アナウンス部SP大作戦~すまスパのみなさんへ捧ぐ

昨日、現「すまいるスパイス」メンバー全員集合のバレンタイン特別配信を拝聴しました。

抱腹絶倒の楽しい濃密なトークの一時間。
素敵なお声で耳が気持ちよくなり、話の持っていき方のうまさに感動し、誰も置いてきぼりにしない進行のおかげでみなさんにスポットライトが当たり、素敵な四名のみなさんのお人柄が感じられる配信で、あっという間に終わってしまいました。

「自分からは行けないけれど、追われた途端怖くなり逃げてしまう」
Marmaladeさん、紫乃さんのこのお話が印象的で、うんうん頷きながら聞いていて、そのことを感想でお伝えしたところ、紫乃さんからこんなコメントをいただきました。

「自分からは行けないけれど、追われた途端怖くなり逃げてしまう」
もう~、これですよ、これ!!!
このことならもっと話せる😆
恋バナはあまりないけど、逃げバナならできる😆
あ、すーこさん、「逃げる話」どうですか???
ご執筆をぜひ!!(なんてね)

需要があるかどうかドキドキしながら、書いてみました。
ちゃんとご期待通りの「逃げる話」になっているでしょうか?
それとももっと恋愛寄り、もしくはサスペンス寄りに仕立てたほうがよかったかしら…なんて怖気づきつつ…
よろしければ、「すまいるスパイス」特別版をお聴きになった上で、読んでみてくださいね。
それでは、どうぞ。

📻️

笑喱咖えりか清実きよみ
 佐藤しのぶが改まった面持ちで、私たちに呼びかける。
「どうしたの、忍?」
「忍ちゃん?」
「今日、四コマ目の後、空いてたら少し付き合ってもらえないかな? 相談したいことがあるの」

***

 三コマ目の英語の授業の間中、頭の中は忍の揺らぐ瞳と少し震えた声でいっぱいだった。
 大学の放送サークルで知り合った私たちは、出身も学部もバラバラだったが、同じアナウンス部で妙に気が合って、知り合って一ヶ月も経たないうちに意気投合し、もうすぐ一年になる。サークルではラジオやラジオドラマを作って配信している。都合が合う日は、食堂に集まってお昼ごはんを一緒に食べるのがルーティーンになっていた。
 忍はお姉さん気質で落ち着いていて、おっとりとした鈴木清実や恋多き私をいつも気にかけてくれていた。私たちが相談することのほうが多く、忍から相談を持ちかけてくるなんて珍しい。不安そうな忍の顔が、頭から離れない。
「潮田! 聞いてるか?」
「へ? あぁ、先生、すみません! 聞いてませんでしたー」
 クラスがどっと笑いに包まれる。
「お前なぁ、ほら立て」
 照れ笑いを浮かべ、口元を押さえながら立ち上がる。
「えへへ、すみませんって。それで何でしょう?」
「この英文を訳してくれ」
「少女は走っていた。なぜなら、彼女はある男に追われていたからだ」
「よろしい。座っていいぞ」
 なんか、英語の例文って、不穏なのが多いなぁ、なんて思いながら席に着く。再び忍のことを考えていたら、チャイムが鳴った。さっさと筆記用具をカバンに入れて、早歩きでいつもの喫茶店に向かう。

