天使を目指す。 「レベル上げ成功!」  万引き少年への説得が成功するとポイントが入り、見過ごすとサタンに取り憑かれ、レベルが下がる。下から六つ目のドミニオンという階級まで上り詰めていたが、些細なミスが命取りで気が抜けなかった。 「使い時に迷うなあ」  ポイントで購入可能な、『大増殖天使のキス』というアイテムは自キャラを十倍にし、一気に

        • 固定された記事

        ハーモニアスカフェへようこそ

        マガジン

        • 坊ちゃん文学賞 応募作品
          2本
        • ショートショート集
          28本
        • TO-BE小説工房 応募作品
          7本
        • noteショートショート杯 応募作品
          16本

        記事

          失恋墓地【毎週ショートショートnote参加作品】

          「次はここ!」  お化け屋敷の前で茉莉花が言った。 「カップルは必ず別れるってジンクス、知らない?」 「気にしないわよ」  怖がる様子もなくズンズン進む。 「井戸から幽霊ってベタねえ」  機械仕掛けの幽霊がぎこちなく上下運動していた。 「墓地か」 「変な声しない?」 「いや」 「待って、元カレの声に似てる」 「ただのうめき声だろ?」 「いいえ!『俺が悪かった。もう一度やり直そう』って。やっぱり、彼には私しかいないのよ!」  感極まった茉莉花は走り去って行った。 「彼女はクロで

          失恋墓地【毎週ショートショートnote参加作品】

          5次会擬似クラス招集【毎週ショートショートnote裏お題参加作品】

           5次会ともあれば、こいつ誰だよっていう輩が紛れ込んでいる。でも今夜はしたたかに酔っていて気付かなかった。こいつ誰だよは、自分だと言う事に。 「どこのクラスだっけ?」  とろんとした目の男が俺を指差す。 「えーと、三組」 「三組っていうとよっちんと同じクラスか」  もちろんよっちんを俺は知らない。 「あいつ、まーと結婚したんだぜ?」 「へ、へえ」  今でもあだ名で呼び合う程仲が良いなんて羨ましいと思っていたら、店の外から呼び声がした。 「やべっ。間違えてた」 「えっ」  男は

          5次会擬似クラス招集【毎週ショートショートnote裏お題参加作品】

          2次会デミグラスソース【毎週ショートショートnote参加作品】

          「ガーデンテラスまでお進み下さい。皆様に参加して頂きたいのは、『2次会デミグラスソース』作りです」  レストランの案内係が大きな鍋の前で言った。 「ベースのデミグラスソースは出来ております。そこに、お好きな食材を投入して頂きます」  皿に載せられているのは、マシュマロやチョコレート、その他にはレーズン、木苺などの果物だった。 「お一方ずつお願いします」  私はピンクのマシュマロを一つ、トングでつまんで鍋に入れた。他の人がそうしている様に、お玉でぐるぐるとかき混ぜる。綿あめみた

          2次会デミグラスソース【毎週ショートショートnote参加作品】

          宝くじ魔法学校【毎週ショートショートnote参加作品】

           宝くじに当たったら、そのお金で学校を作らないかと怪しげな団体に声をかけられた。ファンタジー映画に出てくる黒の三角帽子とマント姿の連中に追い回され町中を逃げ回った。 「君の力を貸して欲しい」 「……クソ、何で……平気、なんだ」  息も絶え絶えの俺にマント集団は平然と見下ろしていた。 「力って金だろ?」  一番偉そうな白い髭の男がニコリと笑った。 「こうしては如何かな? 見たところ、就職活動中のようだ。職員として働いてみては?」 「教員免許なんて持ってねえよ」 「そんなもの無く

          宝くじ魔法学校【毎週ショートショートnote参加作品】

          告白雨雲【毎週ショートショートnote参加作品】

           舞台に立つ咲良の顔に閃光が走った。スクリーンに映し出された雨雲から雨が降り始める。 「犯人は……あなたよ!」  空気を切り裂くように指を差した瞬間、雷と雨音がさらに激しくなる。その指は客席に座る啓太に向いていた。 「観念して告白するのです!」  ぴたりと動きを止めた咲良に拍手をした。 「さすが期待の新人女優だな」  咲良は高校の演劇部に所属していた。 「……おかしいなあ」  深いため息をつき舞台を降りた。 「何が?」 「この舞台装置を使えば告白させられるって聞いたのに」 「

          告白雨雲【毎週ショートショートnote参加作品】

          棒アイドル【毎週ショートショートnote応募作品です】

           木枯らしが枯葉を巻き上げた。薄曇りの公園で走り回り、うっすら汗をかく娘のそばで冷えてきた腕をさすった。買い物帰りに少しだけという約束で寄ったが、すでに四十分は遊んでいた。 「そろそろ帰ろう」 「やだ。これ全部拾う」 「どんぐり?」  背後から少年が長い木の枝を持って娘の手のひらを覗き込んだ。急に話しかけられた娘はぎょっとして固まり、手からどんぐりがぽとりと落ちる。 「あっ」  当の少年は公園の中央に人の輪が出来ているのを見つけ一目散に駆けていく。 「何だろうね」  慌てて娘

