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このまえの話

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このまえあったこと
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側溝のうえの麺と貝をまたいだ

 側溝の上の麺と貝をまたいだとき、暑い、といまさら思った。でもこの暑さが空気の持ちものなのか通行人大勢の持ちものなのか解らなかった。今日は何日か続いたお祭りの最終日だ。その夜だ。もうすぐお祭りが終わろうというタイミングだ、が、往来は途切れない。

 会場には、香ばしいとも形容しがたい、ほのかに腐ったような甘いにおいが満ちており(本来は香ばしいだけのにおいをマスクが変換しているのか)、かつ、運営者の

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ファイナルデッドブリッジを観て

中学のころ、ファイナルデッドブリッジを観た。この映画の冒頭では橋が落ちる。大勢死ぬけれども、数名が助かる。でもその数名も次々死んでいく。なぜなら、死からは逃れられないので。つまり、“死”から逃れたあとも、“死”から追いかけられ続ける、という構図。

私はそういう映画を観るのにはまっていて、勉強も部活も二の次になった。疲労骨折と偽って、陸上部の、長距離走の大会を休んだ。そのようにふまじめな部員だった

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ワクチン接種

何度も電話したがいつまでも予約が取れず、しかしどうにか予約が取れ、そしてワクチン接種の日になった。車に乗り込んだ。それから自分の便意に気づいたが、予約の時間が近づいていたので、発進した。

会場に着いた。トイレに行く時間はなさそうだった。受付に問診票を差し出すと、受付のひとはパソコンを触って、「あなたの予約は入っていません」と言った。私は脇によけた。携帯で予約を確かめると、会場を間違えていたことが

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バス停から叫び

私は道を歩いていた。気づくと左に男子学生三人組がいて、つまり私は彼らとしばらく前から併走しているというわけだが、いま、学生のうちのひとりが、「あ、バス停あるじゃん、じゃあ俺バスで帰るわ、じゃあな」と残りの学生ふたりに告げ、バス停のそばに立ち止まった。だから私は今後、バス停に留まった以外のふたりと併走していくことになる。

少し歩いたとき、背後から声がした。「おーい」。おそらく、バス停に留まった学生

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あなたが掃除をするとき思い出すべきたったひとつのこと

 友人Aが小学生の頃、同級生にダンサーがおり、すべてのダンサーが高飛車だと相場が決まっているわけではない、しかしそのダンサーは高飛車だったから、「あのダンサーは高飛車だ」ということで、クラスメイトから疎まれていた。

 ある日、大掃除があって、それは机から椅子まですべて裏返し、机の底から椅子の足まですべて拭き切るという日だ。Aは『机拭き係』だったから、机を拭いた。順調に拭き進め、ダンサーの机をひっ

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夫婦別姓を選ばなかった方に

 先日、Aは飲み会に参加したのだが、そのなかにひとり、最近結婚した者がいて、それをBとしよう。Bはみんなからお祝いの言葉をかけられ、終始幸福そうだったらしいのだが、あるとき突然、「わたしって今まで五文字。苗字と名前合わせて五文字だったけど、結婚したらねえ、四文字に減っちゃうんだよ」と言った。みんなが笑った。別に笑うほどのことではない。大したことは言っていない。だから反発したくなったのか、Aが、

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あなたがアニメに詳しくなれた理由

 友達のお母さんには友達がいないから、休みの日はずっと家にいる。だが、友達がいないことも休みの日ずっと家にいることも、お母さんからすれば「普通のこと」であり、「別に悲しくはない」。

 休みの日、お母さんはずっとパズルを解いている。周りの数字を頼りに、色鉛筆でマス目を塗っていき、完成すると絵柄が出る。

 お母さんが買っているパズル雑誌はいろいろあるが、その中には、アニメのキャラクターばかりが答え

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なぜ人は詐欺に引っ掛かるのか

夜、ファミレスの駐車場に入ると、暗くて線がよく見えなかった。目印となる車も近くにない。停車したあと、脇を見やると、私の車が同じ列のほかの車より少しズレているのが解った。しかし車はまばらだから、このままエンジンを切るがいい。私は外に出た。ファミレスに入った。

隣の席に若い男がいた。ふたり。先輩後輩らしかった。

先輩が、「そして、順番に電話を掛けていってくれるかな。そう、そのLINEの友達の、上の

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嘘のすべらない話

これ友達から聞いた話なんですけど、その友達の安田君っていうのが、先日引っ越しをしたんですよ。電気とかガスとか全部止めて、部屋とかトイレとか掃除して、新居に移って。でも、あとアパートの管理会社との立ち合いだけ残ってるみたいな状況で。

いろいろ事情があって立ち合いだけは別日に設定しちゃったんで、立ち合いの日、立ち合いのためだけに、リュックひとつだけ担いで新居から昔のアパートに戻ったらしいんですけど。

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なぜあなたは家族と解り合えないのか

両親が離婚寸前となっている。別にそれはどうでもいいのだが、父のほうは離散を防ごうと躍起になっているらしい。

父がある日、父と姉と私のグループラインに、悩みを吐露した。「何も迷惑かけてないのに、(母は)何が不満なんだよ」という内容を。

父親が子供に不安や不満を打ち明けることに、なんら問題はない。よその父親がよその子供に不安や不満を打ち明けていた場合、私はその家族を、「風通しのいい、いい家族」と判

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なぜあなたは他人の結婚を祝えないのか

結婚はすばらしい。なぜなら、楽しいという感情を、私に与えるため。

先日、中学時代の部活のラインがひさしぶりに動き、誰から言い出したのだったか、オンラインで飲み会を開くことになったのだが、私は不参加であるため、「今から始めるよ」「これちゃんと招待できてる?」「しっかり〜笑」といったやりとりを、プッシュ通知で眺めることとなり、とても楽しかった。

しばらくしてプッシュ通知はなくなり、ビデオ通話が始ま

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なぜあなたは担任の言葉を忘れられないのか

子供時代の担任の発言はいつまでも胸に残る。卒業シーズンの今だから、そのことをよりいっそう強く感じる。

小学5年のころ、体育のあとにマットを片付けていた。その作業のなか、偶然私と担任が二人だけで体育倉庫に入るかたちになった瞬間があり、そのとき偶然奥の壁に落書きを見つけた。私のクラスの男子に向けた、辛辣な悪口だった。

釘付けになった私を心配して、担任が寄ってきた。彼も壁の悪口を見とめた。

そこか

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なぜあなたの話にはオチがないのか

職場のシャワー室にいるとき、扉のむこうから先輩の声がした。

「この前の休みの日、頭痛がしまして…」

それを課長がうんうんと聞いていた。私は盗み聞きすることした。

先輩が話し続ける。「気になったので脳外科に診にもらいに行ったんですよ…そしたらMRI撮ることになって」

おもしろくなりそうな導入だった。

「MRI上は何ともなかったんですけど、じゃあこの頭の痛みは何だろうって思って…睡眠に問題で

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なぜあなたは体を大事にしないのか

妹が妊娠した。

その後家族で集まる機会があって、ワクチン接種の話になった。受けるのも怖いし、受けないのも怖い。さてどうしようかという話になった。

しめっぽくなるのもアレなので、私が「なかなか悩むなあ…もう私も自分だけの体じゃないんでね」とちょけてみると、妹はウケていた。

妊娠でもすれば変わるのだろうが私はけっこう刹那的に生きていて、車の運転とかを割と乱暴にしちゃう。運転とは別だが、先日凍った

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