 「喫茶すまいる」という看板の掲げられた店の扉を開けると、既に忍と清実はそろっていた。
「ごめん、おまたせー」
「いいよ、笑喱咖の学部一番遠いもんね」
 清実がフォローを入れてくれる。
「ごめんね、私のために」
 忍は相変わらず浮かない顔だ。いつもかっこいい忍らしくない。
「そんな、いいって。それよりどうしたのよ忍。何があったの? あ、ちょっと待ってね、注文だけするわ。すいませーん」
 馴染みの店員さんに、アイスコーヒーを注文する。忍はアイスティー、清実はアイスレモンティーを注文していた。
「よし、じゃあ、ゆっくりでいいからさ、話せる?」
「うん……」
 少し間を置いて、忍が話し始める。
「うちの学部のね、庄野征也ゆきやくんって子のことなんだけど」
 なになに、恋バナ? でも、それにしては表情が暗いわね。
「「うん」」
「私、今その子に追われてて、逃げてるの。どうしたらいいか、ふたりに相談したくて」
「逃げてる?」
 清実が問う。私も尋ねる。
「どういうこと?」
「実はこの前、庄野くんから私、告白されたの。でも、学部で有名なの。庄野くん、女好きでとっかえひっかえ女の子と付き合ってるって」
「「うわー」」
「だから、ごめんなさい、応えられませんって返事をしたの」
「「うん」」
「そしたら、それからメールがいっぱい来て……」
「なんで忍のアドレス知ってるの?」
 私は尋ねた。
「クラスでメールアドレスを共有してるの。授業の情報交換とか、サークル活動の告知とかのために」
「なるほど」
 清実は納得して相槌を打つ。
「怖くなって、ブロックしたら、今度は庄野くんが授業終わりに話しかけてくるようになって。次急ぐからって逃げるように去るんだけど、昨日、駅まで付いて来られて、怖くなって」
「何それ」
 うわー。ストーカーじゃない、それ。その庄野くんってやつ、危なくない?
「怖かったね。それでどうしたの?」
 清実が尋ねる。
「とりあえず電車に乗って、混む駅で乗り換えて、なんとか撒いたの。でも、これから怖くって…」
「それ、警察に相談したほうが」
「そんな大事にはしたくないの」
 私の提案に、忍が首を振る。
「笑喱咖ちゃん、それに、警察も事件が起きる前じゃできることってあんまりないんじゃないかなぁ」
 たしかに、清実の言う通りだ。うーん、どうしたら…悩んでいると、清実の顔がぱっと輝いた。
「ねえ~、この前入ってきた恒慈こうじくんにボディーガード頼んだらどうかな! もちろん、私たちも付き合うし」
 目をキラキラさせながら、名案! という顔つきで清実が言う。御園みその恒慈くんは、今年の新入部員だ。アナウンス部では、上の先輩たちが卒業して以来、久しぶりの男子だった。
「いいじゃない、賛成ー!」
「でも私、まだ御園くんとちゃんと話したことないし……」
「それなら大丈夫。私、話してみたけどいい子だし、正義感強そうだから、都合がつけば協力してくれるんじゃないかな」
 この前少し話してみたら、悪いことを悪いときっぱり言うタイプで、気持ちいい性格の子だったんだ。
「でも、親しくないのに迷惑かけるなんて」
「同じサークルの仲間が困ってるんだもん。とりあえず、頼むだけ頼んでみようよ」
 そうと決まれば早いほうがいい。サークルのメーリングリストから、「御園恒慈」を探して、早速メールする。

件名:相談(放送サークル 潮田)

御園 恒慈 様

こんにちは。
放送サークルの潮田です。

折り入って相談したいことがあるんだけど、
時間あるときに連絡もらえませんか?

よければ下の番号まで連絡ください。

携帯 080xxxxxxxx

潮田 笑喱咖

「よし、今メールしたから、これで」
 言い終わる前に着信が入る。
「もしもし、御園です。潮田さんの携帯でしょうか」
「もしもし、潮田です。すぐに連絡くれてありがとう! 今、自宅?」
「はい、さっき帰ったところです。相談って何でしょうか?」
「今から出て来られるかな、無理だったら電話でもいいんだけど」
「大丈夫ですよ。放送室ですか?」
「ううん、『喫茶すまいる』って喫茶店、わかる?」
「えーっと、あ、大学に行く途中にあるとこですかね?」
「そうそう。そこに来てほしいの」
「わかりました!」
「ありがとう! 待ってるね」
 無事、恒慈くんが来てくれることになった。
「笑喱咖、清実、ありがとう」
「なに水くさいこと言ってんの、私たちの仲じゃない」
「そうだよ、忍ちゃん。困ったときはお互い様でしょう」
 忍は瞳を潤ませながら、やっと微笑んだ。

「潮田さん、お待たせしました。あれ、みなさんお揃いで」
 息を弾ませながら、恒慈くんが入ってきた。
「恒慈くん、ありがとう。とりあえず座って」
「はい」
「何か飲みたいものある?」
「えーっと、アイスティーでお願いします」
「おっけー。すいませーん」
 先ほどの店員さんにアイスティーを注文する。
「あのね、実は、忍のことで、恒慈くんにお願いしたいことがあるの」
「はい。何でしょうか?」
「御園くん、突然ごめんなさい。実は、大学の行き帰りに、ボディーガードをお願いできないかと思って。困る、よね?」
「別にかまいませんけど」
「え?」
「ほらね」
 さすが恒慈くん、二つ返事で引き受けてくれた。
「恒慈くん、優しいね。ありがとう」
「いえ、それは全然かまいませんけど、よければ詳しく教えてもらえませんか?」
「うん」
 忍が私たちに話したことを恒慈くんにも説明する。
「……ということなの」
 しばらく黙り込んだ恒慈くんだったが、おもむろに口を開いた。
「好意を寄せて伝えるのはいいですけど、ストーカーはいけませんね。佐藤さんが申し訳なく思う必要はないです。佐藤さん、何も悪くないじゃないですか。丁重にお断りされているし」
 やっぱり、恒慈くんは、私の見立て通り、正義感に溢れた真っ直ぐな子だ。
「御園くん、ありがとう」
「それで、どうしましょうか。僕が佐藤さんの家を教えてもらうのもあれなんで、潮田さんと鈴木さんがお迎えに行って、どこかで待ち合わせするっていうのはどうですか?」
「いいね、忍、清実、どう?」
「いいと思う」
「でも、三人とも、毎日それだと負担じゃない?」
「それくらいお安いご用よ」
「今まで忍ちゃんにいっぱい相談に乗ってもらってきたんだから、今度は私たちに返させて」
「僕は全然負担じゃないですよ。この喫茶店前集合とかにします?」
「「賛成ー」」
「帰りは連絡くれたら忍の学部まで行くから、恒慈くんは放送室で待っててくれる?」
「わかりました」
「決まりだね」
「それと佐藤さん、ちゃんと防犯グッズ持ってたほうがいいですよ。僕たちもずっと付いていられるわけじゃないですし」
「そうね。防犯ベルと、スマホはいつでも110番呼べるようにね」
「モバイル充電器も持ってるといいよね。私たちがついていられないときは、タクシーとか使うといいかも」
「みんな、ありがとう。うん、防犯グッズも準備するね。じゃあ、迷惑かけるけど、よろしくお願いします」
 忍が深々と頭を下げ、私と清実は顔を見合わせ、両肩をそれぞれそっと叩いた。

