マガジンのカバー画像

すーこ短編小説まとめ

50
私の書いた短編小説(ショートショート含む)のまとめページです。 読者のみなさま、いつもスキをありがとうございます。
運営しているクリエイター

#短編小説

イチゴ舞う校庭で

イチゴ舞う校庭で

目次

 うわ、懐かし。これ、小学校のときのだ。この前、母さんと掘り出した本をパラパラとめくっていると、小学校のとき作ったイチゴジャムのことが書いてある。この頃、俳句の授業もあったからか、もう俳句詠んでる、俺。「舞」と「僕」が画数多くて不恰好になってるな。

 小学校五年生のとき、イチゴをみんなで育てていた。五、六年はクラス替えがないうえ、どうも先生も持ち上がりらしいから、初夏になったらみんなで収

もっとみる
花町風子のおなかいっぱい胸いっぱい

花町風子のおなかいっぱい胸いっぱい

Special Thanks

「あら花町さん! 今日はどちらへ?」
「ちょっとそこまで」
 エレベーターで一緒になった他部署の同僚と、たわいもない話をしながら外へ出ます。彼女はコンビニへ行くよう。私もいつもお世話になっているコンビニです。そこで別れて、私は大通りの横断歩道を渡ります。

 大通りをしばらく進むと、左手に見えてきますよ。ほら、都会のビル街でひときわ目を引く、あの昔ながらの喫茶店。名

もっとみる
指輪なら、はなまる指輪専門店へ

指輪なら、はなまる指輪専門店へ

 ポストの中身を整理していると、春色の葉書が目に入った。埃を被った小箱に目を遣る。あの指輪を蘇らせられるのだろうか。

 カランカラン。重い扉を引くと、古風な喫茶店風の店内で、にこにこ顔の若い女性と初老の男性が迎えた。
「いらっしゃいませ」
「この葉書を読んで来たんですが」
「ありがとうございます。こちらにおかけください」
 椅子に腰かけ、鞄から指輪を取り出す。
「この指輪を直していただけないでし

もっとみる
金魚、家族、同僚と、僕

金魚、家族、同僚と、僕

目次

 咳をしても金魚。風邪が長引いていて、それでも金魚の水かえをする。金魚は繊細でもろく、定期的に水かえをしないとすぐはかなくなることを知っているから。

 まず、今の水、水草とともに、バケツにそっと移す。いきなり環境が変わると、ストレスで体調を崩してしまうから。バケツはある程度高さが必要だ。水も入れすぎない。金魚が跳ねて、外に飛び出して瀕死になるのを防ぐために。決して体に触れてはならない。人

もっとみる
ライラックぽん 掌編・短編小説5編

ライラックぽん 掌編・短編小説5編

おはようよねちゃんさん

riraさん

くーや。さん

ぽんっ!📕

「ねえみて!」
「わあ!」
「おもしろいね~!」
「こっちも!」
「かわいい~!」

 外から子どもたちの声が聞こえる。4月もそろそろ終わる。あの子たちは、今年の新入生ね。この前あいさつ当番をしたとき、教えてもらったの。この前はまだ緊張と不安で硬い表情の子もいて、バラバラにあいさつしてくれたけど、すっかり仲良くなったのね。よ

もっとみる
星になったあなたと

星になったあなたと

目次

 凍った星をグラスに。ひとり、夜空の星を見上げ、グラスを傾ける。琥珀色の梅酒の中を泳ぎながら、星の形の氷がキンと音を立てる。

 ねえ、あなた、覚えてる? 星のゼリーと氷を作ったこと。まだ年少の葵の夏休みの宿題で、「家族でおやつを作りましょう」っていうのがあったじゃない。ゼリーを作って、みんなで星型で抜いて、果物の缶詰めをシロップごとグラスに入れて、サイダーを注いで、星の形のゼリーを浮かべ

もっとみる
追憶の手紙

追憶の手紙

目次

 透明な手紙の香り。それは五月の風に乗って、かすかに薫った。

「きれいな茜色だなぁ」
「え?」
「え?」
 それが、藍さんとの出会いだった。
「ごめんなさい。独り言でした。お恥ずかしい」
「いえいえ。思わず口から漏れるほどに、たしかにこの空は美しいですよね」
「そうなんですよ! 空や自然が好きなんですよね。この茜色の空も綺麗で好きだ。木々や家々が黒々としていて、その対比も含めて美しい。燃