          棒アイドル【毎週ショートショートnote応募作品です】

          再会 【2000字のホラー】

          「ママ、眠い」 「肩にもたれていいわよ」 「苦しくない?」 「大丈夫よ」  妊娠中のつわりがひどい時期は幸樹を甘えさせてあげられなかったのを申し訳ないと思っていた。  幸樹が小学一年生になって初めて挑んだピアノの発表会の帰りだった。極度の緊張から解放された安堵からだろう。バスの揺れも相まってすぐに寝息を立て始めた。夕方五時を過ぎた日曜日のバスはほぼ席が埋まっている。安定期に入ったとはいえ、長丁場の発表会は思っていた以上にしんどかった。 「大丈夫ですか?」 「えっ?」  その相

          再会 【2000字のホラー】

          チャリンチャリン太郎【毎週ショートショート参加作品】

           神社のアイドル猫、太郎に似せて招き猫が作られた。誰が言ったかその名はチャリンチャリン太郎。招き猫を振り、チャリンチャリンと涼やかな音が鳴ると願いが叶う。ジャリジャリ、ジャンジャン等と濁った音がするなら、それは叶わないという。  そこに一人の気弱そうな男がやってきて、チャリンチャリン太郎を抱えた。 「お、重い」  病み上がりのその男には持ち上げるだけでもしんどい様だ。 「にゃーん」  モデルになった猫も応援にやって来た。 「僕は健康体になりたい!」  チャリンチャリン……。涼

          チャリンチャリン太郎【毎週ショートショート参加作品】

          ビール傘【るーびー傘】毎週ショートショートnote参加作品

           ツートンカラーの鳥の人形が並々と注がれたビールを啄んだ。鳥の人形が飲んだビールは、小さなビニール袋の持ち手へと吸い上げられ、ビニール傘の中に溜まって行く。 「ビール飲み人形?」 「かわいいだろ? ビール傘って言うんだ」 「これを見せるためにボックス席にしたの?」  球場のボックス席はゆったりくつろげるテーブル席だ。 「人気のある席だから取れるかどうか分かんなかったけどな」 「これ、鳥って言うよりペンギ……」  最後まで言う前に彼に口をふさがれた。 「しっ。それは禁句だ」  

          ビール傘【るーびー傘】毎週ショートショートnote参加作品

          おにぎりの中身は?   #2000字の小説#あざとごはん

           他人の生活音や馴染みのない音楽が、隣の部屋から聞こえてくるのが不快でヘッドホンを付けた。テレビで再生したのは、何度となく観た映画の続きだ。結末を知っている映画は、新鮮味がない代わりに安心して見ていられる。  コロナ禍で在宅勤務になり、会社の面倒な飲み会や人付き合いをしなくて済むのを快適に感じながら、深夜に目が覚めて水を飲んでいる時、孤独感に襲われる。その両端にある感情は、とても厄介だ。  空腹を感じて再び冷蔵庫を開けるが、ミネラルウォーターと発泡酒と好物のチーズ蒲鉾しか入っ

          おにぎりの中身は?   #2000字の小説#あざとごはん

          カミングアウトコンビニ【毎週ショートショートnote応募作品】

           男性客がお酒の棚にある読み取り機に会員証をかざした。ここ、無人コンビニでお酒を買うには、事前登録した携帯電話のアプリか、会員証が必要だ。  男子高校生の二人がニヤニヤしながらレジにやって来たが、『私』が雑誌名と価格を言うと、急に恥ずかしくなったのか、もじもじし始めた。 「その雑誌、兄ちゃん達には刺激が強いんじゃねーか」 「す、すみません」  二人は雑誌を戻し、そそくさと出て行った。 「邪魔者はいなくなったな」  男性客は小説とカップ酒をレジに置くと、「おすすめは?」と言った

          カミングアウトコンビニ【毎週ショートショートnote応募作品】

          ショートショート王様【毎週ショートショートnote応募作品】

          「タイトルは小さい小さい王様の方が……」 「それじゃ、絵本のパクリだと思われるよ」  ショートショート王様はパクリじゃないのかと思いながら、常連客の絵本作家に珈琲を注いだ。 「今回のお題は難しいな」  ショートパスタの穴をじっと見つめ始めた。 「何か閃きました?」 「グリーンピースは入るかな?」 「絵本の話じゃないんですか!」 「怒る事ないじゃないか」  グリンピースをパクリと食べた。 「短気で短命な王様……気の毒だな」 「絵本の主人公ですよね? そのイラストは何です?」 「

          ショートショート王様【毎週ショートショートnote応募作品】