***

 こうして、忍の送り迎え、集団通学SP大作戦が始まった。行きは喫茶店、帰りは放送室で待ち合わせ。忍の言う通り、通学中、また帰り道、庄野くんの影がちらちらと見え隠れしていた。しかし、見かける度に私たちや恒慈くんが鋭い眼光で睨みつけると、庄野くんは逃げていった。しばらくすると、庄野くんを見かけることはなくなった。

「みなさん、おはようございます」
「「「御園くん、おはよう」」」
「あの、僕、友だちに聞いたんですけど、庄野さん、今別の女性に夢中だそうですね」
「そうなの?」
 かー。懲りないやつだなぁ。
「なんか、その女性が友だちのサークルの先輩らしくって」
「なんとも言いづらいけど、とりあえず忍はもう安心できるね」
「よかったね、忍ちゃん」
 みんなで忍の顔を覗くと、忍の瞳から涙がぽろぽろと零れていた。
「忍ちゃん!?」
「忍! 大丈夫?」
「佐藤さん」
「みんな、ごめん。ずっと緊張してたから、安心したのかな。あはは」
 忍、そりゃ怖かったよね。ずっと好きでもない男の人から追われてさ。私たちだって、ずっと付いていられるわけじゃないし。私も清実も、なんと声をかければいいか迷っていた。
「佐藤さん、謝らないでください。何度も言いますが、佐藤さんは悪くないですから。我慢しなくて大丈夫ですよ」
「御園くん……」
「恒慈くん、いいこと言うね。そうだよ、忍ちゃん。私たちの前で、いつもかっこいい忍ちゃんでい続けようとしなくていいんだからね。みんな、恒慈くんみたいな人ばっかりだったらいいのにね」
「忍。誰もあんたの涙を笑ったりしないよ。ほら、私の胸に飛び込んでおいで」
 そう声をかけると、おずおずとこちらを向いて、ぽすんと体を預けてきた。嗚咽を漏らしながら震える体を精一杯抱き締め、清実が背中を懸命に擦った。恒慈くんは、優しいまなざしで見守ってくれていた。

***

「あー緊張します」
「ふふ、恒慈くん、今日が初めてだもんね」
「大丈夫よ、いつもの恒慈くんで」
「うん、よろしく、御園くん」
 まもなく、三人のラジオに、恒慈くんが加わって配信する。いよいよ、恒慈くんのラジオデビューだ。記念すべきデビュー配信は、恒慈くんのかけ声から始まる。みんなにこにこしながら緊張する彼を見守る。

 5、4、3、(2、1)

📻️

いかがでしたでしょうか。
毎度そうですが、誤解のありませぬように、念のため補足させていただきます。
本作品の登場人物は実在する人物とは一切関係ございません。
私の小説の登場人物はすべてそのようにご理解いただけましたら幸いです。

***

余談ですが、私、過去四度ストーカーに遭っておりまして…
高校のクラスメート、大学の別学部の人二人、営業先の人です。
それとは別に、SNSに知り合いなら読めば私のことだとわかる悪口を書き込まれ続けたこともありました。
その人たちは、周りの友人を巻き込んだり、人目のないところで脅してきたりと、なかなか陰湿なものでした。
幸い知り合いばかりでしたので、その度対策をとってきたのですが、何度経験してもしばらく本当に怖くて、人間不信になるものです。
でも、彼らは純粋に相手に好意を寄せていて、それが行き過ぎていることに気づいていないんですよね。やめてほしいと伝えても、別に直接何かしてるわけじゃない、好きなだけなのに、くらいの感覚なんです。
相手が弱い立場だと思っていることが多いから、強い味方をつけると意外と解決したりします。
それでもだめなら、遠慮せず然るべきところに助けを求めたほうがいいです。何かあってからでは遅いですから。
何か、というのは、目に見える実害だけでなく、心身のトラウマも含めてです。
クリエイターさんは大丈夫だと思うので言うまでもないのですが、ストーカーに限らず、行き過ぎたことはやめましょうね。自戒を込めて。

すみません、暗い話になってしまいました。
「すまいるスパイス」は、これとは関係なくめちゃくちゃ明るく笑いが止まらない、それでありながら深い話も繰り広げられる、聞いて損はない配信で、楽しい一時間を過ごせます✨

※すまスパのみなさんへ
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