もっとみる
光る種の効能

光る種の効能

目次

 手渡されたのは光る種。

 僕が歯磨きから戻ると、お母さんが、泣いていた。僕のために、泣いていた。僕は大丈夫だよ、お母さん。泣かないで。そう言うと、お母さんは、ぎゅうっと僕を抱き締めた。僕がお風呂から上がると、お母さんは、お父さんの写真の前でこうつぶやいていた。

「あなた、私のせいで、葵が傷ついてしまって、ごめんなさい。あなた、あなたに似て優しいあの子を、どうすれば私は守れるのかしら…

もっとみる
あなたのぬくもりが恋しくて

あなたのぬくもりが恋しくて

 今日も、次に夫に会う日のことばかり考えている。最近、出張が多い。結婚して24年になる。来年銀婚式を迎える私たちは、今でも仲が良く、夫は忙しさの合間を縫って、電話に出てくれたり、電話をかけてくれたりする。留守電に残してくれた夫の声を聴きながら、プロポーズしてくれたときのことを思い出した。

***

 24年前のクリスマスイブ。付き合って3年10ヶ月の記念日に、彼から誘われた。
「遊園地に、行きま

もっとみる
子守唄に抱かれて

子守唄に抱かれて

 もうすぐ始まる一人暮らしに向けて、私は荷物をまとめていた。こうして部屋の整理をしていると、卒業文集や日記、アルバム、何度も読み返してぼろぼろになった本、18年間がんばってきた勉強に使った教科書やノート、幼いときの宝箱……たくさんの懐かしい物たちが次々と見つかって、一向に荷造りが進まない。来週にはここを出る。そんな思い出の詰まった品々や、砂遊びをしたり水やりをしてきた庭、壁のシミ、馴染んだ部屋の様

もっとみる

アナウンス部SP大作戦~すまスパのみなさんへ捧ぐ

昨日、現「すまいるスパイス」メンバー全員集合のバレンタイン特別配信を拝聴しました。

抱腹絶倒の楽しい濃密なトークの一時間。
素敵なお声で耳が気持ちよくなり、話の持っていき方のうまさに感動し、誰も置いてきぼりにしない進行のおかげでみなさんにスポットライトが当たり、素敵な四名のみなさんのお人柄が感じられる配信で、あっという間に終わってしまいました。

「自分からは行けないけれど、追わ

もっとみる
酒のない居酒屋

酒のない居酒屋

 「酒のない居酒屋」がコンセプトだという。看板に惹かれてその店に入ったのは、金曜日の深夜だった。

「いらっしゃいませ」
「一人、なんですけど」
「お好きな席へどうぞ」
 店内をぐるりと見回して、カウンターの一番隅の席に腰を落ち着ける。金曜日なのに、客は私一人。先輩と居酒屋に行くと、深夜でも金曜日は満席ばかり。こんなに静かな居酒屋は初めてだった。
「こちら、おしながきです。ごゆっくりお選びください

もっとみる
赤いマントの小さなヒーロー

赤いマントの小さなヒーロー

🐼🟥🐼

 ヒカルは、ヒーローに憧れていた。取り立てて得意なことがあるわけではないけど、あこがれるのは自由だ。困っている人がいれば颯爽と現れ、華麗に助け、去っていく。(そんなヒーローにぼくもなりたい。)ヒカルはそんな思いを抱きながら、大好きな本の中のヒーローを真似て、去年クリスマスにもらった赤いマントを欠かさず羽織っている。これは、ヒカルにとって「正義のマント」なのだ。これを羽織ると、ヒカル

もっとみる
星に願いを

星に願いを

 高校二年の冬、僕たち三人は、ふたご座流星群を見に、とある屋上に上った。

 寒い寒い夜だった。
 小白千尋、平山賢治と、エレベーターで上がる。
「楽しみだね!」
 とびきりの笑顔が輝く彼女を連れて、賢治と僕は、屋上へと続く扉を開けた。

 頭上に星空が広がる。
「結構見えるもんだな。」
「そうだな。」
「綺麗ね。晴れてよかった。」
 街明かりの滲む星空に、彼女は目を輝かせる。

「寒くない?」

もっとみる